2014年3月27日木曜日

タクシーストーリー⑤~教習所 前編

面接の3日後から、俺はその「提携」の自動車教習所へ通い始めた。

初日に簡単な説明があった後は、

午前中に学科、午後に実技というのがその教習所の流れだった

以前は逆で、午前に実技、午後に学科やったらしいが、昼飯後の学科教習はほとんどの生徒が寝ているために今のようになったらしい。

実技教習を問題なくこなして行けば、

一週間後の検定を経て卒業となり、

試験場で学科試験をクリアすれば、晴れて2種免許取得となる。

初日の説明の後いきなり学科教習があったが、

教官は妙にテンション高かった。

「お前らなぁ、2種なんて所詮『タクの免許』なんて、なめてるかもしれへんけどなぁ。そんな簡単に取れるもんやないで。

いや、取らせへんで!」

ここはどこやねん。

「取らせへん」って・・・、あんたらの存在価値はなんやねん。

「2種の学科はなぁ、合格ライン何点か知ってるか?はい、そこのメガネくん」

教官は、前の方に座っている生徒を指して答えを求めた。

それにしても、「メガネくん」とか、自分が眼鏡かけてるくせに言うな。

前に座ってるメガネくんは、いきなり振られて戸惑っていた。

「・・・え、あの・・・70点くらいですか?」

ダサい眼鏡をかけてるくせに、髪の毛はジェルで固めている年齢不詳の教官は、あきれたように首を振って、両手を広げた。

「ちょっと君ぃ、普通1種の免許でも合格ラインは80点なんですよ。はい、となりのお姉さん分かる?」

「お姉さん???」、確かに後から見たら、髪の長い、しかも茶髪系の女性が前の方に座っている。

後から見る限り、結構イケてる。

なんで、あんな女性がここに・・・

「90点です」

テンションの高い教官は、「バン」と机を叩いて、

「その通り、合格ラインは90点です!」

教官は踊るような仕草で続けた。

「本番の学科試験が90点ということで、ここでの卒業検定の合格ラインは95点になっています。要するに、ほとんど満点でないとここは卒業出来ませんよ!」

そのとき、俺は思った。

こいつ(教官)と1週間以上付き合いたくない。


2014年3月19日水曜日

おすすめ本~東京タクシードライバー

こちらのストーリーは一休みして、

いやぁ・・・読書の季節ですねぇ(なんやねん)。

タクシーの車内ほど読書に適した場所はないと思ってます

空車待機時は誰にも邪魔されず(暇な運転手が窓たたいて、しょうもない会話振ってくるやん)

読書に疲れた頃に客が乗ってきてくれたりして(お前一度も客乗せずに本一冊読んだこと何度かあるやろ)

まあ、とにかく年度末で学生さんなんかも時間あるやろし(学生はお前のブログなんかチェックしてないわ)

おすすめのタクシー本を紹介します
山田清機さんのノンフィクションタクシードラマで、

10話のショートストーリーになっている

「東京タクシードライバー」というタイトルは正直広すぎる感じもするが(SEO的な匂いがあるな)、

 副題が良い。

 「夢破れても人生だ。夢破れてから、人生だ」

 「一台のタクシーに1人の人生(ドラマ)が乗っている」

解説はあえてしないが、良いコピーやねぇ。

さらに10話のタイトルも中々掴みがある。

第1話 奈落

第2話 福島

第3話 マリアと閻魔

第4話 「なか」

第5話 ひとりカラオケ

第6話 泪橋

第7話 缶コーヒー

第8話 愚か者

第9話 偶然

第10話 平成世間師

長いあとがき

見ただけで読みたくなるようなタイトルが多いが、

とりあえず今回第1話の「奈落」をここで紹介しよう。

東京日本交通新木場営業所の荒木徹さんという運転手の物語りである

現在は営業所で班長まで勤める荒木さんは45歳と、ドライバーとしては比較的若い部類に入る。

会社員から32歳で脱サラして稼業の飲食業を継ぎ、結婚して子供も生まれるが、

奥さんとうまくいかずに離婚、調停で子供も連れていかれ、

そのことで両親ともギクシャクして、

36歳で家を飛び出す

その後地元の茨城から東京へ出て、

職を転々とする((カッコ内は収入)

