2025年12月30日火曜日

タクシーストーリー⑭ 2種免自動車学校

 入校式の日から学科が2時限組まれていた

翌日からは午前3時限が主に学科、午後に実技が2時限、または3時限組まれていた

合宿1週間で40時限の詰め込みは結構ハードである

学科では各時限で考査(小テストのようなもの)があり、

落とすと再受講になる

実技も判をもらえなければ、先に進めない

全てがストレートに行って、最終日(月曜入校の翌月曜)に卒検となる

卒検に落ちれば、また翌日(火曜)受験となる

なんとか月曜に卒業したい

特に用事があったわけではないが、

ここで落ちこぼれたら、今後の仕事において

何か落とし物をしたような、

そして、それは2度と拾えない落とし物である

学科の復習は卒検前(日曜の夜)にやれば良いとして、

夜は主に翌日の考査対策の予習に費やした

入校した夜も、次の日も晩飯はコンビニの弁当で済ませた

月曜入校して、水曜の夜、ここからさらにギアを上げようかと思っていたら、

同室の梶川が部屋に入ってきた

「精が出るなあ、そないにがんばってどうすんの?」

嫌らしい笑顔を浮かべながら、机に座って勉強していた俺のノートを上からのぞき込む

「今隣の部屋の2人と話とったんやけど、歩いて行けるところにラーメン屋があるらしいわ。せっかくやから同期で少し飯でも食わへんかって話になったんやけど」

合宿中はとにかくストレートで卒業出来るように、精一杯勉強する気ではいたし、

目の前にいる男はやや距離を置きたいタイプではあるものの、

これから同じ仕事をすることになる、他の「仲間」には興味があった

「どないする?行くか?」

こんな聞かれ方して、肯定的な返答をしたくはないが、

「行きますわ」

こんな奴ばかりではないやろう


12月29日(月) 67,750 50回

仕事納め

年間無事故達成!

実は去年は一度事故してしまったから、

無事故が何より嬉しい

タクシー乗ってて、最も達成感を感じるのは

「無事故」である

当たり前のことを当たり前にする

それがプロである

来年はタクシーに絡んだチャレンジを始めよう





2025年12月27日土曜日

話せない客

 ちょっと年末らしく?衝撃的な乗車やった

配車先は場末の飲食店で、

近くに停めて待っていてもなかなか乗ってこない

店の人が出てきて、

「(お客さん)足が悪いんで、入口近くまで車停めてもらえますか」

「わかりました」

昼間の病院ならともかく、

夜の飲み屋で「足悪い」って…(飲みに出るなよってか)

入口に付けるが、乗るまでまた2,3分かかる

80歳くらいやろか

伸びきった白髪と、ジャンバー、杖

さらに、

「どちらへ行かれますか?」

「あー…、うー…」

一生懸命手を振ってるが、まともに話せない

これはえらい仕事当たったな…

「右ですか?左ですか?」

「あー、うー」

だめや、こんなん

「行き先も言えないなら、もう警察行きましょか」

近くの交番前につける

「あー!うー!」

なんか怒ってる

「いえまで(行ってくれ)!」

仕方なしに手振りを見て、右へ左へと走る

なんとか客の家らしきマンションに着いた

「2200円です」

結局店から普通に来れば、ワンメーター程度の場所であったが、

まわってまわって2000円超え

金を出すにもめちゃめちゃ時間かかって

それでも2500円出して

300円はチップのようである

車から降りるにも降りられず

一度立っては、またドン!と座席に戻る

チップもくれたし、少しは介助しようかと

車を降りて手を貸す(これやったらあかんやつやろ)

なんとか立たせて、歩かせようとしても、

体重が後ろにかかりすぎ

手が離れたら、

いきなり思い切り倒れて、

ドーン!

