2013年3月23日土曜日

10年が過ぎて

先日久々に用事で大阪に出たのだが、

大阪梅田の駅を降りて、真っ先に向かったのが


阪急3番街のタクシー乗り場

10年前、この場所から俺のタクシー人生は始まった

この乗り場は大阪でも定番というか、

最も乗せやすい乗り場の一つで、

多いときは茶屋町の方まで待機車両があふれているのだが、

その日の朝は動きが良く、

「えっ、また進むの?えっ、早いな。心の準備が・・・」

3台目2台目くらいになると、ドキドキしてきて、

ついに先頭

そこまでトントン動いていたのに、

俺が先頭になった途端に動きが止まった(今でもそうやんな)

そんな気がしただけなのかもしれないが、

とにかく長く感じた

駅の並びの先頭って独特の雰囲気があって、

通る人みんなが自分のこと見てる

とか、

俺がここの主人公

なんていう意識過剰になったり、

誰がこの車に乗ってくれるんやろ

とか、

ここを歩いてる数十人、数百人の他人のうちの

(多くの場合)たった一人が俺の人生とリンクする瞬間が訪れる

なんて、通る人まさに一人一人、その服装仕草までが全て目に入ってくる

そんな特別な場所なんです

その特別な場所は10年経った今でも独特の緊張感がある

しかしこの初めての先頭

その緊張感はすごかったなぁ

そしてついに乗ってきたのは、

春なのにロングコートを着た、黒ぶちめがねをかけた小太りの男性

年齢は40代から50代くらいかなぁ

今でもその人の風貌はしっかりと頭に思い浮かべることが出来る。

初めての乗車やから優しそうな人がいいなぁ

なんて思っていたのだが、

「おはようございます!どちらへ行かれますか?」

教育では確か最初に新人であることを伝えるように言われていた気がするのだが、

明らかに分かる場所ならわざわざそんなこと言う必要もないやろ

という自分の勝手な判断から、このような言い方をしたように思う。

「OAP」

俺の希望は叶わず、恐らく会社ではそれなりのポストにいるような、

しかもちょっと厳しい上司

みたいな感じの冷たい目でさらっと言われた。

「はい?」

「OAPやって、OAP行って」

「あぁ、OAPですね・・・わかりました」

OAP

というのは、大阪アメニティパークの略で、大阪帝国ホテルと隣接している施設、

まあ大阪では非常に重要なポイントになるわけで、

当然教育段階でも何度か行っていたわけである。

 要するにこの行き先は、

「明らかに分かる場所」

のはずやったわけだが、

行き先を聞いた途端

頭が真っ白になった

もうどうしていいかわからないわけですよ。

「あの・・・すいません・・・新人なんで・・・行き先誘導して頂いてよろしいですか?」

「はぁ?いいよ。早く行って」

この対応きつかったなぁ。

「先に言えよ」

みたいな。

わかってるんやけど、

その行き先わかってるんやけど、

どうにも思考能力がなくなってしまって、

もう頭に血が上って

わからなくなってしまったんです。

そんな風に言いたかったけど、

言ったら恐らく厳しい言葉を浴びせられそうで、

この年の3月は寒くて、大阪でも雪が降ったくらいなのだが、

もう身体中じっとりあぶら汗かいて、

梅田からOAPまで行くのって、

基本的には(歩けば)扇町通り一本で行けるんやけど、

扇町通りは途中から逆向きの一方通行になるので、

ちょっと細い道を通って行かないとあかんくて、

ややこしいだけに、そのルート確認も何度もしてたんやけど、

もう忘れてしまうのね。

「そこ曲がって!真っ直ぐ行けないよ。右曲がって、そこ左」

「はい・・わかりました」

梅田からOAPって、3キロ程度なのかな、実際結構近いんやけど、

長く感じたなぁ

いつになったら着くんやろ

って、ほんま今でもあの乗車は忘れられない。

料金は確か900円やったと思う

金もらったとき嬉しかったなぁ

お客さん普通に降りていったし、

