「まず何故タクシーに乗りたい、タクシー業界に関わりたいと思いましたか?」
2種免許に関する確認の後、面接の最初の質問は予想した通りのものだった。
大学生が就職活動でタクシー会社へ面接に来るのは珍しいのかもしれない。
「はい。この業界に可能性を感じています。これからはスマホでどんどんと新しいシステムが出来てタクシーとつながったり、自動運転も実現される未来がもうすぐそこに来ています」
あえて「(来ていると)思います」という表現を使わず、断定的に未来を語ってみた。
左に座っている面接官は白髪、薄毛の見た目60代で、部長のような貫禄も感じる。
その横に座って、メモを取っているだけのような男性は40代くらいに見える。
面接室に入るときの笑顔が印象的だった。
「うーん…自動運転が実現されたら、運転手いらなくなっちゃうよ」
想定していた質問のひとつだった。
「自動運転を操縦するオペレーターも必要になるはずです。タクシーは路線バスみたいに決められたルートを走るわけではありませんから、機械室でオペレーターが操縦するイメージを持っています。そんなオペレーターになりたいです」
部長らしき面接官は難しい顔をして聞いていた。
少し間を空けて、ペンの先端で紙にトントンと軽く叩きながら、
「ということは、君は現在のタクシーを運転する、したいという気持ちはあまりないのかな」
この質問も想定していた。
そもそも最初から、「運転が好きです。だからタクシー運転手になりたいです」とストレートに言えば、それで普通に決まりきった面接のやりとりを終えて、自分の年齢から言っても問題なく内定をもらえたのかもしれない。
しかし、未来の話がしたかった。
本当にこの業界に興味があったし、それを分かってほしいという気持ちは強かった。
ある意味、それでおかしな奴だと思われて内定がもらえなければそれで良いと思っていた。
「タクシー運転手にはなりたいです。もちろん簡単ではないと思いますが、何年かかけて、一人前のドライバーになりたいです。ただ生涯ドライバーをする気は正直ありません。今からタクシーの形は変わっていくと考えているので、その将来に期待してここにいます」
見た目部長は少し馬鹿にしたような笑いを浮かべて、となりの若い面接官を見た。
大きなマスクをしている見た目40代の面接官は、そちらは見ずに違う種類の笑みを浮かべていた。
「面白いですね」
部長に言ったのか、自分に言ったのか分からないような少し小さな声で、若い方の面接官はつぶやいた。
「ただゲームじゃないんだから、操縦室でオペレーターが車を動かすってのはないんじゃないかな。そこで車両を動かすなら、そもそも『自動運転』ではなくなってしまうし、1台だけ動かすなら運転席に座ってたら良い。操縦室にいたら、事故になったときはそのドライバーの身は安全だけどね(笑)」
「だから、複数の車両を動かすんですよ。今ならドライバーは1台しか動かせないですけど、1人で複数…5台とか、6台、もしかしたら数十台の車両を動かせたらすごいですよね!」
部長はもう相手にしてられないと思ったのか、もう聞いてもいなかったのか、資料をめくりながら恐らく話とは関係ないメモをしていた。
終始優しい笑顔を浮かべていた見た目40代の面接官は、少し厳しい表情になった。
「それは危なすぎるよ。安全が全て、合理化、効率化の前に当然ながら安全が第一だから。それが我々の仕事、君ももしこの業界に入るのなら、安全を犠牲にした未来の夢なんてありえないから、それは肝に銘じた方が良いですよ」
「そ、そうですね」
少し強い口調で言われて、勢いに押されてしまった。
夢を語り始めたら、もっといろいろあったが、「安全かどうか」という現実を突きつけられると潰えてしまう夢もある。
「ただ君の描いている自動運転のオペは難しいかもしれないが、決まったルートを走る複数の自動運転車をオペ室で管理するという業務はありえるかもしれない」
「決まったルートですか…それならバスと同じですよね」
「そうだね。基本的にはバスに近い感覚かもしれない。ただ、通勤時間帯以外にあの大きな車両(バス)が道を占拠して、毎日決められた時間に走る必要があるだろうか」
「必要ない…ですよね」
「一概に不要とは言い切れないけど、地域の状況によっては日中でも空のバスが決められたルートを多量の排気ガスを出して走っているということも少なくない」
「路線バスこそ自動運転に代わっていくんじゃないですか。ルートは決まってるわけですし」
「もちろん、そういう考え方もあるけど、多くの乗客を乗せて走るバスについては導入には時間がかかると思うよ。いろいろな課題があるけど、先に触れた安全面(事故が起きた際の損害が大きい)もその一つだね」
「自動運転なら、バスジャックって誰を襲ったら良いんですかね(笑)」
「バスとタクシーを合わせたような、それでいて安全面の課題も少ない形が自動運転車の導入当初として考えられる。具体的には決まったルートを走る少数しか乗れない、そして速度が非常にゆっくりしか走らない車両。『グリスロ』と言われいてるものだけど、知ってるかな」
「聞いたことあります。グリーンスローモビリティですよね」
「そう!例えば、基幹駅からA地点、B地点、C地点へ行って、同じルートを折り返してくるグリスロXがあり、もう一つはA地点、C地点を通り円形にルートを取るグリスロY、kの二つの車両は15分から20分くらいの周期で時刻表なしで動き続ける。そしてC地点は例えば集合住宅地の中心で、そこからワゴン型の乗り合いタクシーで自宅まで行ける」
「はい。なんとなくイメージ出来ます」
「そんなモデルを、まあ恐らく市だったり県の交通課みたいなところと、そういう絵を描いて、地域の交通をデザインしていく。そんな時代になるんじゃないかな」
「現実的にはいろいろと問題ありそうですね」
「その通り(笑)そんな簡単なもんじゃないよ。最初は乗る人もいないし、儲かる話じゃない。そんな中で結局タクシーはなくならないし、乗り手は少なくなっていく。広告なんかのシステムが確立されたら、今よりずっと儲かる、ドライバーの収入が高くなる時代が来ると思ってます」
「結局ドライバーですか。そこに持っていきたかったんですね(笑)」
話の間スマホをずっといじっっていた部長は、子どもの夢物語がやっと終わったという表情で一息ついて、次の質問へ移った。
「それで、2種の自動車学校へはいつ頃から行けそうですか?」
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