2021年12月31日金曜日

詰まるところ、目指すところは「固定給制」なのかもしれない

 今年もコロナ禍に見舞われた1年だったが、雇用調整金による休業あり、最低賃金で働かざるを得ないドライバーも多かったかもしれない。

そんな中、ふと

そもそもタクシー業界の(ほぼ)完全歩合制は労働者のモチベーションを上げるために効果的なのだろうか?

という疑問が浮かんだ。

答えはノーである

このタクシーの歩合制こそが、多くの労働者のモチベーションを逆に下げ、サボタージュにつながり、ひいては市場に出回るタクシーの稼働数を下げ、利用者の不便を招いている。

タクシーの歩合制とは、要するに完全インセンティブ制であり、インセンティブに関連する記事をいくつか見ていると、

一歩間違えると逆効果に!インセンティブ制度がもたらす功罪

https://www.desknets.com/media/workshift25/

うまく制度設計を行わないと、インセンティブを得られる社員とそうでない社員が明確に分かれてしまい、下手をするとインセンティブを得られない社員のモチベーションが下がってしまいます。

的を得ている。

インセンティブに効果なし

もし結果を出せばもっと報奨金を支払う、と言われたら、あなたは自分のやり方を変えますか。

過去、この質問を成功されている社長の方々に何度もしましたが、彼らの答えはいつでも"NO"でした。あなたも同じように答えるのではないでしょうか。


実際インセンティブに業界の効率を上げる効果はあまりないのである。

タクシーの歩合制は経営者側のコストを下げるために、またそれにより際限なく乗務員を雇用するためにほとんどの業者で当たり前のように採り入れられていたが、最低賃金制や労働時間の規定が厳しくなり、ドライバー不足が常態化しつつある昨今、歩合制を続けていては業界の未来はない。

来年はタクシーの、もちろん”ささやかなインセンティブ”歩合はつけた上での「固定給制」について研究してみよう(お前が研究して何か変わるのか?)。


2021年11月29日月曜日

未来のタクシーの話(面接編)

 「まず何故タクシーに乗りたい、タクシー業界に関わりたいと思いましたか?」

2種免許に関する確認の後、面接の最初の質問は予想した通りのものだった。

大学生が就職活動でタクシー会社へ面接に来るのは珍しいのかもしれない。

「はい。この業界に可能性を感じています。これからはスマホでどんどんと新しいシステムが出来てタクシーとつながったり、自動運転も実現される未来がもうすぐそこに来ています」

あえて「(来ていると)思います」という表現を使わず、断定的に未来を語ってみた。

左に座っている面接官は白髪、薄毛の見た目60代で、部長のような貫禄も感じる。

その横に座って、メモを取っているだけのような男性は40代くらいに見える。

面接室に入るときの笑顔が印象的だった。

「うーん…自動運転が実現されたら、運転手いらなくなっちゃうよ」

想定していた質問のひとつだった。

「自動運転を操縦するオペレーターも必要になるはずです。タクシーは路線バスみたいに決められたルートを走るわけではありませんから、機械室でオペレーターが操縦するイメージを持っています。そんなオペレーターになりたいです」

部長らしき面接官は難しい顔をして聞いていた。

少し間を空けて、ペンの先端で紙にトントンと軽く叩きながら、

「ということは、君は現在のタクシーを運転する、したいという気持ちはあまりないのかな」

この質問も想定していた。

そもそも最初から、「運転が好きです。だからタクシー運転手になりたいです」とストレートに言えば、それで普通に決まりきった面接のやりとりを終えて、自分の年齢から言っても問題なく内定をもらえたのかもしれない。

しかし、未来の話がしたかった。

本当にこの業界に興味があったし、それを分かってほしいという気持ちは強かった。

ある意味、それでおかしな奴だと思われて内定がもらえなければそれで良いと思っていた。

「タクシー運転手にはなりたいです。もちろん簡単ではないと思いますが、何年かかけて、一人前のドライバーになりたいです。ただ生涯ドライバーをする気は正直ありません。今からタクシーの形は変わっていくと考えているので、その将来に期待してここにいます」

