2012年5月25日金曜日

5月の日報

ハナミズキの花も(5月1日撮影)、

あかしあの花も(5月16日撮影)落ちて、

5月も終わりが近くなってきたが、

お話の途中に日報を挟むのもどうかと、

営収のアップが出来ずに来たので、

この際一気に行こう。

5月6日(日)
営収 22,460 10回 10.25時間 Max 7,830

5月7日(月)
営収 19,210 15回 11.50時間 Max 2,630

5月9日(水)
営収 27,110 17回 11.75時間 Max 4,390

5月10日(木)
営収 36,720 16回 11.50時間 Max 9,030

5月11日(金)
営収 30,010 16回 12.00時間 Max 7,750

5月12日(土)
営収 30,500 13回 11.25時間 Max 9,510

5月13日(日)
営収 15,140 10回 10.00時間 Max 3,270

5月15日(火)
営収 28,180 17回 12.25時間 Max 3,510

5月16日(水)
営収 35,530 13回 10.75時間 Max 18,630

5月18日(金)
営収 36,660 15回 11.75時間 Max 11,190

5月19日(土)
営収 38,430 21回 11.50時間 Max 9,990

5月21日(月)
営収 32,830 17回 11.25時間 Max 9,830

5月22日(火)
営収 29,340 15回 11.00時間 Max 7,990

5月24日(木)
営収 営収16,940 13回 10.50時間 Max 1,750

今月ここまで14乗務の平均が、

28,504

思ったほど悪くないが、

今日24日の乗務は、

記憶に残るほどの悪さ

年に何度かこういう日がある。

今年に入ってからは快進撃が続いていて、

1月 31,499

2月 35,153

3月 35,619

4月 34,968

35点ペースが普通になっていた。

正直そんなのがずっと続くと思ってた・・・

まあひどいひどいと言っても、

データを見ると、

去年とほぼ同じペースに戻っただけなんやけど

まあ気を取り直して行こう!

2012年5月21日月曜日

謎解きはタクシーの中で〜現場が勝ち組

「そうです。今まで話したことの全てをコントロール出来る人間が一人だけいるのです」

宝塚署のエリート警部の夏祭はこの言葉を聞いて、やっとこいつの長い講釈も終わるのかというほっとした気持ちと、タクシー車内での会話がここまで長引いたことについて、

一体俺の家はどこまで遠いんや

という素朴な疑問を感じていた(何気に遠回りされているとは微塵も疑っていなかった)。

「いよいよ謎解きの本番か。そろそろストレートに行こうやないか。犯人は誰なんだ?」

「そうですね。わたしは話でも仕事でもストレートに行くのはあまり好きではないのですが、まあ時間もないので行きましょうか」

話を引っ張るのもうざいが、「仕事でもストレートに行かない」というのはどういう意味なんだろうと夏祭は考えていた。

「犯人は配車室長の吉塚進です」

「なにぃ!・・・何を言っている。吉塚にはちゃんとアリバイがあるじゃないか」

「配車室にいたもう一人のアルバイトのおじいさんの証言ですか?そんなものをまさか信じているわけではないでしょうね」

「・・・『そんなもの』ってお前、高齢者をバカにするのか。おじいさんたちが真面目に働いてくれなければこれからの高齢化社会を乗り切ることはできないぞ」

夏祭はこの謎のドライバー影村の突っ込みを正面から受け止めることが出来ずに、世間話なのかなんなのかわからない逃げ方をした。

「いや何も言わなくてもこの国では高齢者はがんばりすぎるくらいにがんばってますよ。特に我々タクシー業界はその象徴と言えるでしょう。しかしアルバイトとなると、室長レベルでもいつでも簡単にクビを切ることができます。要するに吉塚に指示されたことは何でもする、言ってみれば『(千と千尋の)顔なし』のような人間の証言がアリバイになるわけがないでしょう」