大きなホテルのタクシー乗降場やから、

ちょっと停まってること出来なくて、

天満橋通りまで出て、路肩に車停めて、

少し息ついてた。

こんなんこれからやっていけるんやろか・・・

とりあえず次の乗車大丈夫やろかって

とは言っても2度目3度目の乗車は覚えてないんやけど。

あれから10年

今では、郊外に移ってきたものの

「運転手さんめちゃめちゃ道詳しいな」

「なんでそんな場所知ってんの?」

とか、

「やっぱプロやわ・・・」

なんてことも、自慢やないけど(自慢やけど)しょっちゅう言われるようになりました。

地域にもよるが、

タクシーの乗車は都会の隔日勤務で1乗務大体30回前後くらいやろか(東京くらいになるともっと多いやろけどな)

月にすると約300~400回

年間4千回くらいかな

ちなみに個人的な昨年1年間の乗車回数は3678回

10年では少なく見積もっても3万回以上

車内で出会った人たちも数万人に及ぶ

数え切れないほどの印象的な出会いはあったし、

嫌な思いをしたこともあったけれど

原点は忘れられない。


昨年オープンした梅田阪急はすっかり変わって、きらびやかになってしまったけど(前からデパートはきれいやったやろ)

3番街のタクシー乗り場は全く変わらないんよね

良い意味で古臭くて、暗くて、大阪らしくて(そこまで言って「良い意味」とか苦しいで)

あそこに行くと、あの頃のことを鮮明に思い出す

タクシーに乗り始めた頃に結婚したのだが、

そのときに、親父に言われた言葉がある。

「結婚相手の親には『タクシーを続けるつもりはない』と言えよ」

「はぁ?俺はずっとタクシー運転手になりたかったし、ずっと続けていくつもりだけど・・・」

「そのつもりでもいいから、そうやって言え。タクシーっていうのは、そういう職業だから」

・・・「そういう職業」

10年経っても未だその言葉が頭から離れない。

別に自分の親を批難するつもりはない。

実際タクシーに乗ってみたら、確かに日本では世間の目が「そういうもの」であることは痛いほど分かる。

なんで「そんな職業」になってしまったんやろ

よく考える

10年考えてやっと答えがわかった

運転手仲間と話していると、よく聞くフレーズがある。

「どうせこんな仕事してるから・・・」

「こんな仕事する前は・・・」

「アホらしい」

「子どもには絶対やらせたくない」

なんで?

なんでそう思うの?

俺たちがいなくなったら経済動かなくなるんちゃうの?

俺たちを必要としてる人たちは山ほどいるやろ

切実に、時には涙ぐんで客に感謝してもらうことあるやろ

あんたら毎日タクシー乗っててそれが分からないの

自分の仕事を本当に「アホらしい」と思うのなら、タクシーに限らず早いとこやめたらいい

それはもはや生活とか、そういうレベルの問題ではない(「あなたの生きている価値はあるのか」という話やんな)。

よく知られている話かもしれないが

イギリスのロンドンでは、タクシードライバーは非常にステイタス(社会的地位)の高い仕事で、

ツイッターなどで話すこともあるが、

日本の運転手とは全く違って

みな自分がドライバーであることに誇りを持っている

でもやってること、仕事の内容は我々日本の運転手と全く同じわけですよ

違うのは働く人間の意識だけ

「どうせ俺たち・・・」

なんて言ってるからバカにされるんや。

胸張って言いましょうよ。

我らタクシー運転手

文句あるかって、

40も近くなってきたが、

10年経っても、幸いにも自分は未だタクシー運転手としては若い部類に入る

まだまだ時間はある。

そんなに簡単ではないかもしれないが、

10年後20年後のタクシーのイメージを変える

そのために、

みんな高く意識持っていきましょうよ

そしていつか、

「タクシー運転手の婿さんもらって本当に良かった」

そんな時代が来ることを信じて。



14 件のコメント:

