2023年1月31日火曜日

雪の日の車内での会話

 「いやー、よう降ったね」

「よく降りましたね」

「道は大丈夫?」

「ところどころ滑りますけど、まだ大丈夫です」

「やっぱりプロやね、わたしら、(こんな雪道)よう運転せえへんわ」

「いやこれだけ積もると、怖がって出てこないドライバーもいますよ。安全を第一に考えるのであれば、こういう日に乗務を控えるドライバーの方が『プロ』なのかもしれません」

「そうか・・・でもあんたらがいてくれるから、わたしらも動けるし、病院にも行けるねん」

小太りで、薄いピンクのセーターを羽織っている年配のおばあさんは嬉しそうに言った。

年齢は80前後だろうか。

「こんな日は管理者の自分も現場に出られるし、雪が降ったらテンション上がりますよね。もちろん安全第一ですが」

「これから受験なんかで雪降ったら、受験生も大変やね。今年は孫が受験なんやけど」

「そうなんですか。お孫さん、そんな大きいんですね。そんな風に見えませんが(おきまりのお世辞)」

「そんなこと言われたらうれしいわ!こう見えても、孫7人おんねんで」

「そうなんですか!(そう見えますが)かわいいでしょうね」

「そら、孫はかわいいで。うちは娘ばっかりで、息子がおらへんかったからな」

「お孫さんは男の子が多いんですか」

「2人男の子やねん。一番上の子は阪大(大阪大学)行っとんねんで」

「(やっぱ男少ないな…)阪大ですか!」

「いや、大したことないんやけどな(笑)」

「いや、阪大はすごいですよ。自慢出来ますよ」

「そうか、こんなん、いろんなとこで言っとったらな、自慢や思われて敬遠されんねん。でも言いたいやろ(笑)。だから知らん人に言うねん」

「知らん人」で十分。

話を聞くだけで社会の役に立ってる?

こんな楽しい仕事はないな、と改めて感じた瞬間やった。

コロナも終わりつつあるし、これからまた最高の「知らん人」目指して、そろそろ現場に戻ろうかな。

2022年12月31日土曜日

いよいよタクシーの時代が来た!

 ここへ来て、本当にタクシーの時代が来た

ほんまにそう思える。

コロナは業界にとって試練だったが、それもまた業界が一皮剥けて、新しい景色を見れる。

そう感じれる1年でした。

来年こそ、タクシーを楽しみましょう!

2022年11月30日水曜日

55割の終わり

 いよいよ大阪に長く蔓延ってきたタクシー安売りの根源、「55割(5000円以上5割引き)」が終わりを告げようとしているという噂を聞く。

このブログのタイトル説明にもあるが、タクシーの適正料金の追求こそがドライバーの質を高め、延いては

タクシードライバーの社会的地位の向上

という大きなゴールにたどり着く。

ここで、「55割(ゴーゴー割)」とは何か、説明しておこう。

55割とは大阪を中心に広がっている、「メーター料金5千円以上5割引き」という思い切った(無謀な)料金割引制度である

これは誤解されがちであるが、メーター料金が5千円を超えたら全て半額になるというものではない。

メーター料金が6千円として、5千円を超えたから半額の3千円になるのではなく、5千円を超えた額(千円分)を半額にするというもので、この例なら「5千5百円になる」ということである。

上の例なら、結果的に割引率は1割にも満たない。

しかし大阪から名古屋まで行ったとしたら、約180キロ、現在の大阪の料金で加算1キロ330円としたら、55割がなければ約6万円になる。

時間として普通でも約3時間かかるが、当然渋滞もある。

タクシーは高速道路の渋滞ではメーターは上がらない。

4時間かかっても料金は同じである。

5千円以上5割引きだから6万円のメーターなら32500円になる

消費税を抜いたら3万円に届かない。

さらに帰りに高速を使って帰れば、現状多くの事業者が空車時の高速料金がドライバー負担になっている。

名古屋から高速で帰れば、7~8千円の通行料がかかり、歩率(歩合給の率)が50~60%とすれば、ドライバーにはほとんど残らないことになる。

32500÷1.1=29545(税抜き営収)

29545×0.5=14773(歩合でドライバーが受け取る額)

14773-7000=7773(帰りの高速料金を引いたドライバーの取り分)

