2025年12月15日月曜日

タクシーストーリー⑩ 自動車学校

 9月になっても夏は終わらない

そんな時代になりつつある

会社から渡された書類を揃えて、

入社手続きをした

「今はまだ学生さんが多いから、なかなか予約取りにくかったんやけど」

事務所の女性が9月下旬からの自動車学校の予定表のファイルを渡してくれた

合宿になるので入校は月曜日で、うまくいけば次の月曜には卒業出来るらしい

「(卒検に)失敗する人とかいるんですか」

「うーん…まあ、7,8割は予定通り卒業されてますよ」

まあまあプレッシャーのかかる数字である

学校は徳島らしい

「どうします?車で行かれます?バスなら交通費は出ますが」

自家用車で言った場合は交通費は出ないらしい

「それなら、バスで行きます」

明石の橋はそれなりに通行料かかるし、宿舎は学校の隣のようやから、車使うこともないやろう

「分かりました。高速バスのチケット取っておきますね」

何年ぶりの自動車学校やろ

それより、1週間後の入稿日まで何しよか

今までほとんど休みなどなかったから、休みがあっても何して良いか分からない

保証人問題で夫婦関係もギスギスしてるから、旅行というわけにもいかないし、

この機会にゴロゴロしようか

などと考えていた


12月14日(日) 74,550 51回

日曜出勤

12月もこの時期になると、

もう曜日関係なく、絶え間なく仕事はある

自分で休憩とるか、がんばるか

無理すれば一日中走りっぱなしである

そんなのも楽しいけど、

飛び出してくる自転車とか、子供とか、おっさんとか…

とにかく事故には気を付けよう



2025年12月13日土曜日

タクシーストーリー⑨ 退職

結局嫁さんは保証人を最後まで断り、

田舎の父親と、姉に保証人をお願いした(母親は数年前に亡くなっている)

後に分かったことだが、

タクシーって、独身が多いことは多いのだが、

もちろん過去に奥さんと別れて独身の人もいるし、

ルーザー的なイメージは、確かにあるわけだが、

奥さんのいるドライバーは意外と仲が良い

タクシーに乗っていると、

実車中(お客さんを乗せているとき)を除けば、

いつでも連絡がつくし、

休みも多いので、家にいる時間も長い

事業に失敗したとか、

前の職場で人間関係に苦しんで業界に入ってきている人も多いが、

家族との時間を多く取るためにタクシーに乗っているドライバーもいるようである

要するに、

嫁が身元保証人にサインしてくれないようなケースは、

これも後から知ったことだが、

珍しかったようである

そんなこんなで、今の会社に規定の2週間を空けて退職願いを出し、

そのうち1週間は有給消化して(結局有給20日ほど捨てることになった)、

円満退社とは言えないのかもしれないが、

ただ曲がりなりにも10年以上勤めあげた会社の出勤最後の日にも、

未練は全くなかった

1か月くらい先には、自分がひとりでタクシーに乗っていることを考えると、

正直ワクワクしていた


12月12日(金) 80,040 48回

12月第2金曜日

タクシーにおいて、1年で最も売上が上がりやすい日と言える

期待通り、一日中よく動いたし、

単価も良かった

ただミドル(5千円以上)はなし、

ロング(9千円以上)は1回だけやった




2025年12月11日木曜日

タクシーストーリー⑧ 身元保証人

 面接は合否というより、

「こちらは是非入社して頂きたいと思っています。山元さんが今の職場をやめて、うちに来る気があればこちらの書類を揃えて持ってきてください」

面接の直後に入社書類を渡された

履歴書が嘘だらけかもしれないのに、身辺調査もせずに内定がくだされたわけだ

※実際はタクシー会社でも、大手などは直近の職場等に身辺調査をすることはあります

家に帰って、A4封筒に入っている書類を開けると、

まあまあのボリュームやった

主には入社前に通う自動車学校の資料やった

1枚づつ見ていくと、

身元保証人(2名)