「顔なし」はそれほど従順だっただろうか、それよりも「ターミネーター2」の方がよっぽどよく言うことを聞いたじゃないかと思いながら夏祭は言った。

「吉塚に動機があるのか?」

この生意気なドライバーの影村に押されっぱなしだった夏祭にしては、これはプロらしい突っ込みであった。

「別の会社の配車室にいる知らないおっさんの動機なんて知ったこっちゃありません。とにかくこの世界、タクシー業界で最も強い権力を持っているのは、それがどういうポストであれ、お客さんの予約の電話を受ける人間なんです。その権力をうまく利用すれば運転手を思いのままに操ることができる。そちらのロジックからこの事件の真相を引き出すことが出来たんです。動機は後から付いてくるでしょう」

「・・・その『ロジック』とやらを聞こうじゃないか」

「とにかく先ほど申し上げたように、わたしのようにこの世界を知り尽くした人間からすると、この事件はその松田という新人運転手が犯したという仮説を立てるといくつもの交差点でぶつかって動けなくなるんです」

「おそらくお前のような運転手は実際にいくつもの交差点でぶつかっていることだろう」

「タクシー会社の配車室にいるような人間はほとんどが元運転手というのが実情です。運転手の中でも会社にうまく媚を売って事務所に入っている人間と言いましょうか」

「ふむ、お前のような運転手は逆立ちしても事務所には入れないということは何となくわかる」

「しかし小さな会社では配車室にいる人間が状況によって車(タクシー)に乗るなんてことはよくあるんですね。元運転手ですから、そんなことは問題なく出来るわけです」

「事務所にいる人間がなぜタクシーに乗るんだ?」

「まあ、理由はいろいろあるでしょう。普通に忙しかったからということもあるでしょうし、ちょっとバイト代を稼ごうということもあるかもしれません」

「吉塚もバイト代を稼いでいたということか」

「まあそれもあるかもしれませんが、今回に限っては吉塚はその被害者の女性と何らかの関係を持っていたんでしょう。男女の関係だったのかもしれません。そして彼女から電話があったときは吉塚が自らタクシーに乗って迎えにいっていたと考えられます」

「それではアッシー君やないか」

「ずっこけるくらい古い言葉ですが、その通りです。そして事件のあった日、彼女から電話があって喜んで配車先のバーに向かったらなんと他の男を連れて乗り込んできた。そこで口論となり手を下してしまったんでしょう」

「うーん、確かに辻褄はあってくるな。それでは小池という運転手はなぜ犯人が吉塚と知っていて黙っていたんだ?」

「吉塚が事件を起こしたあと現場に迎えに行ったタクシーはおそらく・・・いや間違いなく小池でしょう。配車室は客からの電話をもらって運転手に振る、いわばこの世界では最も強い権力を持っている場所です。その権力というか、『えさ』に犬のようにまとわりつく運転手がどの会社にも数人いるわけです」

「会社の犬・・・か」

「そうです。配車室のようなところは犬のように簡単に操れる運転手を何人か抱えているわけです」

「それではその犬・・・小池は事件のあと現場に行って何をしたんだ?」

「おそらく別の犯人を仕立てるために、数日前に失踪していた運転手である松田の乗務員証を車にセットするのが小池の役割だったんでしょう。そして車の鍵を閉めて警察に連絡した。警察はまんまとその飼い主と犬のコンビにだまされたわけです」

夏祭は屈辱と共に、これを俺の手柄にしてしまえばまた昇格できるという下心を胸に抱え、また目を閉じた。

「見事な推理だ。お前のような奴を運転手にしておくのは惜しいな」

「これでもわたしは何度も事務所に入らないかと誘われては断ってるんですよ。一応運行管理者の資格も持ってますし」

「うんこ管理者?ずいぶん汚い資格を持っているんやな。それなら事務所に入ったらいいだろう。少しは社会的地位も上がるぞ」

「・・・あまり知られてませんがタクシー会社でもっとも地位が高く、楽しくて、収入も良いのは運転席なんですよ。実際多くの事務方が最後には運転席に戻ってきます。現場が勝ち組の数少ない職業なんですよ」