見た目部長は少し馬鹿にしたような笑いを浮かべて、となりの若い面接官を見た。

大きなマスクをしている見た目40代の面接官は、そちらは見ずに違う種類の笑みを浮かべていた。

「面白いですね」

部長に言ったのか、自分に言ったのか分からないような少し小さな声で、若い方の面接官はつぶやいた。

「ただゲームじゃないんだから、操縦室でオペレーターが車を動かすってのはないんじゃないかな。そこで車両を動かすなら、そもそも『自動運転』ではなくなってしまうし、1台だけ動かすなら運転席に座ってたら良い。操縦室にいたら、事故になったときはそのドライバーの身は安全だけどね(笑)」

「だから、複数の車両を動かすんですよ。今ならドライバーは1台しか動かせないですけど、1人で複数…5台とか、6台、もしかしたら数十台の車両を動かせたらすごいですよね!」

部長はもう相手にしてられないと思ったのか、もう聞いてもいなかったのか、資料をめくりながら恐らく話とは関係ないメモをしていた。

終始優しい笑顔を浮かべていた見た目40代の面接官は、少し厳しい表情になった。

「それは危なすぎるよ。安全が全て、合理化、効率化の前に当然ながら安全が第一だから。それが我々の仕事、君ももしこの業界に入るのなら、安全を犠牲にした未来の夢なんてありえないから、それは肝に銘じた方が良いですよ」

「そ、そうですね」

少し強い口調で言われて、勢いに押されてしまった。

夢を語り始めたら、もっといろいろあったが、「安全かどうか」という現実を突きつけられると潰えてしまう夢もある。

「ただ君の描いている自動運転のオペは難しいかもしれないが、決まったルートを走る複数の自動運転車をオペ室で管理するという業務はありえるかもしれない」

「決まったルートですか…それならバスと同じですよね」

「そうだね。基本的にはバスに近い感覚かもしれない。ただ、通勤時間帯以外にあの大きな車両(バス)が道を占拠して、毎日決められた時間に走る必要があるだろうか」

「必要ない…ですよね」

「一概に不要とは言い切れないけど、地域の状況によっては日中でも空のバスが決められたルートを多量の排気ガスを出して走っているということも少なくない」

「路線バスこそ自動運転に代わっていくんじゃないですか。ルートは決まってるわけですし」

「もちろん、そういう考え方もあるけど、多くの乗客を乗せて走るバスについては導入には時間がかかると思うよ。いろいろな課題があるけど、先に触れた安全面(事故が起きた際の損害が大きい)もその一つだね」

「自動運転なら、バスジャックって誰を襲ったら良いんですかね(笑)」

「バスとタクシーを合わせたような、それでいて安全面の課題も少ない形が自動運転車の導入当初として考えられる。具体的には決まったルートを走る少数しか乗れない、そして速度が非常にゆっくりしか走らない車両。『グリスロ』と言われいてるものだけど、知ってるかな」

「聞いたことあります。グリーンスローモビリティですよね」

「そう!例えば、基幹駅からA地点、B地点、C地点へ行って、同じルートを折り返してくるグリスロXがあり、もう一つはA地点、C地点を通り円形にルートを取るグリスロY、kの二つの車両は15分から20分くらいの周期で時刻表なしで動き続ける。そしてC地点は例えば集合住宅地の中心で、そこからワゴン型の乗り合いタクシーで自宅まで行ける」

「はい。なんとなくイメージ出来ます」

「そんなモデルを、まあ恐らく市だったり県の交通課みたいなところと、そういう絵を描いて、地域の交通をデザインしていく。そんな時代になるんじゃないかな」

「現実的にはいろいろと問題ありそうですね」

「その通り(笑)そんな簡単なもんじゃないよ。最初は乗る人もいないし、儲かる話じゃない。そんな中で結局タクシーはなくならないし、乗り手は少なくなっていく。広告なんかのシステムが確立されたら、今よりずっと儲かる、ドライバーの収入が高くなる時代が来ると思ってます」

「結局ドライバーですか。そこに持っていきたかったんですね(笑)」

話の間スマホをずっといじっっていた部長は、子どもの夢物語がやっと終わったという表情で一息ついて、次の質問へ移った。

「それで、2種の自動車学校へはいつ頃から行けそうですか?」

2021年10月31日日曜日

ミスタータクシー 渡辺博道氏

 自民党ハイタク議連事務総長「ミスタータクシー」千葉6区渡辺博道氏が当選確実出たみたい…(なんの話?)

