2026年5月23日土曜日

タクシーストーリー 1~25話

 「タクシーは年収1千万も夢じゃない」

どこかのブログサイトか、Xの投稿か、スマホで何かを検索していたら出てきた言葉に惑わされ、年収4百万円台の仕事を辞めて40代でタクシー会社に飛び込んだ。


以前はスーパーマーケットに勤めていた。

品出しやレジ打ちなど、真面目にこなしていたら、数年で店長まで上り詰めた。

収入的に特に問題はなかった。

夫婦共働きで、三人の子供を養う程度の生活は出来た。

しかし店長になると、開店1時間半前の7時半には店に出て、21時の閉店後も片づけやレジ締めなど終えると22時を過ぎ、帰宅は23時前後。

表面上は週休2日とは言っても、休みの日も結局仕事に出てくる。

週末の休みなどあり得ない。

結局子どもと過ごす時間もほとんどなく、ここ数年過ごしてきた。

何がきっかけだったわけでもない。

ただ深夜に帰宅して、スマホをいじっていたときに、

車運転するだけで1千万…

そんなフレーズが頭に残り、普段仕事が気になってなかなか寝付けなかったのだが、その日は何故かぐっすり眠れた。

朝になると、まあそんなわけないよな、ネット情報なんて半分嘘、大げさ、まともに取ったら取返しのつかないことになる。

現実に戻され、そそくさとシリアルで朝食を済ませ、仕事に出る。

責任の重さと、少しのプライドを抱える生活はそれほど悪くないと自分に言い聞かせていた。

タクシーが気になり始めてからは、深夜に少しその気になり、朝に現実に戻される。

そんな日々が続いた。

ある日思った。

年収1千万とか、それほど魅力は感じない。

というか、やはり現実味はない。

しかし、自分は車の運転が好きだ。

今は電車通勤だが、たまに半休が取れたら子供を連れて買い物や、目的もなく田舎に車を走らせたりするのがストレス解消になっていた。

車を運転するだけで給料がもらえる仕事

しかもなんとなく、

自由っぽい。

遂に朝起きてもタクシーのことが頭から離れなくなった。


「タクシーだけはやめてほしい」

忘れもしない。

転職の決意と、タクシーに乗ってみたいという話を嫁にしたときの第一声である。

「なんで?」

「なんでって…タクシー乗ってるなんて、近所に知られたら」

「知られたら?」

「子どもたちのことも考えてあげて」

「…ほとんど犯罪者扱いやな」

決められた路線もレールもない。

これは後に感じたことだが、タクシーとは道路という、都市の血管を流れる、社会の「血液」である。

もしタクシーがなくなれば、社会も経済も血栓だらけになる。

多くのドライバーが何を話し合うこともなく、足りないところに流れて血流を作っていく。

タクシーは街の活力なのである。

ただもちろんこの時はそこまで分かっていたわけでもない。

「タクシーの何が悪いんや?」

「……」

何が言いたいのかは分かった。

なんとなくかっこ悪い

古い車に乗って、ダサい制服とセンス悪いネクタイ、何より平均年齢高過ぎ。

高齢者の社交場は地域の公園のグラウンドゴルフか、駅のタクシー乗り場と言っても過言ではない。

そんなところに40代で入っていくのは、社会的自殺行為ではないか。

と嫁は感じるのだろう。

しかし、ここで俺の決意はより固まった。

俺が変えてやるよ。

タクシーのイメージを変えてやる。

まだ入ってもいない業界を変えようなんて、飛躍しているかもしれない。

でも俺はそう感じた。

何か大きな未来が見えてきた気がした。


年収1千万のドライバーもいるらしい

嫁を説得するには「年収1千万」はキラーワードやった

しかし、実際そんなに稼いでいるのはほとんど東京のドライバーで、

この神戸という地で、その数字は現実から離れている

ということも、いろいろ調べて分かってはいた

「今の仕事を辞める前に面接でしっかり話を聞いて、現実を見てから決めてほしい」

嫁からの要望であった

いくつかネットで検索した会社をリストアップした

関西で大手の電鉄系である阪急阪神、神鉄、バス大手の神姫

独自の路線を行く相互タクシーやMKタクシー

全国的にも幅を利かせている第一交通

名の知れた会社は恐らく研修制度も充実しているだろう

未経験で飛び込むにあたってはまずそういうところを選ぶべきなのだろう

収入も比較的安定している気がした

しかし、何か引っかかるものがあった

タクシーのイメージを変えてやる

そんな大きなことを考えて入るには、大手に入るのは組織に埋もれてしまうような感覚はあった

何より「タクシー」という自分が魅力を感じた「職業」よりも、

「阪急」であったり、「MK」みたいなワードが強い気がする

「阪急で働いてます」

「まあ、それはご立派な(会社で)。何をされてるんですか?」

「タクシーに乗ってます」

「はぁ…(タクシーですか)」

みたいな会話が入る前から目に浮かんでくる

そんなこんなで小さな会社も見ている中で、

「歩率60%」

「勤務シフトは自由に決められます」

そんなワードに引き付けられた

大手の会社は勤務シフトはある程度決められているようやし、

歩率は(神戸では)大手は大抵55%くらいの感じであった

※タクシーの歩率は東京地区が最も高く、地方へ行くほど下がっていく傾向にある

その分大手は福利厚生はしっかりしているのだろうが、

何より、

組織が小さい分自由が大きいはず

という勝手な想像が俺をその小さな会社に引き込んでいった

「面接をお願いしたいんですが」

「はいはい!いつでもどうぞ」

この人、いつもどんな仕事してるんやろ…

そんな疑問と不安を抱きながら面接の予約を取った


目の前にあったのは、面接に来た会社の社屋というより、

小屋であった

いつの時代に作ったのだろう

ベージュが煤けたようなトタンの壁に、窓には元の色が分からないようなグレーのカーテンがかかっている

暗い…

それが第一印象やった

入口のドアというより、建付けの悪いプレハブの引き戸のようなものを軽くノックした

返事がない

よく見ると、引き戸の横に、バスの「次降ります」みたいな小さなボタンがあった

インターホン…?