と頭を打った

「あー!うー!」

頭を抱えている

やばいやん

すぐに119番に電話

「あのタクシーの運転手ですけど、高齢のお客さんが降車後に倒れて、頭打ったんです」

「ご本人は救急車を希望されてるんですか?」

「いえ…わたしの判断です」

「それなら、ご本人の意思を確認してください」

そうこうしているうちに、少し動き出した

「あ、少し動きました」

「そうですか。またご本人が希望されるようでしたらご連絡ください」

救急車は呼ばず、

座り込んでいる老人を起こし、

壁に手を置かせて、

「おじいさん、大丈夫?倒れたらあかんで」

年末最後の金曜日

忙しい夜である

現場を離れたが、

少しして、

忙しいも何も、人の命優先やろ

と思い、

またそのマンションへ戻ってみたが、

もうその老人はいなかった

どこへ行ったんやろ…

そんな早く動けるわけないし、

実はこの世に存在しない人やったとか


12月26日(金) 78,160 52回





2025年12月25日木曜日

タクシーストーリー⑬ 入校式

入校式と言っても、

自動車学校における、これからの2種教習の説明会だった

概ね学科20、実技20時限、ストレートで通れば計40時限とのことであった

※2025年9月の法改正で約30時限に短縮されている

週一、月曜入校なので、

6名が同期として教習を受けることになる

ひとりひとり、簡単に自己紹介があった

大阪組が3名、神戸2名、地元徳島から1名

自分の順番が来た

「神戸から来ました山元卓也です

42歳です

前職はスーパーで店長をしていました」

もう少し言いたいことはあったが、無難なコメントでやり過ごした

「ほー、店長さんか」

60歳くらいの、頭の禿げかかった担当教官が嫌味っぽく呟いた

入校式前にルームメイトになると挨拶をされた、梶川という男の自己紹介はよく覚えている

「大阪生野から来ました梶川祐樹です

52歳です

高校中退して、いろいろやってましたが、直近はヤマトの配送やってました

昨年の年収が600万ほどでした

年収1000万出来ると聞いて、タクシー乗ることにしました

よろしゅう頼んます」

同じ関西人の自分からしても、きつい大阪なまりやった

何より「タクシー」の発音が、後半にアクセントのある独特の響きで、

何か違う職業の話をしている印象があった

年収1000万

確かに自分も、そんな話を聞いてタクシーに興味を持ち始めた

部屋に戻ると、梶川はもうチェックインしているようで、

自分と反対側のベッドの下に無造作に脱ぎ捨てられているシャツやジーパン、これでもかというほどに踵を踏みつぶしてあるスニーカーがひっくり返っていた

自分も荷物をまとめていると、                    

共同トイレに行っていた梶川が戻ってきた

「山元さんか、よろしゅう」

右手を差し出してきた

コロナ禍以来、握手などしていない

差し出された手に気づかないふりをして、

「梶川さんですね。よろしくお願いします」

梶川は差し出した手を、特に不快感も出さずに引っ込めた

「なんでタクシー乗ろうと思ったの?」

いきなりタメ口である

「前職では管理職で、いろいろストレスも多かったので、自分のペースで働けると思いまして」

「なんぼくらい年収あったの?」

イメージ通りというか、金の話しかしない

「400万程度です」

梶川は少しふっと息を吐いた

「そんなんでは生活できんわな。家族もおるんやろ」

「そこそこ生活は出来ましたが、働き方の問題です」

梶川は嫌らしい笑顔を浮かべた

偏見かもしれないが、我々神戸の人間が大阪人に抱くイメージそのものやった

「働き方なんて関係あらへん、仕事は金やで」


12月24日(水) 77,770 43回

イブの夜は悪い

長いことタクシー乗ってると、言わば常識のようなものである

家族と時間を過ごすために、家に帰る

飲み屋に行けば、女性スタッフにプレゼントでも持って行かなければ店に入りにくい

というところやろう

しかし今日は神ってたな

午後はあべのハルカス行って、

21時過ぎから芦屋でアプリ中心で動いて、

西宮へ、

眠くなって寝てたら起こされて神戸元町

税抜き売上もきれに7続き



2025年12月23日火曜日

「本気の彼氏います」

 ちょっと久々に強めのネタがあったので、記しておこう

深夜2時

もう帰庫しようと思った矢先

無線が鳴った

一瞬迷ったが、

了解ボタンを押す(押したらもう逃げられへんからな)

配車先は、

ラブホテル

あー!!

最悪

ラブホテルの仕事自体大嫌いやけど、

こんなもう帰ろうとしてたときに当たるとは(なんで取ったんや?)

