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2012年9月2日日曜日

9月1日(土)22点~タクシー怪談「ミラーアプリ」

その日は、G駅の待機当番だった。

G駅は山に囲まれた田舎駅で、

昼間は周辺のお寺の観光客などがタクシーを利用するものの、

夜になると、駅の周りに乏しく灯る外灯の他には、

全く灯りのない寂しい駅となる。

「こんなとこで夜待ってても仕事あるわけないよなぁ・・・」

なんて一人つぶやいたり、

それでも寂しいので、

ワンセグで「踊る大捜査線」を観たりして、時間をつぶしていた

犯人に扮する広末涼子が、王さんに拳銃を向けられているクライマックスのところで、

向こうから客らしき女性が歩いてきた。

「なんだよぉ・・・よりによって、こんなときに客が来なくても・・・」

なんてブツブツ言いながら、ワンセグを消して、

ドアを開けた。

乗ってきた女性は、

髪が長く、目が少しギョロっとしていたが、

美人と言ってよいジャンルに入っていた。

「M谷まで」

「県道の・・・M谷・・・ですか」

確かに、そういう地名はあるが、

あんなところに家なんかあっただろうか

女性は何事もなかったかのように、スマホの画面に目を落とした。

俺も何も言わずに、車を走らせた。

それにしても、どこから歩いて来たんだろう。

30分に一本しか来ない電車は、夜になると降りてきた客一人一人まで確認できる。

この女性は電車から降りてきたのではない。

「月がきれいですねぇ・・・」

「・・・」

何となく会話を振ってみるが、スマホの画面に目を落としたままである。

メールを打っているわけでもない。

何かを読んでいるようにも見えない。

ただ、下を向いて、光る画面を見つめているだけに見える

やがてM谷に入ってきた。

「えーと・・・どの辺まで走りましょうか」

「・・・この坂道登りきったところにカーブがありますから、そこで」

やっと言葉が返ってきた。

ホッと一息ついて、またゾクっとした。

この坂道登りきったとこって、峠のど真ん中ではないか。

そんなとこで降りてどうすんの?

家があるわけもないし・・・

坂道を登りながら、向こうにそのカーブが見えてきた。

家が一軒ある

うそだ、あんなところに家はなかったはず。

目を疑いながら、カーブを曲がろうとハンドルを切ると、

・・・ガクン!

ブレーキも踏んでないのに、車が停まった。

「あれ?・・・すみません」

後部座席を見ると、女性はやはりスマホに目を落としている。

しかし少し様子がおかしい。

目を落としたまま、全く動いていない。

もしかしたら、さっきの停車のときの衝撃で・・・

「お客さん?お客さん?」

返事がない。

暗闇の中で、スマホの画面だけが光を放っている。

女性は下を向いたまま動かない

そして画面を覗くと、

そこには血まみれの女性の顔が写っていた



9月1日(土) 日照2.7 雨25.5 気温25.0
営収 22,890(11,380) 13(5)回 10.00(6.00)時間
MAX 3,590(※3,110)

昨日までの3乗務の好調もかき消す最悪の4日目

夜は自治会の用事(18半~21半)で抜けたものの

まあひどかったわ。

2011年8月18日木曜日

「ようこそ、この世界へ」~タクシー怪談シリーズ②


その日は、ほんまにやばかった

昼間から全く仕事がなくて、

ツキもなくて、

最終電車間際まで、

1万円も出来てなかった

これで終電でワンメーターなら

俺の今日の収入は約4千円

12,3時間働いてるから、

やばい、コンビニとかで時給700円でも

1万円くらいにはなる・・・

俺は一日何してたんや

頭を抱えてたそのとき

無線が鳴る

駅近くの病院

こんな時間に病院・・・

いい仕事かも

病院の救急出口、

待っていたのは老夫婦

首にコルセットを巻いてる・・・

なんか不気味やけど、

「頼んます・・・オチカタまで」

「オチカタ・・・ですか(どこやねん)?」

「オチカタ・・・知らないんですか?」

もしかしたら、

「温泉のあるとこですか?」

「そうです。よくご存知ですね」

さっき、「知らないんですか?」とか言ってたやん。

それにしてもめちゃめちゃ遠方や、ラッキー!

