2014年12月1日月曜日

タクシーストーリー第21話~猫がいなくなりました3

「猫が、庭から覗いてたんですか」

客観的にそれほど珍しい話でもないような気がする。

「はい」

「『覗いていた』わけではなくて、そこにいただけなんやないですか」

猫がその辺にいることなんて、よくある話である。

それを「覗いてる」「俺を見ている」というのは、ある意味「自意識過剰」ではないか。

この仕事していて、年配の乗務員と話をすると、とにかく「自意識過剰」が多い。

「前の会社では、部長に嫌われてた」

「自分のせいでプロジェクトがダメになった」

なんていうのは、まだ控え目で良い方で、

「みんな俺を頼って、自分がいなくちゃどうにもならなくなって疲れた」

「複数の女性社員で自分の取り合いになっていられなくなった」

おいおい、

と突っ込みたくなるような「ポジティブ派」に比べたら

まあ「猫」に対する「自意識過剰」は許したくなる 。

「そんなことありません。間違いなくわたしを見ていました」

「何故そう思うんですか?」

ルームミラーを見ると、乗客はちょっとやばいくらいに目を見開いていた。

その勢いに俺は思わず(ミラー越しに)目を逸らした。

「運転手さん、『たいま』ってご存知ですか?」

「『たいま』ですか?あの時間を計るやつですか」

「それは『タイマー』です。『たいま』、草のことです」

「『草』ですか・・・『大麻草』のことですか」

ミラーは見なかったが、男性が笑みを浮かべたのが気配で分かった。

「はい 。やめられなくて・・・部屋でやってたんです」

どうリアクションしたら良いんだろう。

話は面白くなってきたのかもしれないが、さすがにそこまで冷静になれなかった。

ハンドルを持つ手が震えてきた。

そこまで話さなくても・・・

「あの・・・」

何か言おうとした俺の言葉を遮ってくれたことに少しホッとした。

「それで彼女にも逃げられました。新しい家で、一緒に住み始めて、彼女にも勧めたんです。今思えば、彼女も苦しんだんでしょうね。苦しんだ末に家族(両親)に話したみたいです」

「はぁ・・・」

「あるとき彼女の親父さんが家に乗り込んできました。食事中でしたが・・・テーブルの皿をかき回して、そのうちの1枚をわたしに向かって投げてきました」

「奥さん・・・いえ、その・・・(彼女も)そこにいたんですか」

「はい、泣き喚いて叫んでいましたが、何を言っていたのか今でも思い出せません。そのまま父親が彼女を連れ帰って、その後は連絡も取っていません」

「携帯は・・・」

「番号を変えたみたいですね」

次に何を話したら良いんだろう。

「それで、猫は・・・」

「そのときもずっと見ていました」

9 件のコメント:

  1. 凄い展開ですね。
    車内が、人生相談的な空間になっておりますね。
    この仕事、もっと気楽?に仕事したいですね。

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  2. GomaChanさん

    車内の人生相談はよくありますよ。
    「何でも良いから誰かに話したい」という需要(?)に対しては最もマッチするのがタクシーの車内かもしれません。

    大事なのは、利用者に気持ちよく話させる技術、引き出す技術、自分の話ばかりするドライバーは論外ですが、ただ黙って相槌を打つだけでも顧客満足は得られません。

    「気楽」の中に、「(良い意味の)スリル」もあるのがタクシーやないですか。

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    1. そうですね。
      私も、若い女性から相談された事がありました。
      丁度、息子でも経験した事項でしたので、アドバイスした経験しました。
      見ず知らずの人に話すのは、余程の事ですから、こちらも真剣になってあげないといけません。

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    2. >見ず知らずの人に話すのは、余程の事ですから、こちらも真剣になってあげないといけません。

      その通りですね。

      その辺は重かったりすることもありますが、「見ず知らず」だからこそ話してくれてるんやな、と思うと肩の荷も下りて面白かったりもしますよね。

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  3. はじめまして!こんばんは(^^)
    私は、神戸でタクシードライバーになりたての新人です!
    このブログ大変参考にしております。
    できれば、新人向けの投稿などもしていただけるとありがたいです!

    あと、brackcabさんも神戸でお仕事されてるんですか?

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    1. ありがとうございます!