宣言解除も苦境「タクシー」政治から見た根本問題

渡辺さんは千葉でタクシー会社の経営もしておられた国会議員、渡辺さんが8回目?の当選かな。

小泉政権タクシー規制緩和で業界はひどい目に遭ったが、自民党にもタクシーの分かる議員がいる。

なかなか良いこと言うやん。
高齢(71歳)やけど、永田町でも若い後継者を多く作って、政治(立法、行政)の世界からも業界を変えていってほしいね。
当選おめでとうございます。


2021年9月30日木曜日

コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル

読書の秋だが、東洋経済オンラインの「流転タクシー」著者である栗田シメイさんが著書を出したと聞いては読まないわけにはいかない…

期待通りというか、自信持って勧められる内容やった(なにげにアソシエイトリンク貼り付けんな)。

主には栗田さんが「流転タクシー」で書いてきた内容をまとめたものだが、このシリーズの始まりを見ると、昨年の4月…本当にコロナで傷んだ業界を取材されていたことを実感した。

本を読めば分かるが、栗田さんはこのコロナ禍でもとにかく足をつかって、現場のドライバーに会って取材されている。

面白い(有用な?)情報があると思えば、連絡する(俺にも何度か直接連絡くれたし)。会いに行く。

「記者なら当たり前やろ」

という人もいるかもしれないが、会いに行くのは有名人でも、財界人でもなく、

タクシードライバーなのである

内容は読んでもらうとして…(もう少し詳しく教えろ)

第一章 緊急事態宣言と東京のタクシー

この時期に東京のタクシーがどれだけ打撃を受けたか

第二章 壊滅した成田空港タクシー

成田で稼いでたドライバーさんの話、外国人が入ってこないから落差激しいよね

第三章 群雄割拠、乱世きわめる大阪タクシー

大阪名物?格安タクシーワンコインドームのドライバーさんのブログも紹介されてる↓


第四章 トヨタ経済圏とタクシー

名古屋って、昔からタクシーの稼げる街と聞くけど、やはりトヨタとの関係が大きいのかな。

第五章 ロイヤルリムジン、600人一斉解雇騒動その後

ロイヤルリムジン問題ね…栗田さんは金子健作社長への独占取材もされてる(金子社長のブログとかあんのか)

第六章 タクシー配車アプリは業界の救世主か、破壊者か

個人的にはどちらでもないと思うなぁ、これで利用のパイを劇的に増やせるわけではない気はする。しかし今後重要な広告のプラットフォームにはなると期待している。

第七章 年収1000万円、スーパードライバー達の仕事術

これはドライバー読者にとって最も興味ある章やろね…こういう人たちは実名でマスコミとかに出てきたら良いねんな(残念ながら仮名やな)

第八章 ドライバー経験を基にしたユニークな生き方

タクドラから弁護士になった的場守夫さん(この人新聞で見たことあるわ)

タクシー乗りながら議員になった下田大気(ひろき)さんの話も出てる(フェイスブック友達やんな)


彼の著書も読んだし(古いやろ)

同じくタクシードライバーから議員になった宮坂裕之さんの話も面白い(この人は知らんかったな)

第九章 人生を強く切り開く女性ドライバー達

これからはどんどん女性に入ってきてほしいよねぇ…(何が目的や)

歌手を目指す當山りえさん、応援します!(健全か)


第十章 新卒ドライバー達の、とらわれのない業界観

新卒ドライバーねぇ…まだまだ難しいのかな。この辺は課題山積。

第十一章 外国人ドライバーは人手不足解消の希望となるか

なります! 規制緩和賛成! 岸田さん頼むぞ(妙に力入ってんな…小泉竹中の規制緩和は勘弁やけどな)

芸能人?のバルビーシンさんの話も面白い。


栗田さんの「流転タクシー」シリーズは毎回読んでるが、最初は正直タクシーを暗い業界として見ていた部分はあったと思う。

それでも、業界の今、そのままを描こうと取材をされている中で、彼なりに業界の未来への光のようなものを見つけて、そこにフォーカスしていくというシフトを感じている。

あとがきの最後の部分を書き写させていただく

新型コロナウイルスという未曽有の感染症は、タクシー業界を蝕んだと同時に、転換の機を与えた。

自動運転時代、相乗りの解禁、ドライバーの人材難。

今後直面するであろう、さまざまな問題を克服するため、変化を拒んできた業界に対する試練のようなものではないかと。

そして、その危機を乗り越えることで、業界は真正の強さを帯びていくだろう。

さらに書き続けてもらうことで、その光はもっとはっきりとしたものになるのではないか。

時間はかかるだろうが…

次の記事も期待してます!!

