昨日の無線配車
21時過ぎかな、H駅で待っていたのは40前後の男性やった。
「この辺にレオパレスってあります?」
レオパレスといえば、
タクシーでは、よく送る場所のひとつである
企業の短期の出張や、出向みたいな場合に利用されることが多いようで、
そういう場合、車もないし、
交通費も大抵会社持ちやったりするので、タクシーを利用しやすいのである。
しかし、この場合はちょっと違ったようである。
「・・・ありますけど。一応なんか資料あります?」
最寄のレオパレスはぱっと頭に浮かんだが、
間違えてはいけないので、一応住所確認する。
「どのくらいかかります?」
タクシーでこういう質問をする場合、
大抵は時間のことを聞いているのだが、
運転手の勘で、この場合は「金額」を聞いているのだと判断した。
「近いですよ。千円以内ではいけるはずです」
「良かった・・・あんまり金持ってないんで」
予想通り、なんか訳ありの様子である。
同年代で、なんとなく話やすそうやし、
突っ込んでみるか。
「なんかあったんですか?」
運転手からのこの質問は、
当然気軽にして良いものではないが、
中には話したい客もいるもので、
雰囲気を読んで、することがある。
「いや、実はさっき家を出てきたところなんですよ」
「・・・『家を出てきた』というのは、『行ってきまーす!』という感じではないですよね」
ちょっとディープな空気になりそうやったので、
アホっぽく対応してみた(場合によっては切れるで)
「かみさんに追い出されまして・・・」
「追い出された?」
「いろいろあったんですけど・・・わたしが、仕事の方ばかりに目が行ってしまって・・・」
ここまでの会話で、俺の頭のスーパーコンピューターが高速で動き始めた。
キーワードを整理していく。
①「追い出された」
②「いろいろあった」
③「仕事ばかり」
・・・
①からわかることは、
奥さんの浮気ではない。
飛んで、
③からわかることは、
仕事に夢中になって、別れることはあるかもしれないが、
その場合は、いろんな話し合いが持たれるやろうし、
着の身着のままで追い出されて、
レオパレスに飛び込むようなことはないやろう。
そこで、浮かびあがってくるのが、
②「いろいろあった」
これやろね。
「大変でしたね・・・いろいろある時期ですもんね」
「・・・はい」
もう一つ引き出すために、思い切ってぐっと持ち上げてみる。
「もてそうですもんね」
「・・・いや、そんなことは・・・子どもはかわいいんですけど」
出た出た、
支離滅裂な回答
「子どもはかわいいけど」
ここから引き出されるのは、
「奥さんはかわいくない」
来たね来たねー(お前何者や)
「新入社員の娘ですか?」
「はい?・・・えぇ、まあ・・・と言っても、そんなに若い娘やなくて、中途採用の・・・」
「本気やったんすか?」
「・・・いえ、浮気です」
このとき男性は、ふっ切れたような、なんとも言えない良い笑顔を見せた(美談にすんなよ)。
「大変でしたね」
「もう今までも何度かありましたから、もうダメです。もういいんです。幸いあいつ(嫁)も働いてて、金には困ってませんから」
「お子さんおいくつなんですか?」
「小6と小3です。もう会えませんけど」
「そんな・・・会いに行ったらいいやないですか。子どもはまた別の話でしょう」
レオパレスに着いた。
男性は、その小さな建物を見つめながら、
微笑んだ。
「いいんです。ここから、また新しい人生を始めようと思います」
な、なんか、話きれいになってきよるぞ。
レオパレスにそんな「始まり」のイメージなかったんやけど。
「ありがとうございます。710円になります」
「こちらこそありがとうございます。話してちょっとすっきりしました」
「いえ・・・そんな、でもお子さんには会いに行ってあげてくださいね。お子さんのお父さんは一人だけですから」
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