という用紙があった

その日の夕食のときに、嫁さんに資料を見せた

「なにこれ?」

「いや、自動車学校の費用や、入社時に祝い金なんてのももらえるから、すぐやめて逃げる人もいるらしいねん。そんで…(保証人が)必要なんやって」

「それ(保証人)をわたしに?」

「まあ、普通は嫁さんがいたらそうなるやろ」

「わたし、こんなん書かへんで」

「えっ?」

「タクシーなんて、反対言うたやん」

「俺が金払わず逃げるとでも思ってるのか?」

「そういうわけやないけど、タクシーって聞いただけでなんかゾッとするわ」

「……」

「なぁ、今からでも考え直してくれへん?」


12月10日(水) 65,920 32回

今日は午前中は観光の仕事やった

神戸灘の酒蔵めぐり

酒蔵に連れて行って、駐車場で待ってるだけ

中まで同行して、説明出来たら良いのだが、

そこまでするにはかなり勉強せなあかんし、別料金ももらわなあかん

タクシー代だけでも、まあまあするのに(3時間21,800円)

それ以上の価値を提供して、需要があるかどうかやな



2025年12月9日火曜日

タクシーストーリー⑦ 面接 志望動機

 「えー、…あと、そうそう、タクシーに乗ろうと思ったのはなんでかな?」

社長の最後の質問やった

一体この面接はなんやろう

ここまで1時間近く面接時間を使ってきて、

ここに来て、この質問か

面接始めから、勤務形態とか、勤務時間の制限の話やら、

日報まで見せてくれて、日報の書き方まで説明があったが、

真っ先に聞かれるべき質問が最後に来た

もちろん答えは用意していたが、

14時から始まった面接は1時間の予定で、次も控えているようやった

簡潔に答えた

「はい、街を走っているタクシーはよく見るんですが、縛られた感じがなくて、自由に見えたんです。今まで決められた業務と時間に追われて、いつのまにか常に上司や部下の顔色見ながら仕事をしていたんですが、そういう世界とは全く違った空気を感じました」

白髪の社長は真剣にこちらを見つめていた

「ほぅ…、面白いな」

「…」

何が面白いんやろ

「今まで何人もこうして面接して、志望動機を聞いてきたが、意外とその言葉を出す人はいないんやな」

「その言葉?」

「自由」

「…」

「正解や。よく見とるわ。タクシーは自由やで」

「はい」

「しかし、自由は裏返せば、放任であり、孤独であり、仕事面でも収入面でも寄りかかる壁はない」

「…はい」

「それを楽しめるかどうかや」

面接の途中までは、他社のことも考えながら聞いていたが、

ここに決めようと思った


12月8日(月) 66,820 47回

少し年末らしくなってきた

日中から夕方にかけては、ほぼ停まる時間もないくらい忙しい

夜も年末らしく変な客が出てきた

行き先を言えない(くらい酔っぱらった)客

風呂に入ってないのか、とてつもない匂いを発してる客

あまりにひどいので、

「ちょっとかなり匂いがきついんで、次のお客さんも乗せられなくなってしまいますし、次回は受けられませんよ」

と伝えると、

「名誉棄損や!警察呼べ!」

「…わたしは(余計な時間かかるだけなんで)呼びませんよ。呼びたかったら降りてから自由に呼んでください」




2025年12月6日土曜日

タクシーストーリー⑥ 面接続き

 「今まではどんな仕事してたんですか?」

考えてみれば、相手にとっては一番重要な質問であるが、

面接もそろそろ終わりかと思ったときに、社長が問いかけてきた

ここまでは、課長がクシーの仕事や教習の内容などの説明を一方的に説明するのを聞いていた感じであった

回答は少しは用意していた

「今まではスーパーでの仕事が長かったです。基本はレジ打ちや品出しですが、最終的には店長として仕入れや値付けなども行っていました」

「そこまで任されたら、それなりにやりがいもあったんやないですか」

「はい。自分なりにはやりがいを感じていた部分もありますが、そこに対する評価はほとんどなかったですし、ミスに対する突っ込みは容赦なかったです」

「店長として、下のもんの責任も負わされたりするんやろな」

「はい、その通りです」

「楽しくなかったか」

「まあ、…はい」

「収入は?履歴書には書いてないか」

隣に座っている課長に振る

「はい、記載ありません」

課長が事務的に答える

「給料はどのくらいもらってたんですか?」

聞きにくい質問なんだろうが、社長はストレートに聞いてきた

「はい…年収は400万を少し超える程度ですが…収入面でそれほど問題はなかったんですが」

「ハハハ!収入に問題ないのに辞める奴はおらんよ。ストレスの大きい仕事でも、それなりの収入があれば、人は我慢するもんや。もちろん限度はあるけどな。聞いたところ、あなたが今の職場で感じているストレスは、悪いけど一般企業で中間管理職が感じている『普通の』ストレスやろな」

