路上研修初日、
事務所営業用のコンフォート(※トヨタの旧式タクシー専用車)の運転席に乗って、ルームミラーの角度などを、なんとなく合わせていた
少し待っていると、グレーのスウェット上下(寝間着か)の社長が助手席に乗った
「さあ、行こか」
「どのコースへ行きますか?」
「コースって…好きなとこ走ったら良いやん」
「あの…先ほど課長から、研修用コースの資料頂いたんですけど」
他の座学研修なども合わせた、A4サイズの分厚い資料を社長に見せた
「ほう…こんなもん作っとるんか」
社長はその資料をペラペラとめくりながら、興味なさそうに目を通していた
事務所で「研修」というものの内容を共有してはいないということは、分かった
「あの…この部分が路上研修用のコースになってるみたいです」
社長が見ている横から、資料の中ほどのページを指して言った
「ほう…あんた、お客さん乗って、こんな資料見ながら走るんか?」
「…いえ」
「または、お客さんがこんな紙の資料持ってきて、『このコースで走ってください』言ってくるんか?」
「そんなことはないと思いますが」
「この世界はな。必要か、必要ないか知らんけど、つまらん資料見てとか、そんなおもろない仕事に嫌気がさした連中が入ってくるんや」
「…はい(相手側に嫌気さされて入ってくる人の方が多いと思うけど)」
「とにかく資料なんて気にせんで良い。あんたの好きなように走りなさい」
社長は分厚いA4用紙の資料を後部座席に投げて言った
「わかりました」
「今日わしが言いたかったのはそれだけや。あんたらも今まで要らん資料とにらめっこしたり、室内に閉じ込められて仕事してたかもしらんけど、ここに来たからには自由に走れ。それがタクシーや」
灘駅の近くの営業所を出て、
六甲山に登っていった
「仕事では三宮周辺走ることが多いやろけどな、こんなんも良いやんか。ちょっとそこ入ってみ」
社長の指したところは「鉢巻展望台」と看板が出ていた
看板の矢印に沿って入ると、小さな駐車場には、コンビニなどの食料のゴミが少し散らかっていた
「まあ、降りよか」
車を降りて、社長はそこにあるゴミを少し拾っていた
狭い展望広場のようなところに行くと、
「わぁ…」
思わず言葉を失った
眼下には、神戸の街が広がっていた
自分が住んでいた街がこんなに美しいとは…
「これがお前らの仕事場や」
「…きれいですね」
「狭い室内でパソコンいじってたりな、取引先と電話しながら神経すり減らしたり、うざい上司に適当に返事したり、これからそんなことする必要ない。
(眼下を指して)この仕事場で自由に走り回ったら良い。
こんな楽しい仕事ないで」
研修初日のこの風景は今も忘れない
2月4日(水) 56,550 36回
苦しい闘いが続くなぁ
回数が少なすぎる