そしてこの長いクルーズは終わりを告げ、夏祭の自宅のエルヴィスタマンションの車寄せに影村はタクシーを停めた。

(散々遠回りした)メーター料金は3,500円になっていた。

「どうもありがとう。お前・・・いや運転手さんのおかげでタクシーを見る目が少し変わったよ」

夏祭は5千円札を出した。

「ありがとうございます」

影村は恭しくその5千円札をスーツの内ポケットに入れると、後部座席のドアを開けた。

「またよろしく頼むよ」

夏祭は(釣りを請求することなく)笑顔を見せてタクシーを降りた。

「いえ、タクシーでの出会いは一度きりです。(チップは頂きますが)もう2度と会うことはないでしょう。

2012年5月19日土曜日

謎解きはタクシーの中で〜「給料日まで待てなかったということか・・・」

「ふざけるのはやめろ、真犯人は誰なんだ?」

エリート警部の夏祭の苛立ちは頂点に達していた。

自分のような優秀な公務員が、彼の中で社会の底辺のヘドロのような存在であるタクシー運転手に遊ばれている。とても耐えられない状況であり、正直もう事件のことなどどうでもよくなりかけていた。

しかし気になるのである。

事件うんぬんでなく、どうもこの男の話は気になる。

「気になりますか?」

「ふん、どうせ松田が見つからなければこの事件は迷宮入りする。事件の発覚が遅れたのは、あのタクシー会社の管理体制の問題であって我々警察の責任ではない。要するにお前の推理などどうでもいいのだ」

「松田は見つかりますよ。お客さまのような優秀な警官たちがしっかり捜査されたらの話ですが。しかし彼は犯人ではない。見つかればそのことがはっきりするだけです」

「犯人でなければ、犯人に仕立てたらいい。そういう状況にあるのだから簡単なことだ。タクシー運転手が殺人を犯したとなれば新聞の見出し的にも目立っていいだろう・・・」

ドン!

ハンドルを叩く音がした。

運転席を見ると、影村がハンドルに突っ伏すように震えている。

「あ・・・悪かった。言い過ぎた。あの・・・顔を上げてくれ・・・または車を停めてから下を向いてくれ」

「阪神が負けました。新井は四番の器ではありません。チャンスで打てませんから」

謎の運転手は顔を上げると、目に涙を浮かべていた。彼の話は一貫していないことに関して一貫している。

「・・・設定は2月じゃなかったのか(プロ野球などやっているのか)?」

「お客さま、さすがでございます。良いところに気づかれました」

持ち上げてくれるのはいいが、話的に何か言い訳なり説明なりしてほしいと思いながら、これ以上この男と事件以外の話を続けたら(精神的に)危険だと思い夏祭は話を戻した。

「ところで、お前は犯人が誰だと思っているんだ?さっきの話だと車の様子を見に行った・・・なんと言ったかな」

「小池ですか?」

「そう、運転手の小池が怪しいということか」

「小池は犯人ではありません。もっとも小池は犯人を知っているかも・・・おそらく知っているでしょうが」

「犯人を知っている?なぜ隠す?犯人は一体誰なんだ」

影村は大きく、わざとらしくため息をついた。

「まだわからないんですか?」

「いいから話せ」

もう読者は事件の内容そのものを覚えていないぞ、と思いながら夏祭は高圧的に促した。

「えぇ、まずわたしが松田・・・事件車両を運転していたはずの運転手が犯人ではないと考えた理由は三つあります。一つ目は・・・」

①運転手が山中のルートを選択したこと

「あの山中のルート選択は確かに不自然だ。我々捜査陣の間でも問題になっている」

「もちろんでございます。これを問題にしなければ警察の存在価値などありません」

夏祭も影村の毒舌にやっと慣れてきたのか、この程度の発言には大して反応しなくなった。

「・・・まあいい。具体的にはどういうことなんだ?」

「運転手によってルート選択は違います。とりわけ新人の運転手とあっては最適のルートを選ぶことが出来ないことが多いのも事実です」

「それならどんなルートを通っても不自然ではないというロジックになるんではないか?」

「いえ、いくらチケットとは言え場合によって高速道路を避けて山道を通ることはあってもおかしくありません。決定的な問題はあの東谷の山越えルートは高速道路を通るよりも遠回りになるということです」

