2011年8月18日木曜日

「ようこそ、この世界へ」~タクシー怪談シリーズ②


その日は、ほんまにやばかった

昼間から全く仕事がなくて、

ツキもなくて、

最終電車間際まで、

1万円も出来てなかった

これで終電でワンメーターなら

俺の今日の収入は約4千円

12,3時間働いてるから、

やばい、コンビニとかで時給700円でも

1万円くらいにはなる・・・

俺は一日何してたんや

頭を抱えてたそのとき

無線が鳴る

駅近くの病院

こんな時間に病院・・・

いい仕事かも

病院の救急出口、

待っていたのは老夫婦

首にコルセットを巻いてる・・・

なんか不気味やけど、

「頼んます・・・オチカタまで」

「オチカタ・・・ですか(どこやねん)?」

「オチカタ・・・知らないんですか?」

もしかしたら、

「温泉のあるとこですか?」

「そうです。よくご存知ですね」

さっき、「知らないんですか?」とか言ってたやん。

それにしてもめちゃめちゃ遠方や、ラッキー!

「それにしても、こんな時間に・・・何かあったんですか?」

「いや、事故に遭いまして」

「事故ですか!それは災難ですね(わたしにとっては・・・まぁ、いいか)」

「オカマされまして・・・この夜中にですよ」

「はぁー!(身体は)大丈夫ですか?」

「・・・」

何か言ってくれよ。

そこから沈黙が続く・・・

行き先はとんでもない山の中

このまま沈黙が続いたらやばい

多分耐えられない、

「いやぁ、今日は暑かったすねぇ」

「・・・」

頼む何か言ってくれ、

「それにしても災難でしたねぇ、お身体のほう大丈夫ですか?」

「・・・」

お願いだから、山に入る前に何か会話してくれよ

そんな運転手の願いも空しく、

タクシーは山の中に入っていった

山を登った後、

また山を下る

山の中のウネウネ道の途中で、

夫婦の奥さんの方がついに口を開いた。

「運転手さん?」

ここで会話ですか!?

声がオクターブ上がる

「はい!」

「ちょっと旦那が具合悪いみたいなんです、停めてもらえますか?」

「はい・・・あの・・・構いませんけど・・・」

この山の中で停めるのかい

勘弁してくれよ

と言っても、言われたからには停めるしかない。

カーブの途中で、

「この辺でよろしいですか?」

「はい、ちょっと待っててもらえますか?」

夫婦は藪の中に入っていった。

その時間の長かったこと、

メーターはもう1万を超えてる。

このまま帰ってこなかったら・・・

この金額は自分持ちか

それでもいい

早くこのシチュエーションから解放されたい

もう限界や

と思ったそのとき

夫婦が帰ってきた

「ごめんなさいね、運転手さん。もう大丈夫ですから」

「気持ち悪くなったら、またいつでも言って下さいね」

やばい、

これはやばい

この空気にはもう耐えられない

山道を登った後

また山を下る

下っても下っても

まだ下る・・・

どうなってんや?

後部座席はまた沈黙・・・

空気に耐えられず、

「いやぁ・・・長い下り坂ですね」

するとずっと一言も発しなかった旦那が答えた。

「運転手さん、この辺来たことないんですか?」

ビクっとしたが

ここでビビったらやばい、

という本能が働いた。

「いや、タクシーでは来たことないんですけど、温泉には何度か来たことがあるんですけど・・・」

「そうなんですか」

「それにしてもこんなに長い下り坂ありましたかね?・・・」

「・・・」

頼む、何か言ってくれ。

そのうち冷静だったはずの奥さんが、

「ケェ、ケケケケケケ!」

突然けたたましい声で笑い始めた。

「えっ?何かありました?」

運転手はもうドキドキである。

もうお金はいらない

早くこの乗務を終わらせてくれ

ルームミラーを見ると、

ものすごい形相の女性が・・・

大人しそうやったはずの奥さんが、

「あんた、まだ気づかないのかい?」

「はい?何をですか?」

「あんた、ずっと同じとこを走ってるだけやねん、ケェ、ケケケケケ!」

頼む、その笑いかたやめてくれ。

「どういうことですか?」

「前、見てみ」

前を見ると山道のカーブにタクシーが・・・

突っ込んでる。

こんな車通りのほとんどない山の中で、

・・・何故気づかなかったんやろ。

グシャグシャである。

「事故ですか?」

「ケェ!ケケケケ!あんた、この運転手アホやで。運ちゃん、そこのタクシーのナンバー見てみぃよ」

ナンバー?

70XX・・・

・・・俺の車のナンバー?

はぁ?

急ブレーキを踏んだ。

車から降りて、

グシャグシャのタクシーの中を見ると

死体が3つ・・・

どういうことなん?

死んでいる運転手は・・・俺??

死んでいるはずの、後部座席の奥さんが

キッと目を開く

おい・・・やめてくれよ

「ウェルカム、トゥザ、ワールド」


8 件のコメント:

  1. けっけっけ~でご無沙汰しています。
    ずっと愛読はしていたんですが、投稿のサイトを変更されてから、自分の携帯からではアクセス出来なくなり一時まったく拝見出来なくなりました⁉ 少し前に私もスマートフォンに変更しパソコンも購入しやっと1人乗りツッコミの精度が完成されつつある、ブラックキャブさんのブログの愛読の再開に漕ぎ着けました。今朝コメント入れれたので一言お礼を!
    業界に入りたての時のいろいろのアドバイスありがとーございました。タクシー運転手楽しく続けています。進められたブログも継続中です。これからも愛と勇気を与えてくれる⁉ブラキャブのブログ楽しませて下さいね(^O^)/

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  2. 風又さん

    ありがとうございます!

    こういうのはブログの趣旨からは少し外れているかもしれません。
    タクシーに乗っていると、ときどき不思議なことがあります。こういうのも楽しさの一つということで・・・ご容赦ください。

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  3. 兄さん、スペシャルです!
    私も長距離の帰り道、後部座席が気になって気になってしょうがない時があります。
    ミラーごしに覘いても何もない。その時!!
    (コマーシャル)みたいな。

    配役は
    ドライバー キムタクさん
    旦那    温水さん
    奥さん   片桐はいりさん

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  4. こわいわぁ~
    突然死んだ人は家に帰りたがります。
    湾岸線で拾った女性を自宅まで送ったことがあって、未払いだったケド夜中だったし具合が悪そうだったから未収であげて翌日自宅で集金。母親から半年前から娘が行方不明だったと聞いた。乗せた場所を教えると、翌日、娘さんは水死体で発見されたんだ。そういうコトもあるよね、タクシーって。

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  5. 死体が3つ・・・・
    怖いですね。
    こう云う表現、臨死体験者が見るようです。
    brack cabさんはきっと六感神経が鋭いので見えたのかも知れませんね。

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  6. まつおさん

    ありがとうございます!

    タクシー強盗の恐怖ってのはリアルに嫌なもんやけど、霊的な恐怖は後になってみると人に話したくなるようなドキドキ感があるよね。

    以前からキムタクとはタクシードラマ共演したいと思ってるんやけど(お前も出るのか)。

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  7. 小雪さん

    いい話持ってるやないですか!
    是非公開してくださいよ。

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  8. takachanさん

    ありがとうございます!

    臨死体験ですか・・・
    なんか深夜タクシーに乗っていると、目の前にあるものが現実なのか非現実なのかわからなくなることがありますよね(お前単に寝てるだけやないの?)

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