ボタンを押してみる

「はーい!」

年配の女性の返事が建物の中からした

反射的にそこから逃げ出そうという強い衝動に駆られた

「どうぞ!」

寝間着のような薄いピンクのニットを着た小柄なおばちゃんが引き戸を開けた

一瞬逃げ遅れた


面接は見た目80歳くらいの社長と、

課長と呼ばれている管理者の男性の2名がソファの向こう側に座って行われた

ザラザラとした、なんとも言えない古い素材のソファには、誰のものとも思えない髪の毛がそこここに付いていた

「えー…と、タクシー経験はないんですね」

履歴書を見ながら、神経質そうな課長の第一声はタクシー経験についてだった

「はい」

「いえ、構いませんよ。免許はうちが費用を負担して取得出来ますから」

3か月ほど散髪に行っていないような、中途半端に伸びた髪を触りながら、不自然な笑みを浮かべて課長は言った

「あのー…、免許を取らせてもらった場合は、何年かは縛りがあるんですか…」

「1年半です。それ以内に退社された場合は申し訳ありませんが、免許取得にかかる費用は負担してもらうことになります」

やはりそうか

「その場合の費用はいくらくらいになるんですか?…いえ、あの、当然すぐに辞めるつもりはありませんけど」

「はい、ご心配は分かります。費用は教習中に支払われる1日1万円の手当も含めて30万程度になるかと思います。入社1年を過ぎたらそれが半額になります」

30万か…

壁を見上げると、運送約款だとか、運行管理者の資格証などの類の額がバランス悪く飾られている

2年もこの会社にいるイメージが湧かなかった

タクシーはこの会社だけではない

ここはやめておこう

と思ったとき、ここまで隣で座っていただけの、白髪の社長が初めて口を開いた

「いらんよ」

「はい?」

課長が驚いたような顔で横に座っている社長に顔を向ける

「半年で辞めても、1か月で辞めても、免許の金は返さんでも良い。一度タクシー乗ってみたら良いわ。君みたいな年齢から乗り始めたら、きっとすぐに辞める気にはならんよ」


「今まではどんな仕事してたんですか?」

考えてみれば、相手にとっては一番重要な質問であるが、

面接もそろそろ終わりかと思ったときに、社長がその問いを持ってきた

ここまでは、課長がクシーの仕事や教習の内容などの説明を一方的に説明するのを聞いていた感じであった

突然の展開に少し戸惑ってはいたが、回答は少しは用意していた

「今まではスーパーでの仕事が長かったです。基本はレジ打ちや品出しですが、最終的には店長として仕入れや広告の企画なども行っていました」

「そこまで任されたら、それなりにやりがいもあったんやないですか」

「はい。自分なりにはやりがいを感じていた部分もありますが、そこに対する評価はほとんどなかったですし、ミスに対する突っ込みは容赦なかったです」

「店長として、下のもんの責任も負わされたりするんやろな」

「はい、その通りです」

「楽しくなかったか」

「まあ、…はい」

「収入は?履歴書には書いてないか」

隣に座っている課長に振る

「はい、記載ありません」

課長が事務的に答える

「給料はどのくらいもらってたんですか?」

聞きにくい質問なんだろうが、社長はストレートに聞いてきた

「はい…年収は400万を少し超える程度ですが…収入面でそれほど問題はなかったんですが」

「ハハハ!収入に問題ないのに辞める奴はおらんよ。ストレスの大きい仕事でも、それなりの収入があれば、人は我慢するもんや。もちろん限度はあるけどな。聞いたところ、あなたが今の職場で感じているストレスは、悪いけど一般企業で中間管理職が感じている『普通の』ストレスやろな」

ズバっと言うな

このくらいから、少しづつこの社長に信頼というか、リスペクトを感じ始めていた

「そうなんでしょうか…、そうなんでしょうね」

「給料が少なすぎたいうことや」

社長が笑顔を振ってきたので、こちらもぎこちない笑顔を返した

「まあ、心配せんでも良い。あなたが今もらっているくらいなら、(タクシーで)それを下回ることはないやろ」

白髪の社長はもう一度笑顔を振ってきた

「あなたにとって、タクシーの仕事はきっと楽しくて仕方ないやろな」

今度は笑顔を返すことは出来なかった


「えー、…あと、そうそう、タクシーに乗ろうと思ったのはなんでかな?」

社長の最後の質問やった

一体この面接はなんやろう

ここまで1時間近く面接時間を使ってきて、

ここに来て、この質問か

面接始めから、勤務形態とか、勤務時間の制限の話やら、

日報まで見せてくれて、日報の書き方まで説明があったが、

真っ先に聞かれるべき質問が最後に来た

もちろん答えは用意していたが、

14時から始まった面接は1時間の予定で、次も控えているようやった

簡潔に答えた

「はい、街を走っているタクシーはよく見るんですが、縛られた感じがなくて、自由に見えたんです。今まで決められた業務と時間に追われて、いつのまにか常に上司や部下の顔色見ながら仕事をしていたんですが、そういう世界とは全く違った空気を感じました」

白髪の社長は真剣にこちらを見つめていた

「ほぅ…、面白いな」

「…」

何が面白いんやろ

「今まで何人もこうして面接して、志望動機を聞いてきたが、意外とその言葉を出す人はいないんやな」

「その言葉?」

「自由」

「…」

「正解や。よく見とるわ。タクシーは自由やで」

「はい」

「しかし、自由は裏返せば、放任であり、孤独であり、仕事面でも収入面でも寄りかかる壁はない」

「…はい」

「それを楽しめるかどうかや」

面接の途中までは、他社のことも考えながら聞いていたが、

ここに決めようと思った


面接は合否というより、

「こちらは是非入社して頂きたいと思っています。山元さんが今の職場をやめて、うちに来る気があればこちらの書類を揃えて持ってきてください」

面接の直後に入社書類を渡された

履歴書が嘘だらけかもしれないのに、身辺調査もせずに内定がくだされたわけだ

※実際はタクシー会社でも、大手などは直近の職場等に身辺調査をすることはあります

家に帰って、A4封筒に入っている書類を開けると、

まあまあのボリュームやった

主には入社前に通う自動車学校の資料やった

1枚づつ見ていくと、

身元保証人(2名)

という用紙があった

その日の夕食のときに、嫁さんに資料を見せた

「なにこれ?」

「いや、自動車学校の費用や、入社時に祝い金なんてのももらえるから、すぐやめて逃げる人もおるらしいねん。そんで…(保証人が)必要なんやって」

「それ(保証人)をわたしに?」

「まあ、普通は嫁さんがいたらそうなるやろ」

「わたし、こんなん書かへんで」

「えっ?」

「タクシーなんて、反対言うたやん」

「俺が金払わず逃げるとでも思ってるのか?」

「そういうわけやないけど、タクシーって聞いただけで、なんかゾッとするわ」

「……」

「なぁ、今からでも考え直してくれへん?」


結局嫁さんは保証人を最後まで断り、

田舎の父親と、姉に保証人をお願いした(母親は数年前に亡くなっている)