「それにしても、こんな時間に・・・何かあったんですか?」

「いや、事故に遭いまして」

「事故ですか!それは災難ですね(わたしにとっては・・・まぁ、いいか)」

「オカマされまして・・・この夜中にですよ」

「はぁー!(身体は)大丈夫ですか?」

「・・・」

何か言ってくれよ。

そこから沈黙が続く・・・

行き先はとんでもない山の中

このまま沈黙が続いたらやばい

多分耐えられない、

「いやぁ、今日は暑かったすねぇ」

「・・・」

頼む何か言ってくれ、

「それにしても災難でしたねぇ、お身体のほう大丈夫ですか?」

「・・・」

お願いだから、山に入る前に何か会話してくれよ

そんな運転手の願いも空しく、

タクシーは山の中に入っていった

山を登った後、

また山を下る

山の中のウネウネ道の途中で、

夫婦の奥さんの方がついに口を開いた。

「運転手さん?」

ここで会話ですか!?

声がオクターブ上がる

「はい!」

「ちょっと旦那が具合悪いみたいなんです、停めてもらえますか?」

「はい・・・あの・・・構いませんけど・・・」

この山の中で停めるのかい

勘弁してくれよ

と言っても、言われたからには停めるしかない。

カーブの途中で、

「この辺でよろしいですか?」

「はい、ちょっと待っててもらえますか?」

夫婦は藪の中に入っていった。

その時間の長かったこと、

メーターはもう1万を超えてる。

このまま帰ってこなかったら・・・

この金額は自分持ちか

それでもいい

早くこのシチュエーションから解放されたい

もう限界や

と思ったそのとき

夫婦が帰ってきた

「ごめんなさいね、運転手さん。もう大丈夫ですから」

「気持ち悪くなったら、またいつでも言って下さいね」

やばい、

これはやばい

この空気にはもう耐えられない

山道を登った後

また山を下る

下っても下っても

まだ下る・・・

どうなってんや?

後部座席はまた沈黙・・・

空気に耐えられず、

「いやぁ・・・長い下り坂ですね」

するとずっと一言も発しなかった旦那が答えた。

「運転手さん、この辺来たことないんですか?」

ビクっとしたが

ここでビビったらやばい、

という本能が働いた。

「いや、タクシーでは来たことないんですけど、温泉には何度か来たことがあるんですけど・・・」

「そうなんですか」

「それにしてもこんなに長い下り坂ありましたかね?・・・」

「・・・」

頼む、何か言ってくれ。

そのうち冷静だったはずの奥さんが、

「ケェ、ケケケケケケ!」

突然けたたましい声で笑い始めた。

「えっ?何かありました?」

運転手はもうドキドキである。

もうお金はいらない

早くこの乗務を終わらせてくれ

ルームミラーを見ると、

ものすごい形相の女性が・・・

大人しそうやったはずの奥さんが、

「あんた、まだ気づかないのかい?」

「はい?何をですか?」

「あんた、ずっと同じとこを走ってるだけやねん、ケェ、ケケケケケ!」

頼む、その笑いかたやめてくれ。

「どういうことですか?」

「前、見てみ」

前を見ると山道のカーブにタクシーが・・・

突っ込んでる。

こんな車通りのほとんどない山の中で、

・・・何故気づかなかったんやろ。

グシャグシャである。

「事故ですか?」

「ケェ!ケケケケ!あんた、この運転手アホやで。運ちゃん、そこのタクシーのナンバー見てみぃよ」

ナンバー?

70XX・・・

・・・俺の車のナンバー?

はぁ?

急ブレーキを踏んだ。

車から降りて、

グシャグシャのタクシーの中を見ると

死体が3つ・・・

どういうことなん?

死んでいる運転手は・・・俺??

死んでいるはずの、後部座席の奥さんが

キッと目を開く

おい・・・やめてくれよ

「ウェルカム、トゥザ、ワールド」