「なんだと!山道を通っているのだからてっきり近道だと思い込んでいたが・・・どういうことなんだ?」

夏祭は運転席に乗り出してきた。

「普通に考えて3ヶ月の新人運転手がわざわざ遠回りの下道を通ることは考えられません。しかも松田は大阪出身、伊丹に自宅があります。この上(北側)の道に詳しいとは思えません」

「だからそれはどういうことなんだ?」

「犯人はその方面の道にかなり詳しく、そして何らかの理由で意図的に高速を避けたと思われます」

「高速を避けた?」

「そうです。高速の入口には防犯カメラがありますから運転手の写真が撮られることがあります。『ベテランの運転手なら』そのことを知っているはずです」

そして影村は次の理由に話を移した

②松田がナイトシフトで乗務していたこと

「それがなぜ松田リジェクトする(犯人から外す)理由になるんだ?」

「ナイトシフトというのは要するに夜に仕事を始めて次の日の朝まで乗るスタイルで、タクシーの乗務としては夜と朝の、いわゆる『いいとこ取り』で一般的に最も稼げるシフトです」

「だから何なんだ?」

「松田は入社3ヶ月と言われましたね。そのような新人乗務員が、その美味しいナイトシフトの仕事をさせてもらえるはずがないということです」

夏祭は軽く目を閉じた。

「うーん・・・普通の仕事なら夜中に働くなんてのはいやがって当たり前やからな。新人だからこそ(夜に働かされた)と思っていたが」

「さらに言いますと、被害者が乗車した川北のバーは我々も知っている高級バーです。そういったところは遠方の仕事が多いでしょうから、新人乗務員が配車されて行くのは不自然ですね。もっともこれは決定的な証拠にはなりえませんが」

「証拠?一体なんの証拠だ」

「運転手が松田ではなかった、という証拠です」

そして3つ目

③(松田の自宅の)郵便受けに残された新聞

「松田が事件の数日前から自宅に帰っていなかったことが、なぜ松田が犯人でないという理由になるんだ?」

「タクシーの仕事をしている人間が自宅に帰らないなんてことはあり得ませんよ」

「なぜだ?」

「家でビールを飲みたいからです」

「理由になってない」

「とにかく松田は既に運転手をやめていたということです」

「辞めていた?どういうことだ・・・なぜ家に帰らないんだ?」

影村は少し間をおいた後、トーンを下げて言った。

「残念ながら、この世界にはよくあることです。入社して間もないドライバーが売上金を持って消える。当然自宅に帰ることは出来ませんし、他の多くのドライバーもすぐにそのことを知ることはありません」

「な、な、なんだって。タクシーごときのわずかな売上金を持って人生を棒に振るのか?」

「・・・人生を棒に振るほどのことではありませんよ。それ以前にその運転手が数日でも働いていたら、逃げられても会社はその分の給料を払う必要がありません。会社はほとんど損をしませんから問題にすることもないわけです」

夏祭は信じられないという表情で首を左右に振った。

「給料日まで待てなかったということか・・・タクシーごときのわずかな給料を」

「ま、まあそういうことになりますね。とにかくこの事件は消えてしまったその運転手を影武者に利用した殺人事件ということです」

「影武者?」

「そうです。今まで話したことの全てをコントロール出来る人間が一人だけいるのです」

2012年5月13日日曜日

謎解きはタクシーの中で〜「それが今回の事件と何か関係あるのか?」

「まず今回のタクシー車内における事件には、いくつかの謎がございます」

影村が挙げたのが、

①山中の現場から運転手はどこに、どのように消えたのか?