後に分かったことだが、

タクシーって、独身が多いことは多いのだが、

もちろん過去に奥さんと別れて独身の人もいるし、

ルーザー的なイメージは、確かにあるわけだが、

奥さんのいるドライバーは意外と仲が良い

タクシーに乗っていると、

実車中(お客さんを乗せているとき)を除けば、

いつでも連絡がつくし、

休みも多いので、家にいる時間も長い

事業に失敗したとか、

前の職場で人間関係に苦しんで業界に入ってきている人もいるが、

家族との時間を多く取るためにタクシーに乗っているドライバーも多いようである

要するに、

嫁が身元保証人のサインをしてくれないようなケースは、

これも後から知ったことだが、

珍しかったようである

そんなこんなで、今の会社に規定の2週間を空けて退職願いを出し、

そのうち1週間は有給消化して(結局有給20日ほど捨てることになった)、

円満退社とは言えないのかもしれないが、

ただ曲がりなりにも10年以上勤めあげた会社の出勤最後の日にも、

未練は全くなかった

1か月くらい先には、自分がひとりでタクシーに乗っていることを考えると、

正直ワクワクしていた


9月になっても夏は終わらない

そんな時代になりつつある

節約で28度にエアコンを設定した部屋で、一日中汗をかきながら会社から渡された書類を揃えて、

入社手続きをした

「今はまだ学生さんが多いから、なかなか予約取りにくかったんやけど」

事務所の女性が9月下旬からの自動車学校の予定表のファイルを渡してくれた

合宿になるので入校は月曜日で、うまくいけば次の月曜には卒業出来るらしい

「(卒検に)失敗する人とかいるんですか」

「うーん…まあ、7,8割は予定通り卒業されてますよ」

まあまあプレッシャーのかかる数字である

学校は徳島らしい

「どうします?車で行かれます?バスなら交通費は出ますが」

自家用車で言った場合は交通費は出ないらしい

「それなら、バスで行きます」

明石の橋はそれなりに通行料かかるし、宿舎は学校の隣のようやから、車使うこともないやろう

「分かりました。高速バスのチケット取っておきますね」

何年ぶりの自動車学校やろ

それより、1週間後の入校日まで何しよか

今までほとんど休みなどなかったから、休みがあっても何をして良いか分からない

保証人問題で夫婦関係もギスギスしてるから、旅行というわけにもいかないし、

この機会にゴロゴロしようか

などと考えていた


勤めていた食品スーパーを退職して、

自動車学校に入校するまで、10日近く空いた

タクシーへ転職することに不満を隠さない嫁さんと一緒に家にいるのも、

1日2日なら良いが、10日ともなるとさすがに気まずい

この機会に子供たちと過ごすのも悪くはないが、

中2の息子と、小6、小3の娘で、

日中は学校に行ってるし、

そもそも今までほとんど家にいない生活をしていたから、

父親が転職で家にいると言われても、

子供たちの反応はイマイチである

「お父さん、タクシーに乗るの?」

心配そうに上の娘が聞いてきた

母親にも何か聞いてるのかもしれない

決してポジティブとは言えないトーンであった

小学生とは言え、高学年にもなると、

大人の世界の職業の貴賤みたいなものは、

なんとなく分かるのかもしれない

「うん」

ここで、もう少し説明を付け加えられたら全然違うんやろうが、

何せ、何も知らない世界である

家に籠って3日目、

耐えられず、簡単に着替えなどまとめて、一人旅に出た

阪神青木駅から西へ向かい

なんとなく広島へ行った

ビジネスホテルに2泊して、

平和公園などをウロウロしていたら、

気づいたらなんとなくストレス解消出来ていた

九州まで行ってみようかとも思ったが、

やめて家に帰った


そうこうしているうちに、

入校の日になった

待機日数は嫌というほどあったので、

準備は万端である

子供たちを送り出し、

朝出発前に荷物を確認していると、

嫁さんが黙ってパートへ出かけていった

ちょっと気の利いたドラマなら、

そこまでギスギスしていても、

出かける前に一言、

「がんばって」

なんてのがあるのかもしれないが、

現実は、無言で目も合わさない激励であった

バスの出発時間はそれほど早くないので、

ゆっくり歩いて駅まで行って、

阪神電車で三宮に出て、

そこから会社が手配してくれた高速バスに乗って、

徳島の自動車学校へ向かった

指定のバス停を降りて、5分ほど歩いたところに、学校と合宿の宿舎があった

まず宿舎の部屋へ案内され、荷物を置いた

8畳ほどの部屋の両脇に2段ベッドが置かれていた

一応4名入れる部屋だが、自分ともう一人の、2名の相部屋になると説明された

相方はまだ到着していないようである

昼過ぎに到着して、14時からは入校式と説明会があり、

その日から授業も2コマほど組まれていると聞いた

近くのコンビニへ行って、

軽く昼食を済ませた

なんか海を越えてきたせいか、

入校日を待ちながら、鬱々としたここ数日から解放されて、

清々しい気持ちになっていた


入校式と言っても、

自動車学校における、これからの2種教習の説明会だった

概ね学科20、実技20時限、ストレートで通れば計40時限とのことであった

※2025年9月の法改正で約30時限に短縮されている

週一、月曜入校なので、

6名が同期として教習を受けることになる

ひとりひとり、簡単に自己紹介があった

大阪組が3名、神戸が自分含め2名、地元徳島から1名

自分の順番が来た

「神戸から来ました山元卓也です

42歳です

前職はスーパーで店長をしていました」

もう少し言いたいことはあったが、無難なコメントでやり過ごした

「ほー、店長さんか」

60歳くらいの、頭の禿げかかった担当教官が嫌味っぽく呟いた

入校式前にルームメイトになると挨拶をされた、梶川という男の自己紹介はよく覚えている

「大阪生野から来ました梶川祐樹です

52歳です

高校中退して、いろいろやってましたが、直近はヤマトの配送やってました

昨年の年収が600万ほどでした

年収1000万出来ると聞いて、タクシー乗ることにしました

よろしゅう頼んます」

同じ関西人の自分からしても、きつい大阪なまりやった

何より「タクシー」の発音が、後半にアクセントのある独特の響きで、

何か違う職業の話をしている印象があった

年収1000万

確かに自分も、そんな話を聞いてタクシーに興味を持ち始めた

部屋に戻ると、梶川はもうチェックインしているようで、

自分と反対側のベッドの下に無造作に脱ぎ捨てられているシャツやジーパン、これでもかというほどに踵を踏みつぶしてあるスニーカーがひっくり返っていた

自分も荷物をまとめていると、                    

廊下から梶川が戻ってきた

トイレにでも行っていたのだろう(トイレは共同やった)

