「来てくれるのかな?来週の火曜日にお 願いしたいんだが」
「わかった・・・いや、わかりました」
約束は火曜日の朝10時に、
行灯を外して一般車用のロータリーで待つ。
空港にはタクシー乗り場があって、
多いときは100台超の車が並んでいる。
指名乗車は問題ないものの、
なるべく並んでいるタクシーに気づかれないように、
一般車に紛れて、ひっそりと待っていた。
そして10時ぴったりに男は来た。
「やぁ、その節はどうも」
「こちらこそ…どうも」
「まあとにかく出してくれるかな。ちょっと急ぐんだ」
そう言いながらも男は急いでいるようには見えず、
明らかに周囲の目を気にしていた。
「何とお呼びしたらいいですかね?」
わたしは指示通り車を走らせ、空港を出た。
「呼び名か…欧米じゃあるまいし。まあイチローとでも呼んでくれ」
それなら「わたしはジーターと呼んでください」という、いつもの軽口が出かけたが、何とか抑えた。
「ヤマシロです。よろしくお願いします」
こちらは本名を車に掲げているわけだし、今さら自己紹介するまでもないのだが、とりあえず言っておいた。
そして、その後は会話が途切れた。
これらから訊きたいことはいくらでもあったが、
何かを話してくれそうな隙は全くなかった
そういう空気は運転手にしか分からない感覚である。
車内の録音レコーダーの存在も警戒しているのだろう。
「その先に見えるコンビニの駐車場に入れてくれるかな」
「わかりました」
メーター料金は1,160円
男…いやイチローは約束通り1万円札を置いて、なに食わぬ顔をして降りていった。
なんとなくやばそうな空気を感じて、すぐに車を出そうとしたのだが、
後部座席に忘れられているカバンに気がついた
イチローを見ると、タクシーを降りて、コンビニの中に入っていった。
誰かと話をしている。
そしてそのイチローと会話をしていた若い、一見学生にも 見えるやせた男が、同じような年代の女を連れて、
コンビニを出て、こちらに向かってきた。
そして無邪気な笑顔を見せて、
「(乗っても)いいですか?」
と問いかけてきた。
カバンの忘れものがあることを伝えようとすると、
それを遮るように、サッと紙切れを渡してきた。
(カバンのことについては口にしないでください。イチローの知り合いです)
すると、少し威圧するような目をこちらに向けて、乗車してきた。
連れの女も続いた。
「近くなんですけどすみません。K町までお願いします」
「…わかりました」
ワンメーターの距離である。
わたしは言われるままに黙って車を走らせた。
「あっ、そこのレオパレスの前で停めてください。おつりいいですから」
千円札を置くと、イチローの忘れもののバッグはそのまま置いて降りていった。
「ねぇ、今日なに食べよっか?…」
先に降りた女の声が聞こえた。
そして、その開いているドアから、
いつの間にか、頭の禿げかかった中年が乗車してきた。
「D駅行って」
もう大体分かった。
俺は運び屋をやらされている
イチローが、シンガポールから仕入れてきた…何らかの「もの」を、足がつかないように動かしているのだ。
麻薬なのかもしれないし、拳銃なのかもしれないし、
もっとやばいものなのかもしれない。
とにかく客が降りる度にそこから乗車があり、
通常のタクシー営業なら理想的なのだが、この人為的に作られた状況はあまり歓迎出来なかった。
そんなことを何度か繰り返して、
結局病院の前から乗った老夫婦がイチローのカバンを持って降りていった
そしてそれから、毎週火曜日に空港に行って、同じようなことを何度か続けた。
そのたびに乗車する面々は変わっていった。
一体どれだけの人間が関わっているんだ…
そして2ヶ月ほど経ち、
空港で待っていると、電話が鳴った。
やはり非通知設定だったが、
間違いなくイチローの声だった。
「すみません。もう今日はいいです。来週からも、もう要りません」
それだけ言って、電話は切られた。
そして、イチローの声を聞いたのも、それが最後だった。
10月6日(土) 日照0.9 雨0(少々) 気温22.6-13.4
営収 10,060(600) 8(1)回 10.25(5.00)時間
MAX 600-1,670
午前中は子どものサッカー練習を見学して、
息子の動きの良さに満足して、
その後、子どもを県立公園の学習センターへ連れて行って・・・
14時からの乗務
しかし・・・
記憶に残るほどの最悪の乗務やった
もうコメントなし
来週は良くなりますように。
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