  1. タリホー運転手2013年3月24日 12:55

    お疲れ様です!
    日曜日の朝、待機中車の中でブログ拝見させてもらってます。
    私は2年経過しました。
    タクシー乗る前まで私もタクシー運転手にたいしては、偏見の固まりでしたね。

    ブラックキャブさんのブログに出会ってなかった
    ら、こんなポジティブにやれてなかったかもしれません。
    今は言えますよ!
    「タクシー運転手」やってますって。

    勧めてもらったブログも大きなチカラになっています。

    タクシー運転手としても、またブログもまだまだお粗末で半人前ですが
    「イケてる運転手」めざして頑張ります!!
    くれぐれも、哀愁と加齢臭をただよわさないように(笑)。


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    1. タリホーさん

      ありがとうございます!
      相変わらずのつきぶりですね(腰大丈夫ですか)。
      この仕事「つき」に大きく左右されますが、タリホーさんのようにポジティブだからつくのか、つくからポジティブになれるのか…
      しかし長い間ここ(運転席)にいて、はっきり言えることは、「幸運」はそこに参加する全ての人間に平等に与えられるわけではないということです。

      この不平等な世界で勝ち抜くためにはどうすれば良いのか。
      最近わたしもちょっとだけ見えてきたきがします。

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  2. ずいぶん前からブログみています。
    これからもブログかいてください。

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    1. ありがとうございます!
      FacebookなどのSNS全盛の時代ですが、このように「タクシー」というキーワードを基に、知らないもの同志が通じあうことが出来るブログの存在価値はまだまだ色褪せていないと思ってます。
      お陰さまで毎日多くのアクセス頂いて、手応えとやりがいを感じてます。

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  3. 10年ですか。短いようで、長いようで。
    私も東京で就職して20年になります。
    まだまだ先もありますので、引き続きがんばっていきましょう。

    #最近はごぶさたでした。Facebook中心になってしまったので、気づくのが遅れました。

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    1. どらちゃさん

      お久しぶりです!
      前に堺屋太一さんが「30年後を見据えて職を選びなさい」というようなことを言っていました。今良いと思われている職業は30年後には衰退して、見向きもされない職業がその時には皆がうらやむようなものになっているかもしれない…

      (今もそれなりに注目されていますが)中小企業診断士も、20年後には見られ方が変わっているかもしれません。

      お互い頑張りましょう!

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  4. 私はそこに並んだことはありませんが、梅田周辺は営業エリアです。
    夜日勤で1日の乗車回数13~16回を目安にしています。
    最近お客さんから頂くチップがそこそこの金額になってきましたので
    少しはドライバーとしてのポテンシャルアップしたかもしれません
    おかげ様で私は営業所ではコンスタントにトップクラスの売り上げを計上出来るようになりました。
    流すエリアや待機、休憩タイミングどれ一つ気が抜けない仕事ですよね
    業界3年目の未熟者ですが一日おおよその流れが解って来たように思えます。
    こんな私にも将来の夢が出来ました。

    3年前25年間のサラリーマン人生からリストラされ途方に暮れて
    おりましたが
    このブログからきっかけを頂いて感謝しています。
    いつまでもお体を大切に頑張ってください。

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    1. ちみちみさん

      ありがとうございます!
      都市部の夜日勤、いわゆる「ナイト勤務」は一般に最も稼げるシフトだと思います。わたしの定義では昼間走るのが「タクシー運転手」で、夜走るのが「タクシードライバー」かなと…(映画「タクシードライバー」のトラヴィスがナイト勤やからか)。

      通常大きな会社では、組織で戦略を立てて、その見返り(の一部)を配分します。しかしタクシーは個人で戦略を立てて、その見返りは個人に返ってくる。どちらが楽しくやりがいがあるかということですよね。

      >こんな私にも将来の夢が出来ました

      素晴らしいお言葉ありがとうございます。
      これこそまさに我々の求めているものでしょう。
      お互い頑張りましょう!

