2012年1月4日水曜日

大晦日のワンメーター①~新年特別タクシードラマ

もう20年以上前の大晦日のことだった。

巷はバブル景気に湧き、

タクシーも例外ではなかった

わたしはS駅という地方の駅で待機営業していたが、こんな田舎の駅でも12月ともなれば夜は食事をする間もないほどに忙しかった。

それでもさすがに大晦日ともなれば客足も止まり、

紅白歌合戦が始まる時間にもなると駅に並ぶ仲間の運転手たちも早めにあがっていく。

「お疲れさん!」

「どうもお疲れさんです!」

運転手同志、一年の労をねぎらう言葉もその年の景気を写すように自然と明るくなる。

「帰って紅白でも観るわ」

「今年はSMAPが出るらしいですね」

「すまっぷ?なんやそれ?」

「光ゲンジのバックダンサーですよ」

「…なんやそれ?」

そんな他愛もない会話を交わしながら、

一人また一人と年に最後の別れを告げて家路についていく。

「良いお年を!」

「良いお年を」

わたしは駅で働く運転手の中では最も若かったのと、

最後まで駅を守りたい

という気持ちから、もうタクシーに乗る客は少なかったが駅に残った。

年に最後の仕事を終え、

または友人や同僚と最後の酒を交わし、

何かをやりきったような客の笑顔を見るのが好きだったし、

そんな人達が、例え一人でも家に帰る足がないようなことは許されないと思ったからである。

そして23時の終電(田舎の終電は早い)を迎える頃には、

乗り場に残ったタクシーはわたしだけになっていた

終電が駅にはいる

こんな田舎の駅でも、終電ともなればタクシー乗り場に列が出来ることがあるのだが、

大晦日、年に最後にこの駅に停まった電車から降りてきた客はまばらで、

その数少ない人達も、駅に迎えに来ている数台の車に乗り込んでいった。

そして電車が駅を離れると、

静寂が辺りを包んだ

わたしはタクシーから降りて、少し満足げに身体を伸ばした。

今年も終わりか…

ふぅー

と吐いた息が暗闇の中で白く光る。

「さむ…雪でも降りそうやな」

一人つぶやくと、そそくさと車に乗り込み、車庫に帰ろうとしたその時だった。

もう誰もいないと思っていた駅舎から人影が現れた。

よく見ると、それは

中年の婦人と、小学生らしき男の子二人だった

おそらく母親とその息子だろう

チェックの半コートを着た夫人は、ゆっくりと迷ったように

わたしのタクシーに近づいてきた

古びたトレーニングジャージを着た息子たちは心配そうに母親について来る。

近くまで来ると、タクシーの外に出ていたわたしに婦人が白い息を吐きながら言った

「あの・・・北山の交差点までですけど・・・いいですか?」

北山の交差点と言えば、駅からちょうどワンメーターの距離である。

行き先が近いから遠慮しているのだろう。

「構いませんよ、どうぞ」

「あの・・・450円で行けますか?」

450円は当事のワンメーターの料金であった。

「・・・えー・・・行けると思います」

-続く-

4 件のコメント:

  1. あけましておめでとうございます。
    ・・・話の続きが気になりますが・・・
    とりあえずご挨拶。。。
    今年もヨロシクお願いします!
    良い年になりますように♪

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  2. 昨日は有難うございます!
    人に読んでもらうレベルも内容もありませんが、
    「だんだんよくなる」が今年の目標なので…
    akbtaxi.blog.fc2.com/
    「タリホー運転手の生活」
    でブログをしています。
    また覗きに来てください!

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  3. 小雪さん

    おめでとうございます!

    小雪さんのブログはいつかは東京で運転手を、と考えている人には非常に参考になると思いますよ。
    私もその一人かな…

    今年も頑張りましょう!!

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  4. 風又さん

    ありがとうございます!

    ブログ拝見させてもらいました。
    またリンクも近いうち更新しますね。
    よく稼いでるんですねぇ・・・是非営収もアップしてくださいよ。タクシーに乗ろうかと悩んでいる人にとっては参考になると思います。

    今年の目標いいですね。
    パクらせてもらいます

    >健康で
    >平穏無事で
    >終われること

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