往復で少なくとも7時間はかかるだろうから、時給1000円か、またはそれを切る程度のものになる。

下道で帰れば高速料金の負担はないが、往復で10時間を超えるほどの時間がかかり、休憩を含めたら、やはり時給1000円程度にしかならない。

大阪から名古屋までの夢のようなロング客をゲットして最低賃金である。

ドライバーになって数年は、遠くに行けるだけで実入り以上の喜びを感じるものだが、慣れてきたら感じるものは「疲労だけ」としか言えない。

また20年前の小泉政権の規制緩和によって激増したタクシー台数により、この悪しき料金体系が生まれたのだが、その頃は確かにタクシーが余っていた。

その政策云々を今更言う気はないが、

今は既にタクシーが足りない時代に入っているのである

大阪から名古屋までのロング客を乗せている間に、大阪市内ではタクシーを探す客に溢れ、乗車出来ずに困っている利用者もいる。

市内で近距離の乗車を10時間続ければ、3万円を超える営収を稼ぐのは難しくない。

もはや今、タクシーにロングの客はそれほど必要ないのである

遠くまで乗るならそれだけの料金を頂かないと、ドライバーにも業者にもメリットはない

高くて嫌なら、「乗らない」という選択をしてもらったら良いだけなのである。

しかしねぇ、タクシーに乗っている以上ロング客はいつになっても「ロマン」であることに変わりはない。

そこは金じゃないよ

という意見もあるかもしれないし、

5桁のメーターの左側が動いていくのは、ドライバーにとってのエクスタシーである

というところもあるだろう。

半額でも良いやん

この「55割」という奇妙な料金体系は、「値切りの街」大阪のドライバーが20年にわたって支えてきたもので、それがなくなりつつある今こそ、彼らにリスペクトをするときなのかもしれない。


2022年10月31日月曜日

タクシー料金について

 来月14日より、東京地区でタクシーの運賃改定(値上げ)が行われる。

現在初乗り1.052キロで420円のところ、1.096キロで500円に、加算メーターは現在233メートルで80円のところ、255メートルで100円となる。

そもそも1.052とか、1.096ってなんなん?

とも思うが、陸運局の人たちが一生懸命「原価計算」とやらをした結果らしい。

目的は分かりにくくすること

と思われても仕方がないような料金体系ではある。

タクシー料金について、よく「初乗り料金」が議論されるが、そもそも地域によって「初乗り距離」もバラバラであることは意外と知られていない。

東京が420円とか、500円とか地方(多くは600円台)より安いわけではなく、東京は初乗り距離が短いため、表面上初乗り料金が安く見えるのである。

タクシー料金において重要なのは、加算距離である

距離料金自体は加算距離で計算出来る。

例えば今回の東京の料金は255メートルで100円なので、

1000(1キロ)÷255(加算距離)×100(加算料金)≒392.15...(1キロあたり料金)

1キロ約392円と計算出来る

従来の料金で上の計算をすると、1キロ約343円になるので、14%程度の値上げになる。

この10月に消費者物価上昇率が3%に達したと大騒ぎしている中で、タクシー料金の上昇率は非常に大きいと言わざるをえない。

ちなみに1キロ392円なら「初乗り料金」とは何なのか?

392(1キロあたり料金)×1.096≒429.63

初乗り距離の料金は本来約430円となる。

500(初乗り料金)-430(距離料金)=70

70円の差額は何かと言うと、これがいわゆる「乗車料金」ということになる

乗車料金は英語では、「flag fall(フラッグフォール)」または、「flag down(フラッグダウン)」などと言い、要するに「(乗車出来ますよという)旗を降ろす」ことを表す。

ただ日本においては、この乗車料金という言葉自体がない

初乗り料金はわずかな乗車料金と初乗り距離の料金を含んだ料金であり、そのこと自体にほとんどの利用者は気づいていないし、重要性も感じていない。

ちなみに今回の東京の乗車料金は従来の約60円から約70円に10円ほど上がるだけである。

海外の料金設定においては、この乗車料金が利用者の乗車の判断材料となる。

日本の料金体系において隠されているこの「乗車料金」は、あまり値上がりしない

従来の初乗り距離を少し超える距離、例えば1.08キロほどを乗車した場合は料金は500円で変わらないということになり、14%もの大きな値上げをするにも関わらず、利用者に値上がり感を感じさせない絶妙なマジックとなっているのである。

そもそも日本においてタクシーという乗り物自体、非常に高い

乗ろうか、乗らまいか、迷うような状況であれば当然乗らない選択肢を取るのが自然である。

乗らなければならないような状況に置かれている(追い詰められている)からこそ、タクシーに乗るのである

多くの場合、そこに価格等々の判断材料なんてもの自体が存在しないのである。

これからもタクシー乗務員の減少を止めることは出来ず、供給が追い付かない中で、料金のさらなる上昇も避けられない。

しかしタクシーという乗り物は、そこに競争がなければ、今の倍の料金になっても利用がなくなることはない。

今後我々はその原資を、乗務員、車両、システムの質の向上に効率良くつぎ込み、この業界の姿を変えていくことが出来るか。

面白い時代がやってきたと感じる(利用者は面白くもなんともないやろ)