仕方なしにホテルに向かうと、

女の子若くてめちゃかわいい子やった

こういう時間にタクシー呼ぶのって、大抵めっちゃおばちゃんで、

えー…って感じのパターンが多いんやけど(どういう感じなん?)

車内の会話は、男性が饒舌で

「いやー、今日はみんなやたら(酔い)つぶれてたわ」

忘年会やったみたい

「(忘年会の)予算200万やって」

「えー、すごいな」

大企業か

「ごめんな、こんなんばっかりで」

「いや、全然(良いよ)」

どんなんかわからんけど、男が謝ってる

「今度こそ旅行行こな」

「行こう行こう」

会話だけなら普通のカップルの会話やけど、

なんか違和感あるんやな

それが俺らタクドラの嗅覚っちゅうやつかもしれんけど、

とりあえず男の家の近くへ送る

「エリは本山やんな」

「うん」

「運転手さん、あとこの子(女)摂津本山までお願いします」

「わかりました」

まあまあ悪くない仕事である

「ちゃんと送ってあげてくださいね」

「はい」

それ以外に一体どういうパターンを想定してるんや、この男は

女とキスをして、タクシー代を渡して男が降りた

「本山なら、とりあえず山幹走ったら良いですね」

「本山じゃないです」

「はっ?」

「家」

「はっ?」

「とりあえず阪急六甲の方へ」

「わかりました…」

さすがにちょっと気になったので聞いてみた

「どういうこと?」

「いや、あの人にほんまの家知られたくなかったんで」

「はぁ…実は旦那がいるとか」

「結婚してないけど、本気の彼氏います」

「はぁ…そういうわけね。さっきの彼は、やっぱ金持ってるから?」

「まあ、そんな感じです」

目的地、彼女の「本気の彼」の家に着いた

「えー、4200円です」

「あー、はい、これで」

男からもらった1万円札を出す

釣りを渡す(女の子5800円儲けか)