この謎の運転手は、タクシードライバーにならなければ、プロゴルファーか私立探偵になりたかったらしい。

「ハハハ!何を言い出すかと思えば。そんなことは警察も既に完璧な聞き込み捜査を行っている。地域のタクシー会社にも、松田の知り合いにも一通りあたっている。事件の後に松田を迎えに行ったと思われる証言も怪しげな行動もない。松田は歩いて逃げた。そのために時間を稼いだんだ」

「歩いて逃げたと言われるんですか?2月の半ばにあの山中がどれだけ冷え込むかご存知ですか?死にますよ」

「じゃあどこかで死んでるんだろう」

「・・・犯人はおそらくタクシーを使って逃げたのでしょう」

「なんだと!タクシー会社には全てあたったと言っただろう」

影村は両手を広げ、「参ったな」という仕草をしながら首を左右に振った。

「現場の運転手に聞き込みをしましたか?」

宝塚署のエリート警部の夏祭は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに言葉を返した。

「そんな必要はないだろう。会社の日報を見たら運転手がその日どこに行ったのかくらいわかる」

「わたしがタコメーター、いわゆる運行記録計について伺ったのはそこでございます。タクシーにおける記録計はこの地域では義務化されていません。記録計がなければある程度日報の行く先を変える・・・ごまかすことは可能でございます」

そして影村は次の謎に話を進めた。

②最初に事件車両を見に行った運転手、小池の不可解な行動

「小池の行動のどこがおかしいと言うんだ?」

夏祭にとってこれは意外な視点だったようだ。

「まず第一発見者の一般の方が事件車両に手を出せなかったのは理解できます。事件がいつ起こったのか知らないわけですし、一応タクシーですから車内で人が寝ていると思ったかもしれません」

「寝ている・・・か」

「しかし通報を受けて現場に向かった小池運転手は、事件車両が未明から行方不明になっていたのを知っています。そして車内に利用者が残されている、これは大変です。もし本当に鍵がかかっていたとしたら」

「『もし本当に』?」

夏祭は影村の言葉を繰り返した。

「そうです。もし車に鍵がかかっていたらガラスを割ってでも中にいる利用者を救助することを考えるはずです」

「まあ小池も所詮タクシー運転手だ。そこまでの常識も正義感もなかったんだろう。それに車内の女性は既に死んでいた」

そのとき影村は・・・またもハンドルから両手を離し、左手の人差し指を立てた。

「そこです。なぜ小池は車内の絞殺死体を車外から見て、『死体らしき』と判断したんでしょう?」

「・・・どうでもいいが、運転するときはどちらかの手でハンドルを握ってくれないか?」

運転手はゆっくりと左手をハンドルにそえた。

「小池はその車両を見に行く前から死体がそこにあると知っていた、そう思われませんか?」

「知っていた??どういうことだ?」

「ちなみにわたしは自転車通勤していますが、自転車に鍵をかけたことはほとんどありません。しかし今日久々に鍵をかけました。なぜだと思いますか?」

「・・・なぜだ?」

「先日自転車がパンクしまして、修理に5千円もかかりました。ボロ自転車で、盗まれてもそれほど困らないと思っていましたが、パンク修理したばかりで盗まれてしまってはさすがに悔しいですから」

「それが今回の事件と何か関係あるのか?」

「全く関係ございません」

「・・・」

そしてもう一つの大きな謎

③タクシーはなぜあのような山道を通ったのか?

「高速を使わずにあの東谷の山道を通ったと聞いて、わたしは犯人が運転手の松田でないことを確信しました。そして真犯人が誰であるかが分かりました」

「どういうことだ?真犯人は誰なんだ?」

「その前にわたしは若い頃に何度かニューオーリンズへ行ったことがございます。ディキシーランドジャズが大好きでして・・・」


「それが今回の事件と何か関係あるのか?」

「全く関係ございません。さっきラジオで流れていまして、そのことを思い出しました」

2012年5月9日水曜日

謎解きはタクシーの中で〜権利と義務

「もしかしたらお客さまはアホでございますか?」

「な、な、なにぃ!!」

「犯人はその車両の運転手、松田ではございません」

謎の運転手影村はハンドルを握り、少しも表情を変えることなく言い放ったが、プライドの高いエリート刑事の夏祭にとってはその前の発言の方が衝撃的であった。

「お、お、お前タクシードライバーの分際でこのわたしを『アホ』だとぅ!不愉快や、降りる、こんなタクシー降りてやる!!」

「大変申し訳ありません、お客さま。降りられるのは残念でございますが、こうしてお客さまと出会えて本当にしあわせでした」

影村はこの期に及んでわけのわからない丁寧言葉を並べて場違いな微笑みを浮かべた。

「停めろ、すぐに車を停めろ」

「ありがとうございます、料金は1,500円になります」

「お前あれだけの大口を叩いておいて料金を請求する気か?」

「わたしは失礼なことを申し上げたのかもしれません。しかしそれは道路運送法、またはその下の運輸規則などにも恐らく触れていない問題でございます。そしてわたしが料金を請求するのはそのずっと上にある民法上の権利でございます」