2022年9月30日金曜日

タクシーGO(タクシー車内での会話)

乗客(以下「客」):「タクシーGOってどうなんですか?」

ドライバー(以下「ド」):「どうなんですかって…?」

客:「いや、最近みんなGO、GOって、『ジャパン(タクシー)』とか、『ゴー』とか」

ド:「郷ひろみ…みたいですね」

客:「わたしGOアプリ、使ったことないんですよ」

ド:「なんでですか?」

客:「いや、なんか怖くて」

ド:「何が怖いんですか?」

客:「あんなんで本当にタクシー来るのかなって」

ド:「アプリは入れたんですか」

客:「はい」

ド:「試しに使ってみたらどうなんですか?(一度呼んだら、はまるタイプやな)」

客:「でも友達に聞いたら、GOで呼んでみたけどなかなか捕まらなくて、結局電話で呼んだ方が早かったって」

ド:「それは電話で呼んでみないと、(どっちが早いかは)分からないじゃないですか」

客:「そうですかね」

ド:「アプリで呼んでタクシーが来ないってことは、近くに空車がない、または駅や乗り場に乗客が待っている状況で、アプリ配車を取るメリットがないという時間帯やエリアということだと思うんですよ。そんなときは結局電話で呼んでも捕まらないのかなと」

客:「メリットがないって、運転手さんが客を選んでるってことですか?」

ド:「鋭い質問ですね…でも、答えは『イエス』と言わないといけないでしょう。そういう時代になってます」

客:「選ばれるには、どうしたら良いんですかね」

ド:「またまた鋭い質問ですね。単純にある程度の距離乗られる(3千円以上など)のなら行き先を登録するとか、大きな道の停まりやすい場所まで出て、ドライバーの分かりやすいところを乗車地として指定することかな。稼ぐドライバーは効率を考えますから」

客:「別に『稼ぐドライバー』に来てもらわなくても良いときは?」

ド:「稼がないドライバーはそもそもGO配車取らないでしょう(笑)。年配の方とか、そういうの苦手ですから」

客:「そうなんですね。運転手さんは(若く見えるけど)GOとか取らないんですか?」

ド:「いやGOは付けてないんですよ」

客:「なんでですか?」

ド:「いや、なんか怖くて(配車手数料が)」

2022年8月31日水曜日

タクシーのEV化について

 タクシーのEV化については、随分前から議論されているが、なかなか進んでいないというのが現状だろう。

EV化が進まない要因として考えられるのが、

①航続距離

②付加価値

③業界の未来像が見えていない


①に来るのは航続距離であろう。

元々最も大きな問題はコスト面であったが、これについては年々コストは下がっており、現在は300万円台での調達が可能になっているようである。

https://evdays.tepco.co.jp/entry/2021/11/09/000023

この程度の金額で車両が調達出来れば、ジャパンタクシーのコストと大きく変わらなくなってきている。

しかし一般の車両価格と比較して、タクシー車両は架装費用(タクシーメーター、行燈など)がかかるため、相当額の追加費用を付加しないといけない。

そこを公共の補助金などでクリア出来たとしても、問題になってくるのが、「航続距離」である。

現在この部分も日々進歩していて、1回の充電で500キロ近く走行可能な車両も出てきているようである。

ただ、航続距離の長い車両は当然価格も高くなるし、実際メーカーが公表する航続距離は、アイドリングすることなく、常に走っている状況での距離である。

タクシーは待機時間等アイドリング時間が長く(アイドリングストップの技術も進歩しているが、待機中にストップしてしまうとエアコンもストップすることになり、現実的にはオンのままで待機することになる)、公表されている航続距離よりかなり短くなるはずである。

500キロ走れる車両で多く見積もっても300キロだろうか。

都市部の営業においては、ギリギリまたはやや不足する距離数である。


②付加価値

コスト面や航続距離の問題を考慮しても、それを上回る付加価値があれば、導入する効果はあるのかもしれない。

しかしタクシーの料金は陸運局(国土交通省)認可により規定されており、付加価値を価格に転嫁することは現状難しい。

EVタクシーを導入することで、顧客がそれを選択し、その事業者の利益がそのコストを上回るほどに向上するという「付加価値」が必要になる。

EVタクシーだから、音が静かで乗り心地が良い、SDG的に満足感があるなどの要因を考慮しても、それを理由に目の前のガソリン車をスルーして10分20分EV車を待つということはなさそうである。