2021年8月31日火曜日

電脳交通?

 CNETジャパンに、「電脳交通」なる、いわゆる「タクシーベンチャー企業」の記事が出ていた。

100年変わらないタクシー業界をDXで救う--徳島発のMaaSベンチャー「電脳交通」の挑戦

タクシー業界のDX(デジタルトランスフォーメーション…IT活用による改革)を掲げ、家業である徳島の小さなタクシー会社「吉野川タクシー」を継いでいた近藤洋祐氏が2015年に「電脳タクシー」という会社を起業している。

それにしても、吉野川タクシーというのは、いかにも「地方のタクシー会社」という感じで良い味を出している…


※日経ビジネスの記事(https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00341/080500001/)より

メジャーリーガーを目指し?アメリカに単身渡米していた近藤氏は経営が傾いていた実家のタクシー会社を立て直し、このタクシー業界の古い体質を変えようと起業したという内容である。

近藤氏はまだ30代半ばと若くイケメンで、話の内容としては、東京日本交通の川鍋一朗社長に少し似ている(会社の規模が少し違うな…)

自身が2種免許を取得し、とにかく現場から情報を集め、業界の空気を捉えたという話は興味深いところである。

また気になるのは、この記事のタイトルとなっている、

100年変わらないビジネスモデル

というところである。

この説明としては、

「タクシー事業は1912年に東京の有楽町で始まったが、タクシー業界のビジネスモデルは、それから100年以上ずっと同じで変わっていない。どういうことかというと、現金が毎日回っているので、自転車操業がずっとできてしまう。だから、現在約6000社ある国内のタクシー会社は、みんなずっと同じ課題を抱えている」

要するに、日銭を稼いでそれを運転資金にまわし、大きな改革をすることなくここまで来てしまっているということかな。

付け加えるのなら、地域の業者がつるんで、自治体(地域行政)を囲い込んで新規参入を防いできた(だから改革など必要なかったんやな)。

そこで近藤氏の立ち上げた電脳交通は、HPを見ると、主要事業は主に「クラウド配車システム(遠隔配車システム)」のようである。

配車をシステム化して、コールセンターのようなところで、ゆくゆくは全国津々浦々の配車を請け負う…それにより地方のタクシー会社には配車室はなくなる。

いろいろと問題はあるのかもしれない。

まず遠隔配車の問題としては、地域の事情を把握していない。

電話で場所を言われても、オペレーターにはよく理解出来ないということである。

アプリ上での配車ならともかく、記事にもあるように、タクシーの配車のほとんどは電話受付であり、これは恐らくこの先も大きくは変わらない(高齢者がアプリでタクシーを呼ぶ時代はまだ見えてないな)。

ただこれはスマホの位置情報が常にオープンになる時代が来れば、ある程度解決するかもしれない(予約者がどこから電話をしているか、地図上に表示されるということね)。

あと、配車室がなくなって人員コストを削減出来たとしても、法律上営業所に運行管理者はいなくてはいけない。

運行管理は遠隔管理(電話での点呼など)は認められていないので、配車がなくても営業所における管理者コストはかかる(小さな営業所は大体社長さんが配車も運行管理もしてるんやな)。

あと何より、人的コスト、配車コストなどが抑えられたとしても、

古いビジネスモデルを破って、新たな収入源を創りだす

というところが業界にとっての大きな課題(収入アップ)である。

ここは、

都市部においては広告(車両ステッカーの価値向上、アプリ広告など)

地方においては行政との連携(交通過疎地における運送計画)

などが考えられるが、同社について後者は既に取り組まれているようで、そこには注目している。

何より若い経営者がこの業界の改革に取り組んでいること、そして第2、第3の近藤氏が現れることで、業界に化学変化が起きていくことを期待しよう。








2021年7月31日土曜日

東京は五輪特需?