「何かが間違っているような気がするが・・・もうどうでもいい。時間がもったいない。ほら」

夏祭はスーツの内ポケットからわざとらしくヴィトンの財布を出すと、そこから千円札を二枚、運転席につきだした。

「どうもありがとうございます」

影村はうやうやしくその千円札を受けとると、制服の内ポケットに入れて、後部座席のドアを開けた。

夏祭は降りない。

「ちょっと待たんかい、なにか忘れてないか?」

「なにか?・・・握手ですか?」

「なんでお前と握手せなならんのだ!釣りや!つり銭!」

「あぁ・・・つり銭を取られるんですか」

影村はいかにも意外そうに後部座席の夏祭を一瞥した。

「な、なんだ、その目は」

「確かにお客さまにはつり銭を取る権利がございます・・・500円ですが。そしてわたしにはつり銭を渡す義務がございます・・・500円ですが」

「500円500円うるさいな」

「そのとおり、500円あればコンビニで立派な弁当が買える時代です」

「時代とかそういう問題ではないだろう」

夏祭はなんとかペースに流されないように、見えない縄を必死に握っていた。

「権利というものは行使しなければ、相手側に義務は生じません。どうでしょうお客さま、この500円でわたしの推理を聞いてみる気はございませんか?」

難しい言葉を並べているが、影村のやっているのは冷静に詐欺か押し売り行為である。

「ま、まあいいだろう・・・聞いてやろう」

しかしなぜか夏祭は根負けした。

山の中でタクシーをもう一度呼ぶ手間を冷静に考えてしまったのか、または作者の長過ぎる前置きにうんざりしたのかもしれない。

影村もまた誰も待っていないのにここまで引っ張った作者に不満を抱きながら静かに車を走らせた。




4月30日(月) くもり
日照0 雨0 東南東8.3 高22.1 低15.2
営収 23,430(13,500-9,930)
12(6-6)回
11.25(6.75-5.50)時間
MAX 7,830

苦しんだ連休中(と連休明け)の日報をアップしておこう。

今年は日の並びも良く、

28日の土曜日からの連休入り、

この日は連休前半(28~30)の最終日

A駅番で久々に寺参りがあたったが、

予想通り伸びなかった・・・

5月6日(日) 晴一時雨
日照4.2 雨1.0 西南西5.7 高21.3 低9.6
営収 22,460(11,090-11,370)
10(4-6)回
10.25(4.75-5.50)時間
MAX 7,830

この日はほんまの連休最終日

またA駅番で、昼間はまたお寺があたったが、

夕方はソフトボールの練習で3.5時間ほど抜けて、

夜はめちゃめちゃ車が少なかったものの、

やはり伸びず・・・

5月7日(月) 晴
日照5.4 雨0 西南西6.3 高23.2 低8.6
営収 19,210(9,740-9,470)
15(9-6)回
11.50(6.50-5.00)時間
MAX 2,630

連休明けのこの日の朝は、

春の健康診断

思いがけずバリウム初体験で

さわやかに出庫・・・

連休明けは悪い

こんなことは何年か乗ってれば誰でも知っている当たり前の法則で、

結論から言って、この日は出勤するべきではなかった。

今年は年明けからの平均が3万を大きく超える快進撃が続いていたが、

この3乗務の平均が21,700円

正直痛いなぁ・・・

2012年5月2日水曜日

謎解きはタクシーの中で~「犯人はその運転手ではございません」

「タクシー運転手が利用者の女を殺した。それが今回の事件だ」

自称宝塚署のエリート警部、夏祭の口から出た言葉は運転手である影村にとって悔しくも衝撃的なものだった。

「どういうことでございましょう?詳しくお話いただけませんか」

「うむ…本来なら外部のものに話せるものではないが、ことがことやからお前も何か知っているかもしれん。話してやろう」

夏祭はあくまでも高飛車だったが、このときばかりはいくらかプロの刑事らしい態度も示した。

事件が起こったのはこの日の未明と推測されるが、発覚したのは夕方になってからだった。

たまたま付近を通りかかった一般車両が道路脇に止まっているタクシーを不審に思い、会社に連絡を入れたことから会社が無線で指示を出して、ある車両(タクシー)に様子を見に行かせた。