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  5. お疲れ様です~~~
    やっと1年経過しましたが、何の職業でも
    プライドは必要ですよね。

    自分から卑下する必要はないんですよね
    言いたい人には言わせて、自分らしいタクドラへ進化

    早くプロになりたいですが、まずは違反と事故をしない
    ドライバーを目指しております。

    10年続けられるが、私にはそっちが問題ですけど・・・(笑)

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    1. Ozumaさん

      地域にもよりますが、タクシー運転手として仕事を覚えるのに大体1年と思ってます。
      その後、2年目3年目はドライバーとして脂が乗って、最も楽しい時期なのかもしれません。
      そこからは、それなりに安定と心地よさを求めて知恵を働かせる人と、ある種の「燃え尽き症候群」に陥る人と分かれていく気がします。

      >早くプロになりたいですが、まずは 違反と事故をしない ドライバーを目指しております

      こういう考え方を持たれている時点で間違いなくプロに近づいているはずです。映画「TAXI」みたいなのをプロと勘違いしている連中も少なからずいますから…

      タクシーは今後大きく変わっていくと思います。末長くがんばりましょう!

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  6. 良いブログですね。
    正直感動しました。

    私もこの世界に入って3年たちました。
    仕事にも慣れ、売り上げもそれなりの水準で安定してきました。

    でもまだまだ知恵を働かせて、
    売上を伸ばす余地がたくさんあると思います。

    この世界、blackcabさんが言われるように、
    ネガティブな人が多すぎて、個人単位でも努力不足な人が
    多すぎるように見受けられます。(法人単位もですが・・)

    という事は努力する余地がある、まだまだ産業として
    伸ばせる余地があると、私は思っています。

    お互い頑張りましょう。
    素晴らしいブログ、ありがとうございました。

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    1. ポニョタクさん

      ありがとうございます!
      家族旅行に行かれたんですか。
      良い季節ですよね。

      突然ですが、いわゆる「タクシー特措法」が施行されたのが2009年の10月。それまでの規制緩和で「誰でもどうぞ」から、再び規制をかけ始めてはや3年半になるわけです。
      こちらにコメントを頂いている方や、自社の運転手を見ても、「規制時代」に入ってきたここ2年3年の運転手はちょっと違うなと感じてます。
      プライドとは違うんですよね。古いドライバーでもプライドばかり引きずっている人は多いですが…やはり意識なんでしょうね。意識と行動。そんなものが見えるようになってきました。

      まだ三部咲きかもしれませんが、わくわくしますよね。

      がんばりましょう!

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  7. いつも楽しく拝見させてもらってます。サラリーマンをしていて色々と考えさせられることがありますね。blackcabさんのように前向きに誇りを持って仕事をしているいいことだと思います。会社辞めた場合、僕もタクシー運転手になるからみたいなことを言うとみっともないから止めてだって。世間ではそんなイメージなのかもしれません。そのイメージを払拭のため情報発信をしタクシーの面白さを伝えている。僕には充分タクシーの面白さ・やりがいが伝わっています。なんというか自由さがうらやましいですね。これからも情報発信を楽しみにしています。

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    1. ありがとうございます!
      余談ですが、タクシーというのは資産運用においても優等生なんですよ。
      国や都市によっては台数制限がかけられていて(ニューヨークが有名ですが)、権利そのものが売買されますから。さらにそこに運送収入が定期金(利息)のような形で加算されます。
      権利価格が高騰するような地域では、需給も逼迫しますからタクシーも儲かる。
      日本でも運転手が不足して権利制を取る日が来るかもしれません。そのときは真っ先にメダリオン投資に手を出そうと今からコツコツと蓄えてます(笑)

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