2013年2月2日土曜日

出会い系タクシー



かき集められた千円札・・・

ドライバーをしていたら、

日々車内で多くのお客さんとの出会いがあるわけだが、

ときに利用者同士の「出会い」というものもある

これは残念ながら「男と女」の話ではない。

タクシーの乗り合いというのは、基本的に運転手が奨励することは出来ないが、

利用者同士で話し合って「乗り合い」する分には、当然問題は生じない

この日、駅の乗り場で話し合って乗ってきたのは、

さわやかな20代男性と、

中間管理職っぽい50代の男性、

そして、黒ぶちメガネをかけた、見た目40代の男性の3名やった。

「いやぁ、助かりましたよ。みんな同じ方面で」

20代男性がうれしそうに言った。

「運転手さん、大体いくらくらいかかります?」

「えー、1万円・・・は超えるでしょうね」

こういう場合大体の目的地は聞いていても、それぞれの自宅まで行くことで結果的に遠回りになることが多いので、見積もりにくくなってくる。

逆に、何人かをそれぞれの家に送る仕事というのは、運転手にとっては比較的おいしい仕事である。

「ひとり3千円くらいで行けます?」

「いや・・・4千円くらい見てもらったら(何とかなるでしょう)」

「それでもなぁ、一人1万円もかかるところだったんやから、まあラッキーでしょう」

50代男性が言うと、

「そうですよね」

20代若者が応じた。

見た目40代(この男性だけ会話の中で年齢が出てこなかったので、「見た目」としている)の男性は助手席に座って、すでにカクカクと眠りかけていた。

「みなさん、あちら(の駅)で初めて会われたわけですね」

俺が聞くと、若者が答えた。

「そうなんですよ、こういうのって珍しいですか?」

「いや・・・よくあるわけでもないですけど、まああると言えばありますよね」

泥酔の度合いとしては・・・マックス10として、20代が3、50代が6、40代が9ぐらいの感じである。

「いやぁ・・・あそこまで乗り越したのは初めてやわ」

50代が言うと、

「・・・」「・・・」

残りの2人は沈黙

「ということは、お2人とも何度かあそこまで・・・(乗り過ごした経験があるんですか)」

「ハハハ・・・」「カクンカクン・・・」

どうやら20代は(乗り過ごし)経験ありのようだが、助手席の40代は半分寝ていて聞いてなかっただけのようである。

そんな状況から、

会話は、主に後部座席に座った50代と20代で進められていった。

「(家は)どちらなんですか?」

若者(20代)が聞くと、

「XX台のあたりですわ。運転手さん、山の方から行ってもらえます?」

「わかりました・・・お二方は?」

俺が聞いた。

「市役所のあたりです」

若者が答えると、

「わたしは・・・山を降りたあたりです!」

寝ていたと思っていた助手席の40代が、半ば叫ぶように言った。

一体どこの「山」のことを話してるんやろう・・・(夢で登山してるんやないかと思うよな)

少し心配になったが、

 「それなら(近道の)山の方から行きましょうか」

とルート決定した。

助手席では、先ほどの発言が信じられないくらいにスヤスヤと寝息が聞こえていた。

「それにしても君若いね、歳いくつ?」

後部座席で、管理職風の50代が若者に話しかける。

「28です」

「28か!いやぁ・・・いいねぇ。これから楽しいことぎょうさんあるやろなぁ」

うーん・・・俺も40近くなると、そうやって言いたい気持ちはわかるが、

自身が20代後半になったときは、

もうこんな歳になってしまった

と思ったものだが、

「いや、もうそんなに若くもないですよ。仕事が楽しくなってきたら、『やばい・・・(歳取った)』と思いますよね。ハハハ」

「『仕事が楽しい』か。いいなぁ、いいこと言うねぇ。ところで、ご結婚は?」

「仕事が楽しい」の一言にすっかりこの若者を気に入ってしまったらしい、この50代の男性は、おそらく職場であまり空気の読めていない部長さんという感じである(何を根拠にそういうこと言うかなぁ・・・)。