(「山元さんか、よろしゅう」

右手を差し出してきた

コロナ禍以来、握手などしていない

しかもトイレ帰りで少し手が濡れていた

差し出された手に気づかないふりをして、

「梶川さんですね。よろしくお願いします」

梶川は差し出した手を、特に不快感も出さずに引っ込めた

「なんでタクシー乗ろうと思ったの?」

いきなりタメ口である

「前職では管理職で、いろいろストレスも多かったので、自分のペースで働けると思いまして」

「なんぼくらい年収あったの?」

イメージ通りというか、金の話しかしない

「400万程度です」

梶川は少しふっと息を吐いた

「そんなんでは生活できんわな。家族もおるんやろ」

「そこそこ生活は出来ましたが、働き方の問題です」

梶川は嫌らしい笑顔を浮かべた

偏見かもしれないが、その後に発した言葉は、我々神戸の人間が大阪人に抱くイメージそのものやった

「働き方なんて関係あらへん、仕事は金やで」


 入校式の日から学科が2時限組まれていた

翌日からは午前3時限が主に学科、午後に実技が2時限、または3時限組まれていた

合宿1週間(7日半)で40時限の詰め込みは結構ハードである

学科では各時限で考査(小テストのようなもの)があり、

落とすと再受講になる

実技も判をもらえなければ、先に進めない

全てがストレートに行って、最終日(月曜入校の翌月曜)に卒検となる

卒検に落ちれば、また翌日(火曜)受験となる

なんとか月曜に卒業したい

特に用事があったわけではないが、

ここで落ちこぼれたら、今後の仕事において

何か落とし物をしたような、

そして、それは2度と拾えない落とし物である

学科の復習は卒検前(日曜の夜)にやれば良いとして、

夜は主に翌日の考査対策の予習に費やした

入校した夜も、次の日も晩飯はコンビニの弁当で済ませた

月曜入校して、水曜の夜、ここからさらにギアを上げようかと思っていたら、

同室の梶川が部屋に入ってきた

「精が出るなあ、そないにがんばってどうすんの?」

嫌らしい笑顔を浮かべながら、机に座って勉強していた俺のノートを上からのぞき込む

「今隣の部屋の2人と話とったんやけど、歩いて行けるところにラーメン屋があるらしいわ。せっかくやから同期で少し飯でも食わへんかって話になったんやけど」

合宿中はとにかくストレートで卒業出来るように、精一杯勉強する気ではいたし、

目の前にいる男は、やや距離を置きたいタイプではあるものの、

これから同じ仕事をすることになる、他の「仲間」には興味があった

「どないする?行くか?」

こんな聞かれ方して、肯定的な返答をしたくはないが、

「行きますわ」

こんな奴ばかりではないやろう


 徳島ラーメンを4人で囲みながら、

ぎこちない交流会をした

特に自己紹介をするでもなく、

梶川が連れてきた2名は、

ほとんど梶川と話していて、

自分は徳島ラーメンに入っている生卵のような、

なんとなく違和感のある存在であった

「山元さんは…神戸から来られたんでしたっけ?」

もうラーメンもほとんど食べ終わる頃に、

気を使った質問が振られてきた

「はい、…吉川さんはこちら(地元)の方でしたか」

気を使ってくれたのは、同じく40代くらいの地元出身の男性だった

これからタクシードライバーになるとは思えないくらい整った顔立ちをしていた

「そうなんですよ(笑)。こんなときくらい地元を離れて羽を伸ばしたいんですが」

「ご家族もおられるんですか?」

「はい、妻がおりますが、子供が出来なくて…この田舎で妻と二人暮らしです」

「そうなんですか」

もう一人は大阪出身の60歳前後の、「いかにも」関西人であった

梶川と前職の年収やら、タクシーはどんだけ稼げるやらの話で盛り上がっていた

向かいに座っている徳島人に聞いた

「吉川さんはなんでタクシーに乗ろうと思ったんですか?」

「いや、実は前からタクシーに乗りたかったんですよ。実家は農業をしていて、手伝っていたんですが、農業をしながらでも出来ると言われたので」

「農業ですか。奥さんは反対されなかったんですか」

「反対どころか、嫁に勧められて来たんですよ」

「はぁ…奥さんに勧められて?」

「タクシードライバーかっこ良いって(笑)」

タクシーの話をして、思い切り冷たい視線を浴びせられた、あの日の夜を思い出した

タクシーがかっこ良い



合宿の教習はタイトである

1日5,6時限ではあるが、学科の小テストは予習復習なしでは及第点が取れない

実技は日々厳しくなっていく

正直今時マニュアル車なんて乗る機会はほとんどない

しかし、教習はマニュアル車である

※今時マニュアル車のタクシーなどほぼないので、タクシーの教習もオートマ限定が多くなってきているのが現状である

坂道発進で50センチほど後退したら、

「おーい!! おい、おい! 殺す気か?」

「プロのドライバーが坂道で後ろに下がるか?」

二言目には「プロのドライバー」という言葉を使ってくる

正直その言葉にはやや違和感を感じていた

タクシードライバーになろうと思ってるだけで、プロドライバーになろうと思っているわけではない

この二つの言葉は、後に経験を積む中で徐々に近づいてくるのだが、

この頃は、全く違うものとして捉えていた

2種担当の教官は主に2名だったが、

特に下地(しもじ)という、60代くらいのハゲ教官が、厳しいというより、

嫌味っぽい感じで生徒に嫌われていた

2種には鋭角コースもある

道路がV字に切られている、現実的にありえないコースを走るわけだが、

脱輪もしたくないし、コースも目視ではよく見えないので、確実に2度切り返す

下地は黙っていた

コースを抜けると、

「もう一度戻れ」

「はい?」

「もう1回鋭角入れ言うとんねん!」

完全なパワハラである

「わかりました」

「切り返しは一回や」

「…」

もう一度コースの入ったが、

やはりうまく行かず、2度目の切り返しをする

思い切りブレーキを踏まれた

ハンドルに顔を叩きつけそうになる

「切り返し一回言うたやろ!」

元々大阪人かもしれないが、徳島での生活が長いのか、関西弁のイントネーションも微妙におかしい

そんな違和感もあって、さすがにイラっときた

「お客さんが乗ってたら、脱輪したらケガされるかもしれないので」

「はぁ?」

「切り返しでケガされることはないですよね」

言い返した

ハゲ教官はそれを聞いて、きしょい笑みを浮かべた

「お前な、よう言うたな」

「…」

「その度胸はほめたるわ」

「ありがとうございます」

「でもな、この鋭角って、なんのためにやるか分かるか?」

「…」

「実際の道路にこんなんあるか?」

「いえ、ないです」

確かにそれ思った

「これはな、Uターンの練習やねん」

「…Uターンですか」

「せや、タクシーっちゅうのは、Uターン商売や。1日に100回でもUターンせなあかん」

「100回…(大げさやろ)」

「片側1車線の道でUターンするときにな、1度でまわれんかっても、2度目で行けんかったら、対抗(車線)で飛ばしてきた車あったらどうや?」

「あぁ…」

「危なくないか?」

「…はい」

こんなハゲのおっさん教官に論破されると思わんかった





17 卒検(実技)


月曜入校で、その週の日曜日に実技の卒検があった

決められたコースをまわり、減点数が基準を超えなければ合格である

1種の試験でも通るS字やクランク、車庫入れ縦列など、

当然1種よりも厳しい基準で見られる

さらに2種のみの課題として、鋭角コースがある

これは基本切り返し1回でクリアしなくてはいけない

2回切り返せば減点、脱輪や、切り返しを3回したら失格と言われている

しかし実技については、教習を真面目に受けて入ればクリア出来るレベルであり、

正直ここで1度でも落とされるようなら(1度落とされても2度目3度目のチャンスはある)

ドライバーになる資格はない

1発勝負と思って、

減点ゼロのつもりで緊張感を持って臨んだ

実際合格すれば減点数は教えてくれないが、

教官が用紙にチェックする仕草をチラチラ見ていると、

減点されたようには思わなかった

縦列でやや入りが浅かった気もしたが、何もチェックは入れてなかったようである

実技の卒検は比較的何事もなく終わった

卒検が13時から、2名同乗で行って14時頃には終わった

せっかく徳島まで来て、遊びにも行ける時間だが、

翌日は学科の卒検

部屋に戻って昼寝して、

翌日の学科に備えて、勉強を始めた




18話 最後の夜

月曜に入校して、1週間

日曜の夕方

早めに実技の卒検を終えて、寮の食堂でテキストを広げていた

食堂と言っても、定食が出てくるわけではなく

ガスコンロや流し台、共同冷蔵庫などの一般的なキッチンがあり、

長机が3つと、パイプ椅子が雑然と並べられている

ちょっと古めの、32インチよりは少し大きいように感じるテレビでは、

大相撲秋場所の千秋楽が流れていた

横綱大の里と豊昇竜の白熱した優勝争いを、

見ている人はいない

少し離れた椅子で大阪組の岸谷さんがスマホで動画を観ていた

食堂にいたのは2名だけ

そこに梶川が金麦のビールケースを抱えて入ってきた

「いよいよ合宿も明日で終わりや。終わったらみんな家に帰るんやろから、前夜祭しよか」

後から、もう一人の大阪組の…名前が出てこないが、大阪なまりの強い年配の男が入ってきた

頭は禿げかかり、この1週間の合宿でも少し太ったと思えるような腹をしていた

もう明日からでも立派なタクシードライバーになれそうな、

ダサい匂いをプンプン出している

逃げ出そうかと思ったが、

その後ろから、もう2名、

地元徳島の吉川さんと、

同じ神戸から来てるのに、ほとんど話したこともない、真鍋さんやったかな

が入ってきた

今回一緒に合宿をしている6名が揃ったわけである

梶川が声をかけて集めたのか、

逃げるわけにもいかない空気になっていた

梶川と一緒に買い出しに行っていたらしい、(名前を)思い出したが杉本という男、

2人はテンション上がっていたようだが、

後の4名は、どうしたら良いか、

まわりをキョロキョロと様子を見ていた

「まあ、とりあえず乾杯しような」

梶川がひとりひとりの机の前にビールを置く

「このビール代は…?」

自分が聞くと、

「いやいや!気にせんでええわ。後で割り勘するから」

出してくれるわけではないのか

大体誰がこんな会に賛同した?

