「まず今回のタクシー車内における事件には、いくつかの謎がございます」
影村が挙げたのが、
①山中の現場から運転手はどこに、どのように消えたのか?
この謎の運転手は、タクシードライバーにならなければ、プロゴルファーか私立探偵になりたかったらしい。
「ハハハ!何を言い出すかと思えば。そんなことは警察も既に完璧な聞き込み捜査を行っている。地域のタクシー会社にも、松田の知り合いにも一通りあたっている。事件の後に松田を迎えに行ったと思われる証言も怪しげな行動もない。松田は歩いて逃げた。そのために時間を稼いだんだ」
「歩いて逃げたと言われるんですか?2月の半ばにあの山中がどれだけ冷え込むかご存知ですか?死にますよ」
「じゃあどこかで死んでるんだろう」
「・・・犯人はおそらくタクシーを使って逃げたのでしょう」
「なんだと!タクシー会社には全てあたったと言っただろう」
影村は両手を広げ、「参ったな」という仕草をしながら首を左右に振った。
「現場の運転手に聞き込みをしましたか?」
宝塚署のエリート警部の夏祭は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに言葉を返した。
「そんな必要はないだろう。会社の日報を見たら運転手がその日どこに行ったのかくらいわかる」
「わたしがタコメーター、いわゆる運行記録計について伺ったのはそこでございます。タクシーにおける記録計はこの地域では義務化されていません。記録計がなければある程度日報の行く先を変える・・・ごまかすことは可能でございます」
そして影村は次の謎に話を進めた。
②最初に事件車両を見に行った運転手、小池の不可解な行動
「小池の行動のどこがおかしいと言うんだ?」
夏祭にとってこれは意外な視点だったようだ。
「まず第一発見者の一般の方が事件車両に手を出せなかったのは理解できます。事件がいつ起こったのか知らないわけですし、一応タクシーですから車内で人が寝ていると思ったかもしれません」
「寝ている・・・か」
「しかし通報を受けて現場に向かった小池運転手は、事件車両が未明から行方不明になっていたのを知っています。そして車内に利用者が残されている、これは大変です。もし本当に鍵がかかっていたとしたら」
「『もし本当に』?」
夏祭は影村の言葉を繰り返した。
「そうです。もし車に鍵がかかっていたらガラスを割ってでも中にいる利用者を救助することを考えるはずです」
「まあ小池も所詮タクシー運転手だ。そこまでの常識も正義感もなかったんだろう。それに車内の女性は既に死んでいた」
そのとき影村は・・・またもハンドルから両手を離し、左手の人差し指を立てた。
「そこです。なぜ小池は車内の絞殺死体を車外から見て、『死体らしき』と判断したんでしょう?」
「・・・どうでもいいが、運転するときはどちらかの手でハンドルを握ってくれないか?」
運転手はゆっくりと左手をハンドルにそえた。
「小池はその車両を見に行く前から死体がそこにあると知っていた、そう思われませんか?」
「知っていた??どういうことだ?」
「ちなみにわたしは自転車通勤していますが、自転車に鍵をかけたことはほとんどありません。しかし今日久々に鍵をかけました。なぜだと思いますか?」
「・・・なぜだ?」
「先日自転車がパンクしまして、修理に5千円もかかりました。ボロ自転車で、盗まれてもそれほど困らないと思っていましたが、パンク修理したばかりで盗まれてしまってはさすがに悔しいですから」
「それが今回の事件と何か関係あるのか?」
「全く関係ございません」
「・・・」
そしてもう一つの大きな謎
③タクシーはなぜあのような山道を通ったのか?
「高速を使わずにあの東谷の山道を通ったと聞いて、わたしは犯人が運転手の松田でないことを確信しました。そして真犯人が誰であるかが分かりました」
「どういうことだ?真犯人は誰なんだ?」
「その前にわたしは若い頃に何度かニューオーリンズへ行ったことがございます。ディキシーランドジャズが大好きでして・・・」
「それが今回の事件と何か関係あるのか?」
「全く関係ございません。さっきラジオで流れていまして、そのことを思い出しました」
関係ないコメントですみません。
返信削除お聞きしたいことがあるので、プロフィールのメールアドレスにお送りしてもよろしいでしょうか?
どうぞ!
削除よくメール頂いてますよ。