 本当なら今頃、東京のタクシーは未だかつてない「五輪特需」に潤っていたはず…

と思っていたら、それでも(無観客でも?)五輪特需なるものはあるらしい。


実は「五輪特需」で潤うタクシー、その内情と不安

https://toyokeizai.net/articles/-/444295


一時的ですが、コロナ前の水準まで売り上げが戻っています


この状況で、コロナ前の水準って信じられないけど(コロナがなければ全くタクシー足りてなかったいうことやな)


栗田さん、タクシー書き続けてくれて、有り難いな

2021年6月30日水曜日

オリンピックなんて

「オリンピックなんて、やめちまえば良いんや」

「何故ですか?」

「何故って、お前、当たり前やんか。コロナよ、コロナ、どんどん広がって、えらいことになるで」

「そうですか…それなら、お客さん、とりあえずマスクはしてもらえますか」

「…あ、あぁ、わかっとるわぃ」

「わたしはオリンピック、やってほしいですけど」

「はぁ?何言ってんの?」

「見たいじゃないですか」

「はぁ?お前が見たいからって、コロナが広がって、人がどんどん死んでも良いんか?」

「良いわけないですが」

「なら、なんでオリンピックやれなんて言うんや?」

「オリンピックをやって、人がどんどん死ぬとは思わないからです」

「何を根拠に?」

「いえ、失礼ですが、何を根拠にオリンピックで人がどんどん死ぬと思われます?」

「そりゃ、お前、今までどんだけコロナで人が死んでる思うてんや」

「イベントで、ですか?プロ野球やJリーグの観戦者からコロナが広がって、人がたくさん死んでますか?」

「そんなん、知らんけど…多分めっちゃ死んでるわ」

「そんな話ありませんよね。今ヨーロッパでサッカーのヨーロッパ選手権(EURO)やってますが、ヨーロッパ中を人が行き交って、国によってはスタンド満員にして、マスクもほとんどしてませんよ。ヨーロッパであの大会をやめろなんて話はそんなに(日本のオリンピックほど)出ていないみたいですけど」

「そんなん…阪神ファンには魂があるからな。コロナなんかにかからへんのや。サッカーとか、よう知らんわ」

「阪神ファンが阪神戦を楽しみにしてるのと同じように、日本中、世界中にオリンピックを楽しみにしてる人たちがたくさんいて、わたしもその一人です」

「それで人が死んでも良いんか?」

「死にませんて。ただオリンピックをやめることで死んでしまう魂はたくさんあると思います。何年もそこに向けて努力してきた選手はもちろんですが、大会に向けて準備してきた人たち、楽しみにしている人たち、多くの魂は死んでしまうでしょう」

「菅(総理大臣)があかんのや。あいつがアホやから…」

「わたしは菅さんはすごいと思いますよ。これだけの反対を押し切って、おそらくやめてしまった方が百倍楽ですよ。それでも、選手や楽しみにしている国民のために身を削って大会開催に進んでいる。すごいことだと思います」

「あんなんアホなだけや。何も分かってへん。オリンピックで裏から金が入るからがんばってるだけや」

「裏で何があるかは、我々少国民には分かりませんが…百歩譲って、いくばくかの金が入るとしても、そんなものより今のストレスの方が余程大きいでしょう。この先、それほど長くない人生、金なんて入っても仕方ありませんよ」

「いや、金や。世の中やっぱり金やで。いくつになっても同じや」

「それにしても、ネット世論というのは怖いですね…無難な方に流れていく。みんな何が良いのか、何が正しいのかなんて分からない。多くの人が言ってる方になびけば間違いないと思い、ネットを彷徨う。方向性(今回はオリンピックをやめろという流れ)が決まれば、一気にそちらへ流れます。もう少数意見は許さない…本来は少数意見を言える場がネットだと思うんですが」

「ネットとか、よく分からんわ。オリンピックやめたら、それで良いんや」

「それで、お客さんにとって何か良いことがあるんですか?何かをやめるということは間違いなく残念で、二度と戻ることはありません。ネガティブな方向へ世の中が進み、ネガティブな意見がマジョリティになるのも、すごく残念なことです」

「なんか横文字ばかり並べられたら、よく分からんわ」

「『オリンピック』も横文字ですよ」

「そうなんか…?よう分からんわ」

「とにかく、無事オリンピックが行われたら楽しみましょうよ。ポジティブにみんなが笑顔になることが何より健康なことです。きっと、いろいろ良くなりますよ」