ほどなくその運転手から会社に電話が入って、車内に女性の死体らしきものが乗っているとの連絡を受けた。

「それを受けて警察に連絡があったのが今日の18時過ぎだ。全くタクシー会社の危機管理というのは一体どうなってるんだ?」

被害女性は沢渡秀美42才独身、宝塚の大手企業HSコーポの事務職員であり、小柄だが大人びたルックスで社内の男性社員の間ではマドンナ的存在であった。

「事件があった車両はどちらの会社ですか?」

「川北のB社だ。知っているか?」

川北市は宝塚に隣接する都市で、最近では「トイレの神様」のおばあちゃんが住んでいた町として有名になった。

同じ営業エリアでなくても隣接エリアの事業者とはいろんな意味で絡みがあり、会社名のみでなく何人かの運転手まで知っているものである。

「B社ですか、川北でタクシー約50台を保有する中規模事業者ですね。社訓は確か…『親切丁寧、笑顔を絶やさず整理整頓』でしたかね」

「社訓など聞いていないが(うそくさいな)…随分詳しいじゃないか。ところでこのB社なんだが、G…」

「GPSが備えられていない」

夏祭の言葉を遮るように、影村が言った。車内にしばし沈黙が流れた。

「なぜ知っている?」

「そんなこと知らずとも簡単でございます。B社にGPSが完備されていれば、今回の事件の発覚がそれほど遅れることはなかった。辻褄が合いませんから」

「そのとおり。そこでわたしが聞きたいのは今どきそんなこと、事業車両にGPSがついていないなんてことがあり得るのかということなんだが…もちろんわたしのジャガーにもGPSはついている」

「それは素晴らしい、そのGPSで現在お客さまのジャガーがどこの修理工場で部品待ち放置されているかがわかるわけですね。しかしタクシー事業用のGPSというのは個人のものとは違いまして、ものによっては数千万から億単位もすると言われる非常に高価なものです。このような地方都市のタクシー会社ではそれだけの効果が見込めないと判断するところも多いのが実情です」

たった数千万で備えられるならなぜ付けないんだと金銭感覚のない公務員である以前に、中小企業の「御曹司」夏祭は内心首を傾げたが、さすがにそこがポイントではないというプロ意識は持っていた。

「とにかくGPSが備えられてなかったために事件の発覚が遅れてしまった。運転手…要するに犯人に逃げる時間を与えてしまった」

「発見されたときには運転手はもう車内にはいなかったわけですね」

発見されたときは車内には運転手はおらず、つり銭や日報なども残っていなかった。

車内には争った形跡があり、検死の結果はまだ出ていないが被害者は首を絞められて窒息死したと見られる。

事件が起こった車両で乗務していたのは松田善治(よしはる)55才。年齢は50代だが、入社3ヶ月の「新人乗務員」である。出身は大阪だが、東京の大学を中退した後はいくつかの職を転々としていた。東京で結婚していたが、5年ほどで離婚している。大学生になる娘が一人いるが、前妻とも娘ともほとんど連絡は取っていなかったようである。10年ほど前に関西に戻ってきていて、現在は伊丹で一人暮らししている。自家用車は持っておらず、電車通勤していた。

