2012年7月15日日曜日

7月14日(土) 29点~イエローキャブ値上げ②「我々は時間を売る商売やから」

先日ニューヨークのタクシー値上げについての投稿をして、

個人的に値上げには賛成

という立場から書いたが、

情報主のYSさんから、

「利用者としては、安いにこしたことはないのですが、安すぎることの弊害はどんなところでしょうか」

という意見を頂いた。

このブログにアクセスされる方は運転手か、又は運転手に興味を持っている方が多いかもしれないが、

利用者側から率直に言えば、

安い方がいいに決まってる

ということは俺もわかってはいるつもりである。

ここでちょっと視点を変えてみる。

資本主義というのは、

言ってみればコスト削減至上主義(デフレ誘導主義)である

競争により、

より良いものを、より安く、消費者に提供する

という理想を実現しようというものである。

例えば半導体の製造工場があったとしよう。

競争により、原価低減が求められている。

どうしましょうか?

工場に本部の人間も来て、幹部会議が開かれる。

原価管理のスペシャリストの生産管理部長が発言する。

「まず標準化です。部品を標準化しましょう。多くの製品に適用することで、ロット毎の発注量を増やして、それによって仕入価格を下げることが出来るはずです」

「なるほど・・・」

一同がうなずく。

管理部長は続ける。

「そして工場のオートメーション化(自働化)です。最新設備を取り入れることで、今まで作業員に頼っていた工程も機械化することによって、人件費を削減することが出来ます」

「そのような設備を取り入れるのに、どの程度の投資が必要ですか?」

財務部長が質問し、管理部長と投資対効果について侃々諤々の議論が行われる。

外のセミの鳴き声に、居眠り状態から目を覚ました社長が発言する。

「うん・・・ある程度コスト削減がうまく行けば、販売価格を下げることが出来る。そうしたら大量生産だ。生産量を増やせば、さらにコストを減らすことも可能だ」

社長は、「今までの話をほとんど聞いてなかったのに、なかなかイケてる発言やろ」とニヤニヤしながらタバコに火をつける。

それらの議論を聞いていた、心配性の副工場長が発言する。

「しかし、そんな大量生産をして、どこに売るんですか?」

それを聞いた海外マーケティング部長は、高価なスーツの肩の埃を払いながら鼻で笑う。

「あなたは国内しか見えていないんですか?グローバリゼーションの時代ですよ。海外に目を向ければ売る場所はどこにでもあります。特に今後のアジアの可能性は無限ですよ」

さあ、ここまでの話をまとめてみよう(長いねん、誰もついて来-ひんで)。

①標準化

②自働化(又はIT化)

③大量生産

④グローバル化

これらはどれも、ものづくりの世界の重要なキーワードである。

さあ、タクシーにあてはめてみよう。

①の標準化

いきなりだが、これが一番専門的な話になる。

タクシーにおける標準化とは、

地域的な標準化

かなーと感じる。

要するに地域(営業区域)の線引をなくしてしまえば、

例えば、東京都市部から、千葉の浦安へ乗車したとして、

客を降ろして、

そこからまた駅に並んでいる客を乗せれば、

非常に効率的であって、

その場合帰りの客は半額でも構わないと思う運転手もいるだろう。

もちろん勝手に料金を割り引くのは違法だが、

営業区域外、要するに東京の運転手が千葉で客を乗せるのは

基本的には違法である

個人的には、これはあっても良い(規制緩和すべき)と思うが・・・

②自働化

これは、とりあえず無理でしょう。

どんなに技術が進んでも、

車を自働で(指定した行き先に)走らせるのは無理やと思うけどね

危険やしね。

③大量生産

ここが一番のポイント

タクシーは大量生産できないんですよ

我々は時間を売る商売やから、

時間単位で売れ筋がいくつかあるわけですよ。

ものづくりなら、売れ筋の製品があれば大量に作って、コスト削減出来るわけやけど、

タクシーはどんなに需要が集中しても、

その時間に乗せることが出来るのは1台で1客(グループ)のみ

安くするどころか、

需要を分散するためにも、

ここは高くせなあかんくらい

この辺は他の業界と比較するにあたっては重要なポイントやろね。

④グローバル化

まあ、これは説明いらんでしょ。

タクシーはグローバル化出来ないんですよ

さあ、他の業界と比較してタクシーの特殊性がわかってもらえたやろか

4 件のコメント:

  1. こういう質問をする人を見ると
    「運転手なんて安い給料で我慢するのが当然」と言われている
    ようでむかつく

    安い賃金でも文句を言わないヒスパニック系の運転手が増えても
    運賃が安い方がいいんでしょうね。英語は通じないし道は知らない
    でも安いなら我慢できるんでしょ。
    ドアの立て付けが悪いようなポンコツでも運賃が安ければ文句無
    いんでしょ。
    運転手同士が客の取り合いで大げんかをしていても関係ないんで
    しょうね。

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    1. コメントありがとうございます。

      YSさんは、ニューヨークのドライバーの劣悪な労働環境を問題にしてルポを書かれた方です。

      http://cooldriver.blog.eonet.jp/taxi/2010/01/1-28d6.html

      決して、

      >「運転手なんて安い給料で我慢するのが当然」

      なんて思っておられないことは、彼のコラムを読んで頂けたらわかってもらえると思います。

      しかしYSさんもコンサルタントですから、市場原理として、供給者側が「我々のサービスは安過ぎる、もっと高くすべきや」なんていう発言を看過できないというのは、わたしにもよくわかります。

      例えば、コンビニの店長、又は経営者が、

      「コンビニの弁当は安過ぎる。もっと高くするべきや」

      というようなことをブログで書いていたら、「こいつ何言ってんねん・・・」と思うでしょう。

      そのようなことを踏まえて、

      タクシーのサービスは特殊である

      ということを、利用者にも理解出来るように、もう少しわかりやすく説明していきたいと思います。

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  2. ポストありがとうございます。

    この半導体会社の社長さんがちょっと心配ですが、それはおいておきましょう。

    タクシーはどんなにがんばっても一日24時間以上提供できないサービスで、売上のアップサイドが限られているということですよね。

    そうなると、その限られたなかで、利益と利便性をどうバランスさせていくかということになると思います。

    brackcabさんは、それらをふまえたうえで、それでも、ニューヨークのタクシーは依然安すぎるという考えじゃないのかなと、文面から思いました (たんにドライバーの労働条件が悪すぎるということではなく)。

    そのあたりもお聞きかせいただければありがたく思います。聞いてばかりで恐縮です。

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  3. YSさん

    ありがとうございます。

    この会社の社長の発言に目をつけた(?)のはさすがです。もう大量生産の時代ではありません。だからこそ大量生産出来ないタクシーが面白いんです。

    自分もいろいろ書きながら研究しているつもりです。タクシーって(特殊で)面白いなという部分と、普遍的な部分を他の業界に当てはめる、比較する面白さがあります。遠慮せず突っ込んでください。

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