2012年5月9日水曜日

謎解きはタクシーの中で〜権利と義務

「もしかしたらお客さまはアホでございますか?」

「な、な、なにぃ!!」

「犯人はその車両の運転手、松田ではございません」

謎の運転手影村はハンドルを握り、少しも表情を変えることなく言い放ったが、プライドの高いエリート刑事の夏祭にとってはその前の発言の方が衝撃的であった。

「お、お、お前タクシードライバーの分際でこのわたしを『アホ』だとぅ!不愉快や、降りる、こんなタクシー降りてやる!!」

「大変申し訳ありません、お客さま。降りられるのは残念でございますが、こうしてお客さまと出会えて本当にしあわせでした」

影村はこの期に及んでわけのわからない丁寧言葉を並べて場違いな微笑みを浮かべた。

「停めろ、すぐに車を停めろ」

「ありがとうございます、料金は1,500円になります」

「お前あれだけの大口を叩いておいて料金を請求する気か?」

「わたしは失礼なことを申し上げたのかもしれません。しかしそれは道路運送法、またはその下の運輸規則などにも恐らく触れていない問題でございます。そしてわたしが料金を請求するのはそのずっと上にある民法上の権利でございます」

「何かが間違っているような気がするが・・・もうどうでもいい。時間がもったいない。ほら」

夏祭はスーツの内ポケットからわざとらしくヴィトンの財布を出すと、そこから千円札を二枚、運転席につきだした。

「どうもありがとうございます」

影村はうやうやしくその千円札を受けとると、制服の内ポケットに入れて、後部座席のドアを開けた。

夏祭は降りない。

「ちょっと待たんかい、なにか忘れてないか?」

「なにか?・・・握手ですか?」

「なんでお前と握手せなならんのだ!釣りや!つり銭!」

「あぁ・・・つり銭を取られるんですか」

影村はいかにも意外そうに後部座席の夏祭を一瞥した。

「な、なんだ、その目は」

「確かにお客さまにはつり銭を取る権利がございます・・・500円ですが。そしてわたしにはつり銭を渡す義務がございます・・・500円ですが」

「500円500円うるさいな」

「そのとおり、500円あればコンビニで立派な弁当が買える時代です」

「時代とかそういう問題ではないだろう」

夏祭はなんとかペースに流されないように、見えない縄を必死に握っていた。

「権利というものは行使しなければ、相手側に義務は生じません。どうでしょうお客さま、この500円でわたしの推理を聞いてみる気はございませんか?」

難しい言葉を並べているが、影村のやっているのは冷静に詐欺か押し売り行為である。

「ま、まあいいだろう・・・聞いてやろう」

しかしなぜか夏祭は根負けした。

山の中でタクシーをもう一度呼ぶ手間を冷静に考えてしまったのか、または作者の長過ぎる前置きにうんざりしたのかもしれない。

影村もまた誰も待っていないのにここまで引っ張った作者に不満を抱きながら静かに車を走らせた。




4月30日(月) くもり
日照0 雨0 東南東8.3 高22.1 低15.2
営収 23,430(13,500-9,930)
12(6-6)回
11.25(6.75-5.50)時間
MAX 7,830

苦しんだ連休中(と連休明け)の日報をアップしておこう。

今年は日の並びも良く、

28日の土曜日からの連休入り、

この日は連休前半(28~30)の最終日

A駅番で久々に寺参りがあたったが、

予想通り伸びなかった・・・

5月6日(日) 晴一時雨
日照4.2 雨1.0 西南西5.7 高21.3 低9.6
営収 22,460(11,090-11,370)
10(4-6)回
10.25(4.75-5.50)時間
MAX 7,830

この日はほんまの連休最終日

またA駅番で、昼間はまたお寺があたったが、

夕方はソフトボールの練習で3.5時間ほど抜けて、

夜はめちゃめちゃ車が少なかったものの、

やはり伸びず・・・

5月7日(月) 晴
日照5.4 雨0 西南西6.3 高23.2 低8.6
営収 19,210(9,740-9,470)
15(9-6)回
11.50(6.50-5.00)時間
MAX 2,630

連休明けのこの日の朝は、

春の健康診断

思いがけずバリウム初体験で

さわやかに出庫・・・

連休明けは悪い

こんなことは何年か乗ってれば誰でも知っている当たり前の法則で、

結論から言って、この日は出勤するべきではなかった。

今年は年明けからの平均が3万を大きく超える快進撃が続いていたが、

この3乗務の平均が21,700円

正直痛いなぁ・・・

4 件のコメント:

  1. ドライバーさんへ


    連載中のTaxi-ミステリーを楽しんでいます。
    わたしの中では解決篇を妄想中です。

    以前、ドライバーさんがblogで紹介されていた
    「追憶のかけら」読み終えました。
    “禍福は~”の文言に惹かれて手に取ったのですが
    同時に読んでいた「マリアビートル」にも同じ引用があり
    これも本による縁だと感じました。

    本編を忘れさせる程の手記の長さですが
    展開の速さと興味を惹く登場人物に引き込まれ
    ラストの感動は涙しました。

    また書評も併せ、面白い本の紹介を期待しています。

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    1. ありがとうございます!

      チップの話は日本ではタクシー特有だと思います。現実の話としてはなかなか書けませんが、「あんたそんだけ言っといて…」みたいなのは運転手なら分かると思うんですよね。
      ちなみに、どんな状況であってもつり銭を出す仕草をしないと「(釣りは)取っといて」とは言わないものですが…

      「マリアビートル」ですか、面白そうですね。
      今日はお客さんにもらった石原さんの「新堕落論」を読んで右翼酔いしてます。

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  2. 七夕夜想曲です(^ー^)

    う~ん…何か考えるものがありますね。

    タクシー業務をするにあたって、色んな責任がかせられますから。

    やはり、大げさかもしれませんが、人の命を
    預かって業務をしている訳ですから(^ー^)

    どんなに、嫌な客でもプロとしてお客様に接していく事、タクシードライバーという仕事は、

    本当に毎回、自分との戦いだと思っています。

    これからも、break cabさんのブログを楽しみに読んでいきたいと思う次第です(*´∇`*)

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    1. 七夕さん

      >本当に毎回、自分との戦いだと思っています

      深いですね、この言葉。

      この仕事、いろんな意味で自由がありますから。
      それが楽しくもあり、ときには苦しくもありますよね。

      自分に勝てるときこそこの仕事の醍醐味を感じることが出来て、自分に勝てる強さを持った人間だけがこの仕事を極めることが出来るのだと思います。

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