「自宅の郵便受けに残っていた新聞を見ると、事件の数日前から自宅のアパートには帰っていないようだ」

「ほぅ・・・事件の数日前からですか。それにしても郵便受けの新聞とは随分古風な捜査をされるんですね。電子版に変えたかもしれないやないですか」

「おぅ!そうか!スマホ時代やからな・・・その可能性があったか」

「いえ、その可能性はほとんどないと思います。ところで発見した運転手は松田とどのような関係だったんですか?」

会社の指示で最初に現場に向かい、事件車両を発見した運転手は小池幸一56才。社歴は10年近くで、出入りの激しいこの世界ではベテランの部類に入る。松田とは年齢も近く連絡を取り合っていた仲で、無線で現場に迎うことの出来る車両を問い合わせた際に、そちらの方面にいたわけでもないのに志願して現場に向かったとのことである。

「事件車両には鍵がかかっていたんですか?」

「その通り、車両には鍵がかかっていた。なぜそのことがわかった?」

「小池が現場で車内に『死体らしき』女性を目撃した、と言われましたね。その表現から車両に鍵がかかっていたと判断しました」

「ふむ・・・お前タクドラくんだりにしてはなかなか出来るやないか。もっと製造業とか他の仕事に就けなかったのか?」

「・・・その殺害された女性がどこから乗車したのか情報はあるんですか?」

B社の配車室長の吉塚進の話によると、その日の松田はナイトシフトで20時頃に出庫して朝の8時頃まで乗務する予定だった。最後に無線が入ったのが25時、要するに深夜1時に川北能勢口近くのバーから乗車した記録がある。

その後の聞き込みでその時間に事件車両が50代らしき男性と40前後に見える、恐らく被害者である女性を乗せたのをそのバーの店員が目撃している。

「被害女性の携帯受信歴から男の身元は割れている。西村義一52才、HSコーポの幹部社員だ」

西村とは既に連絡が取れていて、西村は被害女性と川北能勢口近くのイタリアンで食事をした後に、そのバーで軽く飲んでタクシーに乗車。仕事が残っていたために宝塚駅近くでタクシーを降りた。

「25時過ぎに会社に戻って仕事ですか?」

「うん、確かに不自然だがこの手の大手企業になると遅くまで残って仕事をしていたというのがいわゆるステイタスになるのだろう。お前のようなブルーカラーには分かるまいが」

「・・・一応襟(カラー)は白いんですが。普通に考えて西村が怪しいとは思わないんですか?」

「実際その時間に会社に戻って仕事をしていたのを複数の社員が目撃している」

「アリバイがあるわけですか。しかしその時間に複数の社員が会社にいるんですね・・・」

西村の証言によると、女性の自宅は篠山にあり、電車もない時間だったのでそのままタクシーで帰宅するはずだったとのことである。そのために西村は会社のタクシーチケットを女性に渡していた。

「しかし篠山に行くのになぜあんなみち(山道)を通ったのかと思わんか?高速で行ったらいいやないか」

「さすがはお客さま、わたしもその点は不思議に思いました。タクシーチケットなら基本的にそれほど料金を気にする必要もありませんし、何せ深夜ですからね。ところでB社の配車室には吉塚氏の他にはどなたかおられたんですか?」

「佐々木という嘱託社員がいたらしい。70才近くのじいさんで何を聞いても『よくわからない』の一辺倒だ」

「吉塚氏の年齢は?」

「・・・年齢まで聞いていないが50前後ではないかな。わたしほどではないがルックスはなかなかでタクシー会社ごときの社員にしては出来る男という印象だな。事件に関する情報は彼から得ているものが多い」

事件の一報が入ったのが17時を過ぎていたため、B社の所長とは連絡が取れていないらしい。タクシー会社の管理職は時間をきっちり守る律儀な人間が多く、緊急に呼び出されることの多い仕事なので携帯を2台持つなどして「いざというとき」のために備えている(仕事用の携帯電源は切っておく)。

「もう一つ伺いますが、事件車両にタコメーターは付いていたのですか?」

「タコメーター??なんだそれは、明石のタクシーメーターか?」

「・・・」

「とにかくこの事件の謎は犯人探しではない。運転手の松田があのような山中から一体どこに消えたかということだ」

「もしかしたらお客さまは運転手の松田が犯人だと本気で思っているんですか?」

「当たり前だ。こんな簡単な事件はない」

「恐れ入りますが、お客さまはもしかしたらアホでございますか?」

「な、な、なにぃ!」

「犯人は松田ではございません」