割り勘ということは、金払わなあかんのか…

と思いつつも、1週間とは言え、

同じ屋根の下、同じ方向を向いて生活してきたわけで、

お互い、実技卒検の感想やら、学科の過去問の話やらをして、

なんとなく盛り上がっていた

「明日の卒検が終わったら、またそれぞれ会社に戻って研修かー。つまらんなぁ」

梶川が言うと、

「研修?これだけやって、まだ会社に戻って研修があるんですか?」

吉川さんが聞く

「せやで。また研修10日間や。ここより長いで」

「はぁー…」

吉川さんの力の抜けたリアクションに全員が爆笑した

夜が更けていって、みんな部屋に戻っていった

ぎこちない関係やったが、

これからタクシードライバーになるという共通項を持った

同志たち

少し良い時間やった

空き缶やごみを段ボールにまとめて、食堂を出ていこうとしていた梶川の背中に向かって、思わず声が出た

「梶川さん、今日はありがとうございます」

嫌いだと思っていた相手に、自然とお礼を言っていた




19話 卒検(学科)


学科試験は95問の〇✖方式で、

形式は1種とほぼ同じである

文章題90問と、イラスト問題5問(配点2点)

100点満点

1種と違うのは合格ラインで、

2種は90点以上取らないといけない

実技は認定の自動車学校を卒業すればクリア出来るが、

学科試験は卒業後に免許試験場で受けなければならない

自動車学校の卒検はいわば模試であり、

本番よりやや難しめに作られている

問題もバスなどが絡んでややこしいものも多く

例えば、

乗合バスやタクシーの運転者は、交通事故などのため運行を中断したときは、代車により運行を継続するか、旅客を出発地まで送り返さなければならない。

この問題、

まず交通事故「など」って何?

とか、

交通事故したのに代車で運行出来るわけないやん

出発地まで送り返す?

そんな余裕あったら、目的地に送ったら良いやん

などという現実的な疑問

そんなことをいろいろ考えて、

常識的に判断すれば、

答えは✖やろ

と思うのだが、

実際の答えは〇なのである

または、

客待ちのタクシーは継続的に車を停止しても、運転者が運転席にいれば駐車にならない。

これ✖で、

客待ちは駐車になるということだが、

現役のドライバー、特にベテランドライバーにこの問題を問えば、

90%は〇と答えるやろう(笑)