新聞拡張員(歩合給、食事代1日500円)
 ↓
 ホームレス(0円)
 ↓
NPOの生活保護施設(賄い付き施設、「就職活動費」月4万円)
 ↓
テレクラチェーン(暴力団系で面接のみ)
 ↓
ソープランドの呼び込み(記載なし、リンチを受けて1週間で逃げる)
 ↓
人材派遣会社(愛知県の自動車部品製造業、手取り18万円)
 ↓
読売新聞配達員(手取り12万円)

職業に貴賎はないが、それにしても収入が厳しい。

そんな生活を1年半経て、

彼が辿りついたのが、タクシーやったわけで

37、8歳かな、タクシー会社ではピチピチの「若者」、大歓迎ですよ。

初年度からいきなり営収750万

歩率60(%)ちょっととして、月収約40万になりますね

1年半で180万あった借金を全部返して、

しかも150万の貯金を作ったそうです。

これだけ見ると、

荒木さんは何故もう少し早くこの仕事(タクシー)に気付かなかったのか

と思うよね。

荒木さんに限らず、

「なんでもっと早く・・・」

日本中のタクシードライバーが感じていることだと思います。

ここでは表面を紹介したけど、

ストーリーとして中々いけてますよ、

特にこの話では最期の1行がグッときました

良かったら是非読んでみてください。

また機会あれば、他のストーリーもここで紹介させてもらいます。

2014年3月11日火曜日

タクシーストーリー④~面接

タバコの匂いがした。

地域ではそれなりに知られているタクシー会社で、利用したことも何度かあるが、

プレハブ作りの事務所に来るのは、もちろん初めてだった。

(タクシー会社って意外と儲かってないんかな・・・)

イメージとはちょっと違ったが、意外とテンションはそれほど下がらなかった。

「AIPソリューション?何する会社これ?」

プレハブの狭い事務所の隅に、セパレーターで囲ってあるだけのスペースで面接は始まった。

電話で横柄な対応をした「所長らしき人物」は、電話での印象とは違い、小柄で神経質そうな表情で、老眼鏡のような眼鏡をかけて履歴書に目を落としていた。

「はい、海外の企業が日本に拠点を構える際に、自国で使用しているシステムと日本のシステムとの互換性を構築して・・・」

所長らしき人物は顔の前で大きく手を振って遮った。

「よくわからんから、もういい。タクシーに全く関係ないことだけは分かった。アメリカの大学出てるんか?」

「はい」

「それで何でまたタクシーに乗りたいと思ったの?」

やっぱりそこ聞くか。

なんて説明しよか・・・

「はい・・・今は技術系の仕事してるんですけど、一日中コンピューターに向かって仕事してるとなんか世間に取り残されているような気がしてきて。今の会社でもいろんな提案はするんですけど、ほとんど聞き入れられずに、パターン化してきてるようなところもあって。そういった部分で上司とぶつかることもあって・・・

なんかこう、うまく説明出来ないんですけど、外の景色を見ながら、生きてる情報に接しながら仕事がしたいと思って、それがタク・・・」

「よく分かった、要するに人間関係ね。よくあるよ。っていうか、ここに来る連中そればっか。まあ、とりあえず免許証見せてくれる?」

 
「め、免許証ですか?」



いきなり免許証の提示を迫られ、俺は「聞いてないよ・・・(電車で来てるし)」と思いながら、ポケットに手を入れた。

「まさかドライバーになろうっていう人が免許証持ってきてないなんてことはないやろね」

鬼の首でも取ったかのように満足気な笑みを浮かべる「所長らしき人物」の横に座っていたのは、見た目40代の、色の黒い小太りの男性だった。

その小太りの男性は何も言わず、ずっとただ目を下に落として何かをメモしているようだった。

ポケットを探っている俺を横目に、所長らしき人物は続けた。

「免許証も持ってないんなら、今日の面接は出来へんけど・・・」

「いえ・・・あ、ありました」

俺はポケットのカード入れから免許証を出して渡した。

所長らしき人物はじっとその免許証を見ていた。

「ふん・・・ふん、分かりました。2種は持ってないんやね?」

「はい」

セパレーターの向こうから、パートらしき女性が俺の免許証をコピーするために入ってきた。

ずっと話聞いてたんかよ・・・

「まあ、免許取って7年経ってるから(2種)取得は可能ですよ。うちの提携の教習所で取ることも出来るけど、どうする?」

「どうするって・・・求人欄に書いてあったんで、取らせて頂こうと思って来たんですけど」

「自分で取って来てもええんやで」

「いや・・・自分でって、こちらで取らせてもらえるもんだと・・・」

「金かかるよ」

「金??ですか。『2種取得可』って書いてあったんで」

「『無料』なんて書いてあったか?」

「いえ・・・それは」

「あんたが教習所に行って、あんたの名前で免許証作るわけやから、当然金はかかりますよ」

 ちょっと戸惑ったが、言われてみれば確かにそうだ。

2種免許取得をちょっとした企業研修みたいな感覚で捉えていたが、考えてみれば2種免許を取ればそれはこの会社だけでなく、日本中のタクシー会社で通じることになる。

「どのくらい(お金が)かかるもんなんですか?」

「そりゃ、あんたの頑張りかたにもよるけど、20~30万かな」

えー!そんなにかかるの?