「ありがとう」

「ありがとうございます!」

降り際に見せた笑顔は浜辺美波そっくりやった


12月22日(月) 74,820 47回



2025年12月19日金曜日

タクシーストーリー⑫ 入校日

そうこうしているうちに、

入校の日になった

待機日数は嫌というほどあったので、

準備は万端である

子供たちを送り出し、

朝出発前に荷物を確認していると、

嫁さんが黙ってパートへ出かけていった

ちょっと気の利いたドラマなら、

そこまでギスギスしていても、

出かける前に一言、

「がんばって」

なんてのがあるのかもしれないが、

現実は、無言で目も合わさない激励であった

バスの出発時間はそれほど早くないので、

ゆっくり歩いて駅まで行って、

阪神電車で三宮に出て、

そこから会社が手配してくれた高速バスに乗って、

徳島の自動車学校へ向かった

指定のバス停を降りて、5分ほど歩いたところに学校と合宿の宿舎があった

まず宿舎の部屋へ案内され、荷物を置いた

8畳ほどの部屋の両脇に2段ベッドが置かれていた

一応4名入れる部屋だが、自分ともう一人の2名の相部屋になると説明された

相方はまだ到着していないようである

昼過ぎに到着して、14時からは入校式と説明会があり、

その日から授業も2コマほど組まれていると聞いた

近くのコンビニへ行って、

軽く昼食を済ませた

なんか海を越えてきたせいか、

入校日を待ちながら、鬱々としたここ数日から解放されて、

清々しい気持ちになっていた


12月18日(木) 69,360 44回

朝からよく動いたが、

長いのはないな

短いところを淡々と走り続けると、

仕事してる感ある

しかしまた夜はあかんかったな

ほんまに12月なんやろか

値上げの乗り控えやろか



2025年12月17日水曜日

タクシーストーリー⑪ 一人旅

勤めていた食品スーパーを退職して、

自動車学校に入校するまで、10日近く空いた

タクシーへ転職することに不満を隠さない嫁さんと一緒に家にいるのも、

1日2日なら良いが、10日ともなるとさすがに気まずい

この機会に子供たちと過ごすのも悪くはないが、

中2の息子と、小6の娘で、

日中は学校に行ってるし、

そもそも今までほとんど家にいない生活をしていたから、

父親が転職で家にいると言われても、

子供たちの反応もイマイチである

「お父さん、タクシーに乗るの?」

心配そうに娘が聞いてきた

小学生とは言え、高学年にもなると、

大人の世界の職業の貴賤みたいなものは、

なんとなく分かるのかもしれない

「うん」

ここで、もう少し説明を付け加えられたら全然違うんやろうが、

何せ、何も知らない世界である

家に籠って3日目、

耐えられず、簡単に着替えなどまとめて、一人旅に出た

阪神青木駅から西へ向かい

なんとなく広島へ行った

ビジネスホテルに2泊して、

平和公園などをウロウロしていたら、

なんとなくストレス解消出来ていた

九州まで行ってみようかとも思ったが、

やめて家に帰った


12月16日(火) 55,930 45回

想定していない展開やった

12月も後半に入って、

これほど苦しむとは、

夜はほんまにさっぱりやった

阪神の駅に入って待って待って40分ほど、

若い男女が乗ってきて、

「××ホテルまで」

「わかりました」

700円…今日最後の客やった



2025年12月15日月曜日

タクシーストーリー⑩ 入校手続き

 9月になっても夏は終わらない

そんな時代になりつつある

会社から渡された書類を揃えて、

入社手続きをした

「今はまだ学生さんが多いから、なかなか予約取りにくかったんやけど」

事務所の女性が9月下旬からの自動車学校の予定表のファイルを渡してくれた

合宿になるので入校は月曜日で、うまくいけば次の月曜には卒業出来るらしい

「(卒検に)失敗する人とかいるんですか」

「うーん…まあ、7,8割は予定通り卒業されてますよ」

まあまあプレッシャーのかかる数字である

学校は徳島らしい

「どうします?車で行かれます?バスなら交通費は出ますが」

自家用車で言った場合は交通費は出ないらしい

「それなら、バスで行きます」

明石の橋はそれなりに通行料かかるし、宿舎は学校の隣のようやから、車使うこともないやろう

「分かりました。高速バスのチケット取っておきますね」

何年ぶりの自動車学校やろ

それより、1週間後の入校日まで何しよか

今までほとんど休みなどなかったから、休みがあっても何して良いか分からない

保証人問題で夫婦関係もギスギスしてるから、旅行というわけにもいかないし、

この機会にゴロゴロしようか

などと考えていた


12月14日(日) 74,550 51回

日曜出勤

12月もこの時期になると、

もう曜日関係なく、絶え間なく仕事はある

自分で休憩とるか、がんばるか

無理すれば一日中走りっぱなしである

そんなのも楽しいけど、

飛び出してくる自転車とか、子供とか、おっさんとか…

とにかく事故には気を付けよう



2025年12月13日土曜日

タクシーストーリー⑨ 退職

結局嫁さんは保証人を最後まで断り、

田舎の父親と、姉に保証人をお願いした(母親は数年前に亡くなっている)