街中駐車のタクシーだらけやんみたいな

※実際は駐車禁止エリアなどで、「客待ちタクシーを除く(タクシーは駐車可)」というところもある

要するに、過去問や模試などで、

ある程度の問題傾向を覚えてしまわないと90点以上は難しい

そんなことを1週間やってくるわけである

学科の卒検は、最終日の10時に始まり、

50分、

〇✖なので、あっという間に採点が終わった

満点やった

梶川は99点やったらしい

杉本さんと、吉川さんは1回目で基準点を取れなかったらしく、

11時から2回目の試験を受けていた

部屋に戻って、荷物をまとめていると梶川が入ってきた

「さすがやな。満点なんて年に何人もおらへん言うとったで」

「もう20年以上前ですが、1種の学科も満点でした」

「はぁー!ほんまかいな」

「やるとなったら、とことんやらないと気が済まないんで」

「ええこっちゃ」

梶川は子どもをほめるような笑顔を浮かべて、ドスンとベッドに仰向けに横たわった

「タクシーか…なんかおっさんらの仕事やと思って馬鹿にしとったけど、自分が乗ることになるとはなぁ」

これは今日本中でタクシーのハンドルを握ってる多くのドライバーが、タクシーに乗り始める頃に感じたことであろう

追試を受けた2名も2回目で合格したらしい

2回目で合格出来ないと、午後から学科の追講義を受けて翌日再受験になる

無事6人全員月曜に(入校から8日間で)帰れることになった

昼過ぎから、簡単な退校式があって、

各人帰路についた

同じ神戸の真鍋さんは車で来ているため、一緒に乗っていかないかと軽く社交辞令で言われたが、

そこまで親しい関係ではなかったし、

会社で帰りの高速バスのチケットも用意してくれてたので、丁重にお断りした

大阪組とはバスが違うため、先に来たバスに一人で乗り込んだ

「また情報送ってな」

梶川が手を振っていた

昨日の食堂交流会でみんなとラインの交換はしていた

バスに乗り込んで、コンビニで買ったバンとコーヒーを食べながら、

鳴門海峡を渡る橋から海をながめていた

濃いめのコーヒーが妙においしく感じた



20話 2種免許取得


月曜に自動車学校を卒業して、

翌日には会社へ報告へ行った

「学科試験はいつ行きますか?」

自動車学校を卒業して免許を取れるわけではなく、

卒業後に免許試験場で学科試験をクリアして、初めて2種免許がもらえる仕組みである

「いつって…自分で試験予約するんですか?」

すると、奥に座っていた社長が割って入る

「あんたが合格したって今聞いたのに、こっちで予約出来るわけないやろ」

「あぁ…」

「昨日連絡くれてたら、なんとかしたけどな」

「申し訳ありません」

社長が事務の女性に言う

「すぐ電話してみ。まだ空いてるか?」

「はい、明日で良いですか?」

「明日…ですか?」

俺が戸惑っていると、

また社長が割って入る

「そんなん時間空けてどうすんねん。すぐに(勉強したこと)忘れてしまうで。明日空いてるんか?」

「まあ、はい」

「じゃあ、明日で聞いてみて」

また女性に言う

「わかりました」

どうやら翌日の試験予約が取れたようである

「今はオフ(シーズン)やから取れたけど、これ夏休みや春休みやったら1週間くらい待たされるで。入社も1週間遅れる言うことや」

「そうなんですか」

試験の手配などは全部会社でやってくれるものだと思っていた

無職の身で、特に用事があったわけでもなく、

翌日明石の試験場へ行って、

無事2種免許を取得出来た

試験が終わって、新たな免許が配られると、

1種と同じ大きさの免許証のはずなのだが、

ずしりと重く感じた

たかが2種免許、1種と何が違うの

なんて思ってたけど、

何かその違いが何かというのは、まだ分かってはいなかったものの

全く違う免許だということは、感覚的に強く感じた

新たに変わった写真の、自分の顔を見つめて、

「俺、なかなかイケてるやん」

と独り言をつぶやいていた




21話 社内研修

 9月後半第4週の月曜に自動車学校に入校して、

翌月曜に卒業

水曜に免許試験場で学科試験をクリアして、

2種免許は10日間で取れたことになる

そして、さらに翌週の月曜日

自動車学校入校から2週間後に、

社内での研修が始まった

10月になるとさすがに暑さも和らぎ、

研修初日は好天やった

課長から研修の予定表が渡された

「社内研修は10日間、月~金の2週間になります」

「はい…長いですね」

「10日間の研修は法令で定められています。そのうち1日は適性検査、2日はタクシーセンターの登録研修に行ってもらいます」

「ここでは7日間ということですか」

「そうなります。大体午前中に路上に出てもらって道を覚えてもらいます。午前中の方が駅や病院もよく動くのでタクシーの流れも見えるはずです。

午後が座学になります。昼飯の後で眠くなるかもしれませんが、覚えることはそんなに多くないので、気楽に構えてください」

「わかりました…」

「今日は初日なので、まず簡単に外に出てみましょうか」

9時に始まって、9時半くらいになっていたやろうか

文字通り社長出勤の社長が事務所の古いドアを開けて入ってきた

「今日から研修か。天気も良いしわしが(路上研修)行こか」




22話 路上研修1

路上研修初日、

事務所営業用のコンフォート(※トヨタの旧式タクシー専用車)の運転席に乗って、ルームミラーの角度などを、なんとなく合わせていた

少し待っていると、グレーのスウェット上下(寝間着か)の社長が助手席に乗った

「さあ、行こか」

「どのコースへ行きますか?」

「コースって…好きなとこ走ったら良いやん」

「あの…先ほど課長から、研修用コースの資料頂いたんですけど」

他の座学研修なども合わせた、A4サイズの分厚い資料を社長に見せた

「ほう…こんなもん作っとるんか」

社長はその資料をペラペラとめくりながら、興味なさそうに目を通していた

事務所で「研修」というものの内容を共有してはいないということは、分かった

「あの…この部分が路上研修用のコースになってるみたいです」

社長が見ている横から、資料の中ほどのページを指して言った

「ほう…あんた、お客さん乗って、こんな資料見ながら走るんか?」

「…いえ」

「または、お客さんがこんな紙の資料持ってきて、『このコースで走ってください』言ってくるんか?」

「そんなことはないと思いますが」

「この世界はな、必要か、必要ないか知らんけど、つまらん資料とか、そんなおもろない仕事に嫌気がさした連中が入ってくるんや」

「…はい(相手側に嫌気さされて入ってくる人の方が多いと思うけど)」

「とにかく資料なんて気にせんで良い。あんたの好きなように走りなさい」

社長は分厚いA4用紙の資料を後部座席に投げて言った

「わかりました」

「今日わしが言いたかったのはそれだけや。あんたらも今まで要らん資料とにらめっこしたり、室内に閉じ込められて仕事してたかもしらんけど、ここに来たからには自由に走れ。それがタクシーや」

灘駅の近くの営業所を出て、

六甲山に登っていった

「仕事では三宮周辺走ることが多いやろけどな、こんなんも良いやんか。ちょっとそこ入ってみ」

社長の指したところは「鉢巻展望台」と看板が出ていた

「はちまき…(変な名前)」※実際あります

看板の矢印に沿って入ると、小さな駐車場には、コンビニなどの食料のゴミが少し散らかっていた

「まあ、降りよか」

車を降りて、社長はそこらにあるゴミを少し拾っていた

狭い展望広場のようなところに行くと、

「わぁ…」

思わず言葉を失った

眼下には、神戸の街が広がっていた

ビルの少ない街並みと、神戸製鋼から上がる煙、海には太陽の光が差し、コンテナ船などが行き来している

自分が住んでいた街がこんなに美しいとは…

「これがお前らの仕事場や」

「…きれいですね」

「狭い室内でパソコンいじってたりな、取引先と電話しながら神経すり減らしたり、うざい上司に適当に返事したり、これからはそんなことする必要ない。

(眼下を指して)この仕事場で自由に走り回ったら良い。

こんな楽しい仕事ないで」

研修初日のこの風景は今も忘れない




23話 給料計算

社内研修初日は社長との路上研修(ドライブ)と、

午後は制服の採寸と、簡単に駐車場の停める位置や、ロッカーの使い方、事務員の紹介など会社の説明があった

研修2日目は課長が担当して、

午前中はコースに沿った路上研修、

午後は座学

と言っても、営業所の小さな食堂での研修やった

食堂には簡単な流し台と電子レンジ、冷蔵庫が置かれていて、

長机が2つ、マックスで5人くらいしか入れないサイズである

「タクシー会社の食堂なんてね、どこもこんなもんですよ」

課長が自嘲気味に言う

別に突っ込んでもないが

「今日はまず当社の給与システムについて説明します。これが一番興味あるやろ(笑)」

「はい、まあ(笑)」

食堂にはホワイトボードもあり、

「まずは基本給です」

課長はボードにまず「基本給 3000」と書き出した

「基本給は一日3000円です」

「はぁ…(少な)」

「少ないと思うやろ?」

「はい」

「山元さんは隔勤(基本1日おきに乗務する勤務形態)でしたよね。その場合1乗務で2日分働くことになるから、1乗務にすると基本給6000円になります」

ボードには「3000×2=6000」と書いている

まだ少ないな

「ここにまず営業手当が加わります。これが営業収入の35%になります」

ボードに「35%」と書く

タクシーの給料って完全歩合だと思ってたので、少し違和感があった

「隔日勤務は深夜にもはいりますから、5%の深夜手当が入ります」

深夜手当とか、%でつくんや

働いた時間とちゃうのや

「また残業が一日1000円、2日分で2000円つきます」

残業手当は固定かい(しかもバリ少ない)!

