2012年10月9日火曜日

「ビッグチッパー完結編」~10月8日(月)12点


「すみません。もう今日は(タクシーは)いいです。来 週からも、もう要りません」

それだけ言って、電話は切られた。

そして、イチローの声を聞いたのも、そ れが最後だった。

なにか、やばいことをさせられている

とは思っていてものの、

なにもわからないままに、関係が途切れてしまうと落ち着かないものである。

先日受け取った3千万円が入ったボストンバッグは、自宅の押し入れに手付かずのまま眠っていた。

そして、また数ヶ月が過ぎた。

そろそろ金の使い道を考えていた頃だった

タクシーに乗っていたら、

マイホームなんて夢だと思っていたけど、

この金(3千万)があれば…

なんて、思いかけていた。

その日、夜の駅で並んでいると無線で呼ばれた。

「205号指名です。H駅に回送してください。お名前、ヒロタさま。女性です」

指名…ヒロタ?女性?

聞き覚えのない名前だが、

なぜ自分を指名するのだろう。

少し不安な気持ちを抱えて、

H駅に向かうと、

待っていたのは若い女性だった

春先でまだ夜は肌寒かったが、些か露出の多い黒いブラウスを着て、

ミニスカートで長い足をあらわにしていた。

化粧も濃く、こんな田舎の駅には似つかわしくない…

ビックリするような美人だが、

しかし、近寄りがたいというか、娼婦のような出で立ちだった。

「お待たせしました…ヒロタさまですね」

ドアを開けると、女性は迷いなく乗り込んできて言った。

「はい、こんばんは。ヤマシロさん、あなたの家まで行ってくれる?」

タバコのにおいがした。

わたしは暫し状況が理解できなかった。

「わたしの…家ですか?」

「そう、あなたの家」

「わたしの家に行って、どうするんですか?」

「どうするって?・・・変なこと考えてるでしょ?」

「いえ…あの、そういうお客さんてはじめてなもので…」

女性は運転席に身を乗り出してきた。

露出した肌が、わたしの肩に押しつけられた。

「『そういう客』って失礼ね。でも別にしても構わないよ」

「…」

「金がどこにあるか教えてくれたらね」

「…金?」

女性はさらに身体を近づけてきた。

「あなたが何をしたか・・・あなたが空港から運んだ荷物はかなりやばいもの、ばれたら大変なことになるよ」

「な、なんのことだ?」

「知らないとは言わせないわ。こっちは証拠も全て揃えられるようになってる。しかも、あなたは主犯」

「主犯!?」

「そう、全てあなたが計画して、『こと』を行ったようになってるわ」

「そんな・・・」

「とにかく金を返しなさいよ。そうすれば、全てはなかったことに出来る」

額から濃厚な汗が流れてきた。

わたしは自分の家の前に車をつけた。

女を待たせると、

部屋の押入れから、3千万円の入ったボストンバッグを、震える手で引きずり出した

車で待っていた女にボストンバッグを渡すと、

すぐに中身を確認していた。

「やっぱり、あなた真面目よね。多分1銭も使ってないでしょ。フフフ・・・だからあなたを選んだんだけどね。ここまで予定通りことが運ぶと怖いわね」

「俺を・・・選んだ?」

「そう、最初から全部計画されてたことなのよ。あなたは『選ばれた』の」

なんとも言えない感情が込み上げてきた。

「それならイチローは・・・?」

「あれも、わたしが雇った男よ。今はどこにいるかも知らないわ。駅まで戻ってくれる?」

「それならグランダーソンは?」と聞こうとしたが、これ以上寒い空気には耐えられそうもないと思って堪えた。

ルームミラーで改めて女の顔を見ると、

どこかで見たことがある

「もしかして、あのとき・・・」

「そう、おばちゃんと一緒に乗ったでしょ。このバッグを見つけてあげた」

「・・・そんな」

まさか、あのときに乗った、あどけない、かわいい娘が主犯だったとは・・・

駅まで戻ると、

メーター料金は2,510円だった。

「どうもありがとう。何も残らないんじゃかわいそうだから」

女はバッグの中から、1万円札を一枚出して置くと。

完璧な仕事を終えて、颯爽と降りていった。

開いたドアから、桜の花びらが舞い込んできた。



10月8日(月) 日照8.6 雨0 気温23.3-9.2
営収 12,650(6,900) 8(4)回 10.25(5.50)時間
MAX 2,790-1,910


祭日(体育の日)の駅番で、

悪いとは思っていたが、

結果は期待を裏切らなかった。

しかし今日は昼過ぎに、子どものサッカーの試合を観戦して、

息子の公式戦初ゴールを見て、

途中で抜けて、

14時からの乗務

夕方には娘のチームの優勝の報告を受けて、

まあ正直売上なんて、どうでもいいくらいに嬉しかった。



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