      神戸ですか!現在は厳しい地域ではありますが、将来性はあると思います。

      近いんでお会いする機会があれば良いですね。
      メールリンクあるんで、気が向いたらよろしくお願いします。

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  4. 「タクシー狩り」と称して走行中のタクシーを自転車で取り囲み、運転手にけがをさせたとして、兵庫県警は同県尼崎市内の14~17歳の少年5人を傷害容疑で逮捕したと8日発表した。
    5人は「暇つぶしだった」「嫌がらせでこれまで10回ぐらいやった」などと話しているという。
    尼崎東署によると、逮捕されたのは14歳の中学2年生3人と高校1年生(16)、無職少年(17)。
    5人は11月28日午後10時ごろ、尼崎市神崎町の市道で、タクシーの走行を自転車で取り囲んで妨害。
    窓を開けて注意した男性運転手(67)に対し、1人がプラスチック製の棒(約2メートル)で、顔に約1カ月のけがを負わせた疑いがある。
    少年らはタクシーを狙った理由について「一般の車だと怖い人が乗っているかもしれないので、客を乗せていないタクシー運転手を狙った」と話しているという。

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  5. 今現在、タクシー専用車両として売られている車はトヨタのコンフォートしかない。まあ一般ユーザー向けにも販売されているんだけど、工場出荷時にLPG燃料で走ることを前提に売られているのはコンフォートだけだ。数年前に日産のクルーが生産中止になってからはずっとこの状況が続いている。Y31セドリックも一応新車で買えるんだったかな?でも今Y31なんて買うのはごく少数だと思うので。このコンフォートという車、グレードによってはクラウンの冠がついているけど、ベースになったのは、X80系のマークII。コンフォートは'95年からの生産だけど、X80系マークIIのラインオフ は'88年なので、基本設計はもはや20年以上前の車なんです。実際この車を運転した事がある人は業界の方以外は少ないと思うけど、まあ走らない曲がらない止まらない。初めて運転した時に「なんじゃこりゃ?」とびっくりしたのを今でもはっきり覚えている。'08年にマイナーチェンジでエンジンが1TR型になってからエンジンパワーだけはマトモになったけど、重心の高い車体は従来のままで且つエンジンの重量が重くなりバランスが崩れて、個人的にはかえって運転しにくくなった様に思う。流石にもうそろそろ限界なんじゃないの?と思ってた。何処かのメーカーで早く新型のタクシー専用車両出さないのかなって。そんな僕の想いが通じた訳では当然ないだろうけど、去年のモーターショーにトヨタから遂に登場しました、JPN TAXI CONCEPT。新型のタクシー専用車両のコンセプトモデルです。少し前にNYのイエローキャブに採用された、日産のNV200程ではないけれど、背の高いハッチバック式のボディに機関はLPGとモーターのハイブリッド。お客さんが乗り降りする左リアのドアはスライド式、開口部も広く、サイドシルも低い。正にタクシー用に使う事に特化した造りで、初めて見た時は心の中でおお〜と歓声を上げたものだった。待ってたんだよねこういう車両。高い屋根もLPGハイブリッドの機関もいいけど、一番使いやすそうだなって思ったのは左リアのドア。ご存知の通り、日本のタクシーのドアは乗務員が開閉するけど、実はあれってお客さんへのサービスの為の自動ドアじゃないんですよ、事故を防ぐ為にお客さんは勝手に開閉しないでくれ、開閉は乗務員に任せてくれ、って意味合いで付いているモノなんです。日本の道交法では、停車している車のドアが後続の車や自転車、バイクに接触した場合、10:0の割合で事故はドアを開けた車の責任になる。タクシーの場合ドライバーがその責を負う。そういう事態を防ぐ為のモノなんですな。これタクシー豆知識。ちなみにこういう形でタクシーに自動ドアが付いているのは日本だけ、らしい。事故の事もだけど、左右開きのドアって狭い場所なんかでは使い勝手悪いしね、これはなかなかいいアイディアだな、と思いました。まあそういう車体の造りの事もだけど、僕が一番気に入ったのは、車両のコンセプトそのもの。実用に徹したハッチバック式のボディ。全然フォーマルでは無いけれどそこが凄くいい。僕は常々思っていたんです、セダン型のボディでショーファードリブン気取り、もうやめようよ、って。そういう僕のタクシー哲学?にばっちりハマる車体だ。昔はタクシーってのはそういうものだったかも知れない。