「タクシーはその日仕事の流れによって仕事時間も変わってきますから、時間いくらという付け方は通常しないんです」

と言いながら課長はボードに、「40000 50000 60000」と行を変えて書いていく

「例えば、この計算で1日の売上が40000円やと…こんな少なかったらあかんで」

6000+(40000×35%)+(40000×5%)+2000=24000

ほとんど数学の授業やん

「その日の給料は24,000円になります」

はぁー、結局売上歩合にしたらちょうど60%になる

「これが50000円やと…28000円、60000円やと32000円…」

どんどん率下がってくやん

50000なら56%、60000なら53%

「売上上げたら損やと思うやろ?」

「はい(笑)」

「それがそうではないねん。ここに、能率給というものがつきます」

ボードに「能率給」と書く

「5万を超えたら5%、6万超えたら7%」

また計算式を書いていく

「すると、5万なら30,500円、6万なら36,200円となります」

はぁー!そうすると、どちらも60%超えてくるわけや

「さらに半期で400万超えたら、半期営収の4~5%程度の寸志がもらえます。まあ20万そこそこやから賞与とも言えんけどな」

なんか分かりにくいが、とりあえずたくさん売上すれば、たくさんもらえるみたいやな

当たり前やけど

よく分かってなかったが、

研修の終わりにホワイトボードの写真を撮った

隅に何故かにやついている課長の姿が半分入ってしまった



24話 路上研修2


 研修3日目、4日目は同じように、

会社で午前中に路上研修、午後に座学研修を行った

主に課長が担当したが、

チケット等の扱い、配車アプリのシミュレーション動画は、

事務所の女性が見せてくれたりした。

路上研修は、やはりコースに沿って走っても、

なんの意味があるんやろ

という感じやったが、

新神戸駅に行ったとき、

まず2階ロータリーに入って、

「このレーンの空いてるところに停めてお客さんに降りてもらいますが、

あまり前の方に行くと空いてないと困るからな、

手前の方で降ろした方が良いよ」

「あの前の方空いてますけど」

「あそこは障害者用スペースやから、ご老人やったらあそこまで行っても良いけど」

「あー、そうですか」

「さらにその前はタクシー待機場や」

「3台くらいしかいませんね」

「ハハハ…、右の方見てみ」

右手を見ると、タクシープールに数十台の車が何列かに並んでいる

「わー…」

車をまわしながら、タクシープールを見る

「ほら、あそこにハザード焚いてる車があるやろ。あの後ろにつけるんや」

「どの列が最後尾か、ハザードで分かるわけですか」

「そういうことや。列がいっぱいになったら、次の列に行ってハザードを焚く。先頭の車は、その前がどの列か覚えとかなあかんで」

「そんなの分かるんやないですか」

「どんどん動いてるときはもちろん分かるけど、動きが止まってくると、ウトウトしてたりしてな(笑)、どこの列の次やったか分からんくなったりするんや」

「はぁー」

「最近はタクシーもよく動くようになったし、新神戸みたいなところで、そんな分からんくなるようなことはないけどな」

「他に大きな待機場所はどこかあるんですか」

「せやな。三宮の東口(北側)ロータリーや、神戸駅のロータリーもまあまあでかいな。どっちも今は工事中やけどな」

「空港はどうなんですか」

「空港はそんな待機多いことないで。ポーアイ(ポートアイランド)の最南端やからな。あそこまで回送して行くのは効率悪いし、そんなに動くこともないからな」

「遠方があるんやないですか」

「うーん…たまにはあるやろけど。大阪行くのにわざわざ神戸空港に降りんやろし。姫路やったら新幹線で行くやろからな」

「空港から三宮でも結構ありますよね」

「確かにな。3千円は軽く超えるやろから、それでも悪くないけど…分かってきたやんか」

なんか、こんな話が楽しくなってる自分に気づいた



25話 事故を起こしたら?


 5日目の研修では、午後の座学研修で、

「今日は簡単に事故を起こしたときの説明をします」

そんなん簡単にされても困るが、

「山元さんは事故を起こしたことはありますか?」

「若い頃に車庫入れで、柱に当てたことはあります」

「そのとき、どうしましたか」

「自分で修理屋に持って行って直しました」

「保険を通さなかったわけですね」

「車両保険入ってませんでしたし」

「タクシーでも同じです。自損事故はこちらに整備士がおりますし、余程のことがなければ保険は通さず、自社で直します」

「保険には入ってるんですよね」

「もちろんです!タクシー会社の任意保険加入は義務ですから。しかし、保険に入っていたとて、小さな事故でいちいち保険通してたら会社が持ちません」

とて…

「事故は多いんですか」

「一般の運転とは違いますから。走る距離も、道も、Uターンの多さも通常運転とは格段に違います。その分事故が起きる可能性は高くなります」

「事故を起こしてしまったら、どうなるんですか」

「はい、その説明です。まず『相手のある事故』と、『相手のない事故』に分かれます。相手のない事故については、自社で直しますが、その概算の修理代の20%を負担してもらいます」

「修理代10万円なら2万円ということですか」

「その通り!その後の給料から引かれることになります。分割にも出来ますが、3回目の事故からは30~50%へ徐々に負担割合が増えます」

「そうなんですか…(自己負担あるんや)」

「しかし重要なのは、『相手のある事故』、こちらはまず相手が負傷していたら、その介助、救急車の手配、代車の手配、そして必ず警察に届けてください」

「保険を使うわけですか」

「保険を通す通さないに関係なく、後にトラブルになった際のためにも警察の届けが必要です。会社への連絡は最後です」

ということは、保険を通さないこともあるわけや

「わかりました」

「とにかく事故を起こすと慌てます。落ち着いて、この事故対策マニュアル(研修資料に入っていた)を確認しながら、ひとつひとつ対応してください」


2026年5月21日木曜日

2026年上半期売上

 先週で今年度の上半期(12~5月)締めになったので、

売上をまとめてみよう

12月 12乗務 794,750 平均66,229 ※期中11月27日より料金改定

1月 13乗務 911,810 平均70,139

2月 12乗務 799,800 平均66,650

3月 13乗務 842,650 平均64,819

4月 11乗務 751,690 平均68,335

5月 13乗務 877,760 平均67,520

上半期合計 74乗務 4,978,460 平均67,276

あー、500万にあと一方足りずかー

下半期は500万クリアして、年間1000万も超えたろう

ほんまは収入で1000万が目標やけど…

それはまた数年後東京進出したときに


5月20日(水) 56,360 35回

雨予報やったのに、

降らへんもんなぁ…

おかげで散々

下半期スタート苦しいな





2026年5月14日木曜日

厳しい介護現場を目にして


深夜1時前に某病院に配車

少しウトウトしていたのだが、

配車先に着くと、眠気もふっとんだ

まず高齢(後で聞くと88歳)のおばあさんが車いすに座って、病院のワンピースのようなものから股下を肌けている

介護している付き添いの、やや太めの娘さんらしき女性も還暦を過ぎているらしい

いわゆる老老介護である

車いすに乗っているおばあさんは意味不明なことをつぶやき、時折叫び出す

これは長期戦になる…

まずこのおばあさん、なかなか乗らない

介護の娘さんが抱えて乗せようとするとキレて

「やめてー!!」

大声で叫ぶ

「おしっこしたいねん!!トイレ行かせてー!」

「さっき行ったばかりやろ。オムツしてるから大丈夫や」

「トイレ行かせてー!」

 1時頃に着いて10分ほど経って、

「運転手さん、良いからもうメーター上げてください」

「…はい」

一瞬迷う

メーター入れたら待ち時間も売上にはなるが、

もう逃げられない

しかしこの状況で逃げるわけにも行かないやろし、観念してメーターを押す

1時10分

そこからまた悪戦苦闘

こういうの手を貸したらまた大騒ぎされたり、倒れられたりしたら面倒なので、

なるべく手を貸さない

しかし、最後に車に押し込むところは手伝った

1時20分

メーターはもう900円(500円始まり)