「まだ独身です」

「独身?そうか!実はわたしね、29になってまだ結婚できない娘がいるんですよ」

部長やっぱり見た目よりかなり酔ってるのかなぁ

ストレートすぎるでしょう

もし万が一・・・ほんまに「万が一」やけど、この若者が娘さんに興味を示したとして、一体なんて説明するんよ。

「実は酒飲んで電車乗り過ごしたときに、タクシーの中で28歳の感じの良い青年と出会ったんだ。会ってみないか?」

そして万が一、万が一やけどその縁談がうまくいったとき、娘さんは馴れ初めを聞かれたら、

「父がお酒飲んで電車乗り過ごして、タクシーの中で今の主人と出会ったのが始まりなんです」

いや俺タクシー運転手やけど、そんな「始まり」いややなぁ。

しかし幸か不幸か、わかっているのかいないのか、若者の答えは素っ気なかった。

「そうなんですか」

すると突然、寝ているはずの助手席の男性が、

「私も独身です!」

と叫んだ。

俺を含め車内は異様な空気に包まれた。

恐る恐る、隣りに目を向けると、

何事もなかったように、頭を垂れてスヤスヤと眠っている

こういうとき、驚きの次にこみ上げてくる笑いを抑えるのは運転手をやっていて最も苦しい時間の一つである。

ここで笑ったらやぱい

俺と、恐らく後部座席の若者も同じ気持ちやったやろう。

車内にしばし沈黙が流れた

うまく流したはずやったKY話をやり過ごすためなのか、

若者はちょっと話を変えた。

「この辺(に住んでるの)は長いんですか?」

部長さんは虚を突かれたように、

「えっ?いや・・・結婚してからはずっとこっちやから、30年近くなるかな。出身は奈良やけどね」

「そうなんですか。それなら奥さんがこちらなんですか?」

「そうやね、元々はね。今はあっち(奥さんのご両親)も岡山に越してしまったけどね。君は?」

「ぼくは生まれも育ちも兵庫県です。大学もこっち(関西)でしたけど・・・今度実は東京に転勤になったんですよ。4月から」

はぁー、もうそういう時期になったか。

転勤組って、何かとタクシーに乗ることが多いみたいで年度末になるとこういう話よく聞くんよね。

「そうか!東京か・・・いいねぇ」

これで部長も娘の縁談はとりあえず諦めたやろう。

「東京とか、(勤めた)経験あります?」

「わたしも何年か広島で仕事したことはあるからね。でも、やっぱり東京は違うよ」

広島って・・・全然反対やん。

東京を語るにあたって出す話やない気がするけど。

「違うって・・・どういうことなんですかね」

どうやら若者は真面目に人生の先輩の話を聞きたいようである。

年齢的にも環境が変わることに恐らく不安を感じているんやろう。

「うん・・・ところで君はどういう仕事をしているのかな?」

「経理です」

なんかかみ合ってないなぁ。

この場合部長は「仕事の内容」を聞いたんやなくて、「業界」を聞いたんやないの?

「そうか・・・東京が何が違うかって、やっぱり市場が大きいからねぇ」

東京が「(関西に比べて)市場が大きい」のは確かやけど、

経理の仕事にマーケットボリュームはあまり直接関係ない気がするけど、

恐らく部長は営業職なんやろね。

「市場が大きい、というのはどういうことなんですか?」

この質問もどうかなぁ・・・聞かんくても、そのまんまの意味やないの。

「市場が大きいというのはねぇ・・・やっぱり人口が多いっちゅうか・・・・」

後部座席の会話も行き詰まってきたなぁと思いつつ。

とりあえず最初に降りる予定の目的地に近づいてきたので、

「えっと・・・この辺ですかね」

運転手が会話に口をはさむ。

「あっ、悪いけど(遠回りになるけど)ちょっとその信号右に曲がってくれる?」

「はい、わかりました」

「雨降ってるし、ごめんね。家(マンション)の前まで付けてくれる?」

別にどの道を取ろうと、俺には関係ないわけやけど、

「この辺でよろしいですか?」

「うん、ありがとう」

そして部長は若者に4千円を渡す。

「東京でもがんばってな。これ、少ないけど取っといて」

なんか餞別みたいに言ってるけど。

それ、普通に割り勘のタクシー代やん。

2 件のコメント:

  1. ドライバーさんへ


    助手席担当が一番爆睡ってどうなんだろー。

    このお話の続きが楽しみなんですけど、
    待っていてもいいですか?

    コメントしておけば、きっと優しいドライバーさんの
    事だから、続きをアップしてくれそうと思って。

    あ~楽しみだなぁ。

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    1. ありがとうございます!

      この続きですか・・・この後、この助手席の客は意外とすんなり起きたんですよね。

      確かに、話長いわりにイマイチ「おち」のパンチが弱いかもしれません。しかし一応実話なので・・・

      タクシー内の面白い話は日々いくらでもありますよ。またちょくちょく書いていきます(個人情報に触れん程度に頼むで)

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