安くないお金払って、ショーファー(お抱え運転手)を雇う。大昔はね、そういう乗り物だったんだろう。でも、今はそうじゃないじゃない?大方のお客さんにとっては単なる移動手段。もう何十年も前からね。それなのに、大昔の様式だけがガラパゴス化しちゃって今に至ってる。今でもいるけど、白い手袋はめてるタクシー運転手なんかはその名残なんだと思う。僕は絶対にはめないけどね。これは、きっとなかなか賛同が得られない考えだろう、現役の運転手の先輩方からもそれは違う、とか言われるかも知れない。きっと言われるだろう。でも、これは僕の中では確信ですね。もうそういうの古い。もっと合理的に考えよう。というのが僕の考えです。もっとキツい言い方をすれば、役者じゃないんですよ、ドライバーもお客さんも。運転手だってお抱え運転手を演じる程の技量もなければ、お客さんだってお抱え運転手を雇うような身分じゃないでしょ?ものすごく失礼な言い方だけど。いや、都会はどうだか分からないけど、僕が営業している田舎町は確実にそう。そりゃ中にはフォーマルなお客さんもいるけど、20人に一人もいないんじゃないかなあ?いや、そんなモンじゃない、ショーファーのクオリティをドライバーに求めてくるお客さんなんて月に一人居ればいい方だ。本物のショーファー、お抱え運転手って、かなり特殊な職業だと思うんですよ、本来。それなりの訓練を受けた人がそれなりの賃金を貰ってやる仕事なんだと思う。運転の技量もそうだし、車内という密室の中では言葉遣いや身だしなみにも要求されるハードルは本来かなり高いものの筈だ。だから、さらに言葉汚く言い換えれば、ドライバーの立場から言えばこんな待遇でそんなクオリティの仕事やってらんない、というのが本音です。でも現状ではすべてのタクシーが暗にそういうガラパゴス化しているなんちゃってショーファー的な様式にハマる事を要求されてる。話が盛大にズレました。しかもどんどん大袈裟且つ極端になりました。でも、この辺の先入観が、タクシーあるあるネタの根深い原因のように思えてならないんですよね。自分でも極論だと思いながら書いてるけど、正しい自動車文化の歴史なんかを紐解きつつ考えれば決して暴論ではないと思う。ガラパゴスの殻を破るのは本当に大変な事だと思う。まして今回のエントリに書いたような事は全くのジャパンローカルの問題だ。本来はタクシー会社が主導して変わっていくのが本当なんだろうけど、僕が知る限り業界は僕が考えるタクシーの在り方とは反対の方向に向かっている気すらする。
    白手袋もそうだし、迎車の時に、例え吹雪の中でも直立不動でお客さんが出て来るのを車外で待ってたり、手を挙げて停めてくれたお客さんを乗せるのにドライバーが運転席から飛び出て行って外からドア開けたり…もう考えが合わない人には充分に嫌われただろうからダメ押しするけど、僕にはアホにしか見えないのね、そういうの。もうやめようよ、って思う、心底。
    で、僕はこのJPN TAXI CONCEPTの、ほんのりカジュアルな佇まいに、頑丈なガラパゴスの殻を破る糸口みたいなものを見出せる。これを機に住み分けちゃえばいいんだ、なんて夢想したりする。タクシーを単なる移動手段にする人はこっちに、ショーファーのクオリティを求める人はクラウン等大型に、って。もしそうなれば、首都圏のタクシー会社ではドライバーの間で黒塗り大型車の取り合いになるのかな?でもそれならそれでもいいよね、大型に乗りたい人は努力してそれなりの技量を身に付ければいいんだから。晴れて大型に乗れればそれはその人のプライドになるんだろうし、そういうのダルいからオレは小型でいいッス、って人も絶対にいるだろうから。僕は間違いなく後者。自分、そういうのダルいんで。大丈夫、今の世の中の流れや日本人の気質からいって、小型は昔みたいな雲助ドライバーだらけ、なんて事にはならないから。

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  6. 発表によると、容疑者は同日午前0時40分頃、自宅近くの市道で、男性タクシー運転手の顔を殴るなどして2週間のけがを負わせ、乗車料金1万8000円を払わずに逃走しようとした疑い。
    同署は容疑を強盗致傷に切り替えて捜査している。
    同署幹部によると、容疑者は4日午後11時40分頃、銀座でタクシーに乗り、自宅近くに着いたときは眠っていたという。
    調べに対し、「料金が高いと思い、殴ってしまった」と話しているという。

    年末年始、これからタクシー事件が増えていきます。皆さん、催涙スプレー等を用意しておきましょう。

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