講習受けて、2~3万で取れるもんやと思ってた。

「自分で行ったら、もっとかかるわけですか?」

自分で取りに行くなんて考えてもなかったが、一応聞いてみた。

「いや、自分で飛び込みで行ったら、(となりの男性に聞きながら)一回7千円くらいか? うまく行けば諸費用込みで数万で取れるんちゃうの」

そこで初めて「となりの男性(トトロか)」が口を開いた。

「飛び込み受験は実際は1回で受かることはほとんどありませんし、最近は年々厳しくなっているのが現状です。こちらで取得した場合も、もちろん費用はかかりますが、2年間で償却していく形を取らせてもらってます」

「償却?ですか」

「はい、例えば取得費用が24万円かかったとします。

何らかの事情で3ヶ月で辞められたときには、3か月分の3万円を差し引いて21万円を負担してもらいます。

しかし、2年間24ヶ月勤められたときには全額が償却されて負担はなくなります」

なんだよ。先に言ってくれよ。

最初から、数ヶ月で辞めるっていう設定で(自費取得)迫るなよ。

それにしてもこの「となりのトトロ」、見かけによらず出来そうやな・・・

「あぁ、そうなんですか。それならこちらでお願いします」

所長らしき人物は、眼鏡の奥の目をきつく光らせた。

「本当に、大丈夫?」

俺はその目をしっかり見て、言った。

「はい・・・多分」

2014年3月4日火曜日

タクシーストーリー③~俺がタクシー会社に行ったとき

次の日、俺はあるタクシー会社の前に立っていた。

前日に酔ってタクシーに乗って帰ったわりにはその日は早く目が覚めて、

朝から「タクシー 求人」で何度も検索していた

最初に電話した会社に面接に行こうと決めていた。

どうせ悩んでも切りがないし、どこも同じやろと・・・

ただ営業所が自宅から近い会社を探して電話してみた。

「あの・・・ネットの求人広告見たんですけど」

「・・・ネット・・・ですか?」

電話を受けた女性は、電話越しに誰かに伺いをたてていた。

(うち、ネット求人なんてしてるんですか?)

「すみません・・・ちょっと担当者に代わりますね」

「・・・はい」

代わって電話に出た男性は、恐らくその営業所の所長らしく、かなり横柄な対応やった。

「もしもし?タクシー乗りたいの?年いくつ?」

最初に電話を受けた女性から「(電話主は)若そうや」ということを聞いていたのだろう。

それにしても、いきなりタメ語はカチンときた。

「はい・・・27歳です」

また電話の向こうで声が聞こえた。

(おい、20代やって)

笑い声もかすかに聞こえた。

「27歳かぁ。若いねぇ。またどうしてタクシーに乗りたいと思ったの?」

「はい・・・あの・・・今の仕事でいろいろあって、もっと自分のペースで仕事がしたいっていうか、ブログとか見てたら『自由な仕事』なんて書いてあったんで」

鼻で笑う声が聞こえた。

「・・・ブログですか。いやぁ、若い人は見るところが違いますねぇ(笑)。まあ、とりあえず履歴書持って一度面接に来てもらえますか?」

言葉は敬語に変わったが、明らかに見下したというか、トゲのある敬語やった。

「分かりました。いつ頃お伺いしたらよろしいでしょうか?」

「あぁ、いつでもいいよ。今日空いてるの?」

「あ、はい」

「仕事は?」

「ちょっと・・・休みました」

ため息のような空気を受話器越しに感じた。

(これは、ダメやな)

「じゃあ、昼過ぎに来れる?」

「あ、はい」

信号の向こうに、タクシー会社の事務所のドアが見える。

歩行者信号が青になった。

俺はその信号を渡らずに、事務所のドアをじっと見つめていた

信号が点滅した。

赤になった。

目をつむった。

いろんなことを考えた

信号がまた青になった。

俺はその信号を渡った。