ズバっと言うな

このくらいから、少しづつこの社長に信頼というか、リスペクトを感じ始めていた

「そうなんでしょうか…、そうなんでしょうね」

「給料が少なすぎたいうことや」

社長が笑顔を振ってきたので、こちらもぎこちない笑顔を返した

「まあ、心配せんでも良い。あなたが今もらっているくらいなら、(タクシーで)それを下回ることはないやろ」

白髪の社長はもう一度笑顔を振ってきた

「あなたにとって、タクシーの仕事はきっと楽しくて仕方ないやろな」

今度は笑顔を返すことは出来なかった


12月5日(金) 67,550 48回

12月最初の金曜日

少しは期待して出たものの、

やはりというか、

12月はじめは良くない

20年以上この業界にいると、分かってはいても12月という響きに期待してしまい、

そのギャップにショックを受ける

まあまあ、だんだんと上げてくるやろ



2025年12月2日火曜日

タクシーストーリー⑤ 面接

面接は見た目80歳くらいの社長と、

課長と呼ばれている管理者の男性の2名がソファの向こう側に座って行われた

ザラザラとした、なんとも言えない古い素材のソファには、誰のものとも思えない髪の毛がそこここに付いていた

「えー…と、タクシー経験はないんですね」

履歴書を見ながら、神経質そうな課長の第一声はタクシー経験についてだった

「はい」

「いえ、構いませんよ。免許はうちが費用を負担して取得出来ますから」

3か月ほど散髪に行っていないような、中途半端に伸びた髪を触りながら、不自然な笑みを浮かべて課長は言った

「あのー…、免許を取らせてもらった場合は、何年かは縛りがあるんですか…」

「1年半です。それ以内に退社された場合は申し訳ありませんが、免許取得にかかる費用は負担してもらうことになります」

やはりそうか

「その場合の費用はいくらくらいになるんですか?…いえ、あの、当然すぐに辞めるつもりはありませんけど」

「はい、ご心配は分かります。費用は教習中に支払われる1日1万円の手当も含めて30万程度になるかと思います。入社1年を過ぎたらそれが半額になります」

30万か…

壁を見上げると、運送約款だとか、運行管理者の資格証などの類の額がバランス悪く飾られている

2年もこの会社にいるイメージが湧かなかった

タクシーはこの会社だけではない

ここはやめておこう

と思ったとき、ここまで隣で座っていただけの、白髪の社長が初めて口を開いた

「いらんよ」

「はい?」

課長が驚いたような顔で横に座っている社長に顔を向ける

「半年で辞めても、1か月で辞めても、免許の金は返さんでも良い。一度タクシー乗ってみたら良いわ。君みたいな年齢から乗り始めたら、きっとすぐに辞める気にはならんよ」


12月1日(月) 51,730 41回

いよいよ12月

初戦は惨敗やな

朝から日中の動きは悪くなかったが、

夕方から夜はひどかった






2025年11月29日土曜日

タクシーストーリー④ 会社訪問

目の前にあるのは、面接に来た会社の社屋というより、

小屋であった

いつの時代に作ったのだろう

ベージュが煤けたようなトタンの壁に、窓には元の色が分からないようなグレーのカーテンがかかっている

暗い…

それが第一印象やった

入口のドアというより、建付けの悪いプレハブの引き戸のようなものを軽くノックした

返事がない

よく見ると、引き戸の横に、バスの「次降ります」みたいな小さなボタンがあった

インターホン…?

ボタンを押してみる

「はーい!」

年配の女性の返事が建物の中からした

反射的にそこから逃げ出そうという強い想いに駆られた

「どうぞ!」

寝間着のような薄いピンクのニットを着た小柄なおばちゃんが引き戸を開けた

一瞬逃げ遅れた


11月28日(金) 77,210 35回

昨日から神戸阪神地区の運賃改定(要するに値上げ)が行われたが、

個人的には新料金初日

普通によく上がるが、値上げに気づいた利用者は微妙な空気もあった

営収を作るのがかなり簡単になった印象がある

これからタクシーはどんどん良くなっていくんやろな

という実感があった

利用者、行政に感謝