後に分かったことだが、

タクシーって、独身が多いことは多いのだが、

もちろん過去に奥さんと別れて独身の人もいるし、

ルーザー的なイメージは、確かにあるわけだが、

奥さんのいるドライバーは意外と仲が良い

タクシーに乗っていると、

実車中(お客さんを乗せているとき)を除けば、

いつでも連絡がつくし、

休みも多いので、家にいる時間も長い

事業に失敗したとか、

前の職場で人間関係に苦しんで業界に入ってきている人も多いが、

家族との時間を多く取るためにタクシーに乗っているドライバーもいるようである

要するに、

嫁が身元保証人にサインしてくれないようなケースは、

これも後から知ったことだが、

珍しかったようである

そんなこんなで、今の会社に規定の2週間を空けて退職願いを出し、

そのうち1週間は有給消化して(結局有給20日ほど捨てることになった)、

円満退社とは言えないのかもしれないが、

ただ曲がりなりにも10年以上勤めあげた会社の出勤最後の日にも、

未練は全くなかった

1か月くらい先には、自分がひとりでタクシーに乗っていることを考えると、

正直ワクワクしていた


12月12日(金) 80,040 48回

12月第2金曜日

タクシーにおいて、1年で最も売上が上がりやすい日と言える

期待通り、一日中よく動いたし、

単価も良かった

ただミドル(5千円以上)はなし、

ロング(9千円以上)は1回だけやった




2025年12月11日木曜日

タクシーストーリー⑧ 身元保証人

 面接は合否というより、

「こちらは是非入社して頂きたいと思っています。山元さんが今の職場をやめて、うちに来る気があればこちらの書類を揃えて持ってきてください」

面接の直後に入社書類を渡された

履歴書が嘘だらけかもしれないのに、身辺調査もせずに内定がくだされたわけだ

※実際はタクシー会社でも、大手などは直近の職場等に身辺調査をすることはあります

家に帰って、A4封筒に入っている書類を開けると、

まあまあのボリュームやった

主には入社前に通う自動車学校の資料やった

1枚づつ見ていくと、

身元保証人(2名)

という用紙があった

その日の夕食のときに、嫁さんに資料を見せた

「なにこれ?」

「いや、自動車学校の費用や、入社時に祝い金なんてのももらえるから、すぐやめて逃げる人もいるらしいねん。そんで…(保証人が)必要なんやって」

「それ(保証人)をわたしに?」

「まあ、普通は嫁さんがいたらそうなるやろ」

「わたし、こんなん書かへんで」

「えっ?」

「タクシーなんて、反対言うたやん」

「俺が金払わず逃げるとでも思ってるのか?」

「そういうわけやないけど、タクシーって聞いただけでなんかゾッとするわ」

「……」

「なぁ、今からでも考え直してくれへん?」


12月10日(水) 65,920 32回

今日は午前中は観光の仕事やった

神戸灘の酒蔵めぐり

酒蔵に連れて行って、駐車場で待ってるだけ

中まで同行して、説明出来たら良いのだが、

そこまでするにはかなり勉強せなあかんし、別料金ももらわなあかん

タクシー代だけでも、まあまあするのに(3時間21,800円)

それ以上の価値を提供して、需要があるかどうかやな



2025年12月9日火曜日

タクシーストーリー⑦ 面接 志望動機

 「えー、…あと、そうそう、タクシーに乗ろうと思ったのはなんでかな?」

社長の最後の質問やった

一体この面接はなんやろう

ここまで1時間近く面接時間を使ってきて、

ここに来て、この質問か

面接始めから、勤務形態とか、勤務時間の制限の話やら、

日報まで見せてくれて、日報の書き方まで説明があったが、

真っ先に聞かれるべき質問が最後に来た

もちろん答えは用意していたが、

14時から始まった面接は1時間の予定で、次も控えているようやった

簡潔に答えた

「はい、街を走っているタクシーはよく見るんですが、縛られた感じがなくて、自由に見えたんです。今まで決められた業務と時間に追われて、いつのまにか常に上司や部下の顔色見ながら仕事をしていたんですが、そういう世界とは全く違った空気を感じました」