乗車しても、おばあさんはブツブツ言っている

「そこ誰乗ってんねん…じゅんちゃんと誰?」

「じゅんちゃんていうのは姉なんです…わたしのこと嫌いなんでしょうね」

娘さんが俺に言う

「そうなんですか…」

「小野さんか、小野さんが乗ってるんか」

「小野さんはもう亡くなったで」

「大変ですね…」

娘さんに声をかける

「大変です…昨日まで普通やったんですよ」

「なんでまたこんな(状態)になったんですか?」

「ストレスかなぁ…いろいろあって。昨日の晩から急におかしくなって、今日は昼間手が痛いって言って騒ぎ出して…救急車呼んで、わたしも仕事休んで」

「ストレスですか…」

見るからに、ストレスの塊である

今ここで対応してるだけでも、こちらもストレスで倒れそうなのに、一緒に暮らしてる娘さんの心中は計り知れない

「明日も仕事休まなあきません。1日一緒にいたらどうかなりそうやけど、逃げるわけにもいかんし…」

降ろしたらすぐに逃げることしか考えていない俺にとっては、なんとも言えない

「このあたりでしょうか」

親子の家に着く

先に娘さんが降りて、家のドアをあける

開けたドアの中に見える家はとんでもなく雑然としていて、

いわゆるゴミ屋敷である

降りるにも10分ほどかかり、

料金は3900円だが

1時間ほど拘束された

去り際に裸足で、まだ大声で叫んでいる母親の手をひいて家に入れようとしている娘さんを見て、

心が痛んだ

俺はたったの1時間

しかし彼女は、ここからどれだけおばあさんの世話をしなければならないんだろう

「昨日は母が大騒ぎして一睡も出来ませんでした」

と言っていたが、

おそらく今日も寝られないだろう

もしかしたら明日も…


5月13日(水) 57,000 38回

朝の点呼で免許証を忘れたことに気づき、

取りに帰る

1時間半のロス

しかも最後は上のトラブル

いろいろあった中、よくがんばったわ

2026年5月12日火曜日

タクシーストーリー 第36話 帰宅

 初乗務を終えて、

家に帰ると、22時を過ぎていた

中学生の息子の部屋にはまだ電気が点いていたが、

妻の部屋の電気は消えていた

始めての乗務の日に、

遅くなったとはいえ、

22時過ぎという時間に待っていてくれなかった

軽くショックを受けるが、

タクシーという仕事に散々反対していた嫁にとっては、

当たり前と言えば、当たり前の対応やろう

冷蔵庫を開けて、

缶ビールを出し、

テレビをつける

報道ステーションのスポーツで大谷翔平のホームランを見ながら、

ソファに座り、

ビールを飲む

しあわせや

なんというか、

仕事中も一人、

家に帰っても一人、

でも、それがなんとも言えず心地よい

寂しい奴やと言われるかもしれないが、

一人でいることって、こんなにしあわせなんや

と感じた

いつも職場や家庭で、まわりの目や、空気を読んで、

こうすればまわりの人たちは満足するんやないか、

いや、少なくとも不快にはならないやろ

みたいなことを考えて生活していると、

実際自分が何をしたいかとか、

そもそも自分とは何者なのかということまで分からなくなってくる

もちろんまだ始まったばかり、

何も見えてはいないが、

こんな生活を続けていけば、見えてくるもの、

自分

を見つけられるのではないかと感じた

明日もまたがんばろ

こんなに美味いビールを飲んだことは今までなかったかもしれない


5月11日(月) 59,360 55回

あんなに忙しかったのに、

55回も乗せて、6万届かんか

まあ、そんな日もあるよ




2026年5月5日火曜日

ゴールデンウィークの売上

今年のゴールデンウィークを29日(水)からとすると、

30日(木)

2日(土)

4日(月)

と3日間仕事に出た。

明日(今日)からは3日間休みの予定

売上的には、

30日(木) 58,270

6万に届かず、

この日は休みの人も、仕事の人もいるような、中途半端な木曜日

一言で言って、悪かった

2日(土) 68,550

この日からが本格的に休みに入る人たちも多く、

ゴールデンウィークの雰囲気が出てきた

三宮界隈では動きが出てきたかな

アプリの鳴りも多かった(12回)

4日(月) 84,580

これが今日の乗務

普通に忙しかった

東灘でお祭り(だんじり)があったりして、

駅にも常時行列が出来ていたが、

夜にはアプリも鳴りまくり、

まともに晩飯も食えないような

1時2時過ぎても仕事はあったが、力尽きて入庫

まあ、がんばりました




2026年5月3日日曜日

決まった時間(5分)しか待てませんよ

 もう2時前やったかな

そのまま帰庫しようと、山幹を走ってたらアプリが鳴った

配車先は八雲通り、大安亭市場のあたり

現着するも、人の気配なし

アプリの電話機能で電話する

「お客さん、どちらにおられますか?」

「ごめんなさい、ちょっと待ってもらえます?」

女性の声やった

「いや、決まった時間(5分)しか待てませんよ」

すると、ほどなく商店街のひとつの店から、やんちゃそうな男性が出てきた

「ちょっと待ってくれへんか」

「いや、決まった時間しか待てませんよ」

もう状況的に逃げる気満々である

「すぐ来るから待っといて言うてんねん」

段々口調が強くなる

相手がイラつくほど、こっちは

もうこんな仕事いらん

と思う

逃げようと思うと、

他の年配男性が店から出てきて、

乗車してきた

「もうメーターまわして良いから」

少し迷う

メーター入れたら、もう逃げられない

しかし乗車されたら逃げようもない

メーターを入れる

そこから、5分ほどかな、

最初に電話に出た女性と、

切れ気味の若い衆、

もう一人の年配男性

と4人乗車した

「王子公園の方まで行って、レインボービル」

「わかりました」

「お兄ちゃん(運転手)、何おこってんねん」

「いえ、怒ってないですよ」

「さっき待てへん言うたやろ」

「ちょっと待って言われて、20分30分待たされることもありますから、待て言われて『はい』言うのは、新人ドライバーくらいですよ」

「金は払うやん」

当たり前やろ

「余分に払うで」

そういう問題でもない

目的地に着いて、

「2100円です」

3000円出して、

「もうええよ」

まあ、そう来るやろとは思いながら、

「ありがとうございます!」

客は勝ったと思ってるんやろな

飲みなおしの良いアテになったやろ

だからと言って、

「こんなもん(おつり)いらんわ!」

と900円を投げ返すほど若くもないし、アホでもない


5月2日(土) 68,550 39回

連休初日でよう動くやろと思ったが、

苦しい展開やったな

デーゲームの阪神戦終わり甲子園行ったが、大して仕事なし




2026年5月1日金曜日

タクシーストーリー 第35話 初めての乗務締め

 8時に出庫して、

乗務初日ということで、17時過ぎには入庫する予定やったが、

思わぬ大物が当たり(新人のうちはよくあんねん)

車庫に帰ったのは19時過ぎ、

そこからまず日報締め

今どき東京あたりでは電子日報なるものがあるらしいが、

神戸の中小業者では、まだ手書き日報である

手書き日報では、いくつか書き漏れがあり、

入庫してから、思い出しながら、抜けてる乗車を埋めていく、

メーターを締めると、

一日の乗務のジャーナル(レシートの長いやつみたいなの)が出てくるので、

そこから指数計算をする

1日の乗務距離、

実車距離

乗務回数

事後(初乗り後のメーターが上がった回数)

を入庫時の数値から、出庫時の数値を引いて差額を出す

このへんも自分で計算機で計算する

※ちなみに筆者がタクシーに乗り始めた頃は、ここで計算した乗車回数×初乗り料金(当時2キロ660円やったかな)、+事後×80円でその日の売上を計算したが、今はさすがに売り上げはジャーナルに表示されている

ここで出た売上は税込金額なので、

給料の基礎になるのは税抜き金額やから、

売上÷1.1をして、その日の売上をメモする

今度は未収金額の計算である

障害者割引や障害者チケット、

愛のチケットやローカルチケット(神戸なら兵協チケット)、

クレジット会社発行のチケット(JCBなど)、

アプリ決済や、クレジット、交通系、QR支払い、などのキャッシュレス決済(このへんは手数料を引かれる…)

それらの未集金額を合算して、

税込売上から引いて、納金額を出す

この日は高速を使ってないが、ETCなどがあれば、その金額をまた加算したりする

納金額を納金袋に入れたら、

余った現金を計算する

これが出庫前の両替金額と会わないといけないが(普通はチップがあるからプラスになるけどな)

700円足りなかった

何度も数えなおすが、

やはり足りない…

初日の売上は税込35,670円

税抜きで、32,430円

半分もらえるとして、

16,200円くらいか

日報を事務所に提出して、

入庫のアルコールチェックをして、

納金箱に納金袋を入れて、

時計を見たら21時を過ぎていた

朝7時に出勤してきて、

14時間で、時給1000円ちょっとか

最低賃金より、ややましかな

どっと疲れが出た


4月30日(木) 58,270 45回

いやぁ、45回も乗せて、

ロングもミドルもなし

どっと疲れ出たわ