いつか全ての車両がEV化するのであれば良いのだが、現状ほとんどEVタクシーがない中で、先行してコストをかけて導入する業者のメリットはそれほど大きくないと言わざるを得ない。


③最後に、業界の未来像が見えないというところを最も大きな課題として挙げたい。

今の給与体系を続けていたら、限界まで高齢化している業界に若者は入らず、入っても定着せず、業界をよく知る人間からすれば持続性そのものに疑問を感じている状況である。

残念ながら、現状業界の主役である世代(60代)がEVタクシーを駆使する光景はイメージしづらいし、何より彼らはそんなものを求めていない。

先行投資をして若者を引き寄せ、若い世代が納得する、安定した、将来に期待が持てる給与システムを導入する画期的な業者が出てくることが必要条件になってくる。

またタクシーが社会に必要だという認識が浸透し、そこに十分な公共補助が行われることも必要不可欠にである。

将来的には配車受付や運行管理は公共で行うべきであるが、そこに至るにはまだまだ相当な時間がかかるだろう(そもそも今の段階でそんなことを考えてる役人はおらへんやろな)。

タクシーがなくなるか、社会がその必要性を認識し動き始めるか、どちらが早いか。

タクシーをなくさないために、我々も声を上げていかないといけない。

2022年7月31日日曜日

ある夜の出来事①

 その日は暑かった。

タクシーの外に出たら暑いので、昼間からずっと冷房を最大にして、流すのもうんざりして、あまり人の来ない駅の待機に入ってスマホで時間をつぶしていた。

この駅は主要駅の間にある小さな駅でタクシーの待機は少ない。

待機が少ないということは、客も少ないのだが…

この日も15時ころに待機に入ると、待っていたのは聞いたこともないような会社の車両が1台あったのみ、2台目につけた。

そもそも普段入らないような駅の待機は、どこに停めて待ったら良いかも分からない。

適当に車を停めて、車を降りて前に停めている車両へ挨拶へ行く。

何年かタクシーに乗っていると、これは意外と大事な行為である。

駅の待機など基本自由ではあるが、主要駅はなわばりが張られていて、新入りが来れば常連たちの矢のような「視線」の洗礼を浴びることになる。

空港など入った日には、トイレに行っている間にタイヤがぺしゃんこになっていたなんていう類の話もよく聞くので、とても近寄る気にならない。

だから待機で少し休みたいときには、なるべく小さな、待機の少ない駅を選ぶ。

しかし初めて入った駅で挨拶もせずにいると、いつの間にか気まずい空気が流れていて、居心地が悪くなる。

だから待機の並び方を聞く口実に、コミュニケーションを取るのが得策ということに最近気づいてきた。

「すみません、待機って、あのあたりで良いですかね?」

窓を開けた年配の運転手は、後方にタクシーが停まっていることに初めて気づいたように、持っていた女性誌を助手席に置いた。

「あぁ…、良いんちゃう」

一通り自分の顔を品定めするように、顔と目をぐるりとまわし、再び女性誌に手をかけた。

「ありがとうございます!後ろに待機が来たら、少し前に詰めますね」

コミュニケーションは一瞬で良い。

そう思っている俺が車に戻ろうとすると、年配の運転手が言った。

「待機なんて、こーへんわ。自分、なんも知らんのか」

「はい?」

「ここは大きな駅ちゃうから、昼間も客なんてほとんど乗らへん。1時間に1本あれば良い方や」

駅の待機に入ると、よく聞くフレーズである。

要するに、ここは客が少ない→入ってくんな、というバリアを張るのである。

「いえ分かってます。5時までに1本積めたらよいかと思って」

精一杯の笑顔を作って答えると、

「あー、分かった。それで休憩か」

「そのつもりです」

このおっちゃんは5時までには帰るやろ。誰もいなければ、そのあともう一回入ったろかと密かに考えていた。

「そうか、そんなら良いねん。暗くなったら、この駅には近づくなよ」

ここまで露骨にバリアを張る言動も珍しい。

「なんでですか?」

年配の運転手は眉をひそめる。

「あんた、ほんまに知らんのか?」

「何を、ですか?」

気づくと年配運転手の車の後ろに、少し小ぎれいな女性が立っていた。

「悪いな、行くわ」

「はい」

窓を閉めようとして、一度止まり、年配運転手は言った。

「ここは、出んのや、だから、誰もこない」

窓を閉め、女性が乗車すると、ベテランらしき運転手は信じられないくらいゆっくりとしたスピードで発進していった。