白髪の社長は真剣にこちらを見つめていた

「ほぅ…、面白いな」

「…」

何が面白いんやろ

「今まで何人もこうして面接して、志望動機を聞いてきたが、意外とその言葉を出す人はいないんやな」

「その言葉?」

「自由」

「…」

「正解や。よく見とるわ。タクシーは自由やで」

「はい」

「しかし、自由は裏返せば、放任であり、孤独であり、仕事面でも収入面でも寄りかかる壁はない」

「…はい」

「それを楽しめるかどうかや」

面接の途中までは、他社のことも考えながら聞いていたが、

ここに決めようと思った


12月8日(月) 66,820 47回

少し年末らしくなってきた

日中から夕方にかけては、ほぼ停まる時間もないくらい忙しい

夜も年末らしく変な客が出てきた

行き先を言えない(くらい酔っぱらった)客

風呂に入ってないのか、とてつもない匂いを発してる客

あまりにひどいので、

「ちょっとかなり匂いがきついんで、次のお客さんも乗せられなくなってしまいますし、次回は受けられませんよ」

と伝えると、

「名誉棄損や!警察呼べ!」

「…わたしは(余計な時間かかるだけなんで)呼びませんよ。呼びたかったら降りてから自由に呼んでください」




2025年12月6日土曜日

タクシーストーリー⑥ 面接続き

 「今まではどんな仕事してたんですか?」

考えてみれば、相手にとっては一番重要な質問であるが、

面接もそろそろ終わりかと思ったときに、社長が問いかけてきた

ここまでは、課長がクシーの仕事や教習の内容などの説明を一方的に説明するのを聞いていた感じであった

回答は少しは用意していた

「今まではスーパーでの仕事が長かったです。基本はレジ打ちや品出しですが、最終的には店長として仕入れや値付けなども行っていました」

「そこまで任されたら、それなりにやりがいもあったんやないですか」

「はい。自分なりにはやりがいを感じていた部分もありますが、そこに対する評価はほとんどなかったですし、ミスに対する突っ込みは容赦なかったです」

「店長として、下のもんの責任も負わされたりするんやろな」

「はい、その通りです」

「楽しくなかったか」

「まあ、…はい」

「収入は?履歴書には書いてないか」

隣に座っている課長に振る

「はい、記載ありません」

課長が事務的に答える

「給料はどのくらいもらってたんですか?」

聞きにくい質問なんだろうが、社長はストレートに聞いてきた

「はい…年収は400万を少し超える程度ですが…収入面でそれほど問題はなかったんですが」

「ハハハ!収入に問題ないのに辞める奴はおらんよ。ストレスの大きい仕事でも、それなりの収入があれば、人は我慢するもんや。もちろん限度はあるけどな。聞いたところ、あなたが今の職場で感じているストレスは、悪いけど一般企業で中間管理職が感じている『普通の』ストレスやろな」

ズバっと言うな

このくらいから、少しづつこの社長に信頼というか、リスペクトを感じ始めていた

「そうなんでしょうか…、そうなんでしょうね」

「給料が少なすぎたいうことや」

社長が笑顔を振ってきたので、こちらもぎこちない笑顔を返した

「まあ、心配せんでも良い。あなたが今もらっているくらいなら、(タクシーで)それを下回ることはないやろ」

白髪の社長はもう一度笑顔を振ってきた

「あなたにとって、タクシーの仕事はきっと楽しくて仕方ないやろな」

今度は笑顔を返すことは出来なかった


12月5日(金) 67,550 48回

12月最初の金曜日

少しは期待して出たものの、

やはりというか、

12月はじめは良くない

20年以上この業界にいると、分かってはいても12月という響きに期待してしまい、

そのギャップにショックを受ける

まあまあ、だんだんと上げてくるやろ



2025年12月2日火曜日

タクシーストーリー⑤ 面接

面接は見た目80歳くらいの社長と、

課長と呼ばれている管理者の男性の2名がソファの向こう側に座って行われた

ザラザラとした、なんとも言えない古い素材のソファには、誰のものとも思えない髪の毛がそこここに付いていた

「えー…と、タクシー経験はないんですね」

履歴書を見ながら、神経質そうな課長の第一声はタクシー経験についてだった

「はい」

「いえ、構いませんよ。免許はうちが費用を負担して取得出来ますから」

3か月ほど散髪に行っていないような、中途半端に伸びた髪を触りながら、不自然な笑みを浮かべて課長は言った

「あのー…、免許を取らせてもらった場合は、何年かは縛りがあるんですか…」

「1年半です。それ以内に退社された場合は申し訳ありませんが、免許取得にかかる費用は負担してもらうことになります」

やはりそうか

「その場合の費用はいくらくらいになるんですか?…いえ、あの、当然すぐに辞めるつもりはありませんけど」

「はい、ご心配は分かります。費用は教習中に支払われる1日1万円の手当も含めて30万程度になるかと思います。入社1年を過ぎたらそれが半額になります」

30万か…

壁を見上げると、運送約款だとか、運行管理者の資格証などの類の額がバランス悪く飾られている

2年もこの会社にいるイメージが湧かなかった

タクシーはこの会社だけではない

ここはやめておこう

と思ったとき、ここまで隣で座っていただけの、白髪の社長が初めて口を開いた

「いらんよ」

「はい?」

課長が驚いたような顔で横に座っている社長に顔を向ける

「半年で辞めても、1か月で辞めても、免許の金は返さんでも良い。一度タクシー乗ってみたら良いわ。君みたいな年齢から乗り始めたら、きっとすぐに辞める気にはならんよ」


12月1日(月) 51,730 41回

いよいよ12月

初戦は惨敗やな

朝から日中の動きは悪くなかったが、

夕方から夜はひどかった