初乗務の日は何が起こっているのか分からないまま過ぎて行ったが、
1週間ほど経つと、分からないなりに
「分からない」ということがためらいなく言えるようになって、
1ヶ月ほど経つと、対処の方法というか、
要するに乗客に聞いたら良い
ということが分かってきた。
もちろんタクシーなのだから、道を良く知っていなければいけないのは当然であるが、
ほとんどの乗客は自分の行き先を知っているもので、
上手に情報を引き出すことが重要であり、
うまくコミュニケーションが取れないと、
「タクシー運ちゃんのくせに道知らへんのか!」
となる。
しかし結局はこういう客は「分かります」と言っても、
「お前『分かる』言うたのに分かってへんやんか!」
どんな道を通っても突っ込んでくるものであることが分かってきた。
要するに、「コミュニケーション」であって、
「お客さんよく道知ってはりますねぇ・・・」
「この道から行けるんですかぁ、知りませんでした」
なんて持ち上げたら、ご機嫌になったりするものである。
もちろん、そんなことが分かるのは何年か先のことだが・・・
そんなことが「少しだけ」分かり始めた6月のある日のことだった。
日も長くなってきた頃だが、19時を過ぎてさすがに日も陰り始めた松屋町筋で、
若い女性が手を挙げていた
夕方の大阪は北向きは渋滞することが多く、南向きに走った方が良い
ということを先輩から教えてもらえるほどに車庫(会社)でもコミュニケーションを取れるようになっていた。
車を停めて、ドアを開けると女性が乗り込んできた
黒いブラウスと膝下までのジーンズにカジュアルなサンダル履きの女性は、髪が黒く・・・
髪が黒いのは当たり前だが、それにしても「黒いな・・・」と思えるほど鮮やかに黒く、
吸い込まれるような大きな瞳をしていた。
「あの・・・どちらへ行かれますか?」
美人というわけでもなかったが、妙にドキドキしたのは女性の胸が思ったより大きかったことだけが理由ではなさそうだった。
「あの・・・神社へ・・・神社へ行ってもらえますか?」
「神社??どちらの神社ですか?」
「分からないんですけど・・・」
「分からない??」
女性は一枚の写真をバッグから差し出した。
「この神社なんですけど」
俺は写真をじっと見た。
タクシー運転手なら写真だけでも分かるものなのか・・・
いや、分かるわけがない
しかも、どう見ても大阪市内の神社には見えない。
「ちょっと写真だけでは分かりませんけど・・・」
「そうですか・・・とりあえず走ってもらえますか」
「とりあえず・・・まっすぐ南向きに走ったらよろしいですか?」
「はい」
少しの間会話もなく走った。
基本的に客から切り出さなければ、話はしない方が良いということも分かってきた頃だった。
「タクシーとか、長いんですか?」
女性の大きな瞳がバックミラーに映って、思わず目をそらした。
「いや、実はまだ乗り始めたばかりの新人なんやけど・・・」
「そうなんですか・・・」
「あの・・・結局どこへ行ったら良いんかな?」
年下に見える女性に自然と口調もタメ口になっていた。
「あの・・・わたし探してるんです」
「探してる?何を?」
女性が下を向いたので、自分もバックミラーに目を向けた。
「わたしの子ども・・・」
「子ども?」
背筋に冷たいものが走った。
「さっき見せたあの写真の神社にいる・・・はずなんです」
1週間ほど経つと、分からないなりに
「分からない」ということがためらいなく言えるようになって、
1ヶ月ほど経つと、対処の方法というか、
要するに乗客に聞いたら良い
ということが分かってきた。
もちろんタクシーなのだから、道を良く知っていなければいけないのは当然であるが、
ほとんどの乗客は自分の行き先を知っているもので、
上手に情報を引き出すことが重要であり、
うまくコミュニケーションが取れないと、
「タクシー運ちゃんのくせに道知らへんのか!」
となる。
しかし結局はこういう客は「分かります」と言っても、
「お前『分かる』言うたのに分かってへんやんか!」
どんな道を通っても突っ込んでくるものであることが分かってきた。
要するに、「コミュニケーション」であって、
「お客さんよく道知ってはりますねぇ・・・」
「この道から行けるんですかぁ、知りませんでした」
なんて持ち上げたら、ご機嫌になったりするものである。
もちろん、そんなことが分かるのは何年か先のことだが・・・
そんなことが「少しだけ」分かり始めた6月のある日のことだった。
日も長くなってきた頃だが、19時を過ぎてさすがに日も陰り始めた松屋町筋で、
若い女性が手を挙げていた
夕方の大阪は北向きは渋滞することが多く、南向きに走った方が良い
ということを先輩から教えてもらえるほどに車庫(会社)でもコミュニケーションを取れるようになっていた。
車を停めて、ドアを開けると女性が乗り込んできた
黒いブラウスと膝下までのジーンズにカジュアルなサンダル履きの女性は、髪が黒く・・・
髪が黒いのは当たり前だが、それにしても「黒いな・・・」と思えるほど鮮やかに黒く、
吸い込まれるような大きな瞳をしていた。
「あの・・・どちらへ行かれますか?」
美人というわけでもなかったが、妙にドキドキしたのは女性の胸が思ったより大きかったことだけが理由ではなさそうだった。
「あの・・・神社へ・・・神社へ行ってもらえますか?」
「神社??どちらの神社ですか?」
「分からないんですけど・・・」
「分からない??」
女性は一枚の写真をバッグから差し出した。
「この神社なんですけど」
俺は写真をじっと見た。
タクシー運転手なら写真だけでも分かるものなのか・・・
いや、分かるわけがない
しかも、どう見ても大阪市内の神社には見えない。
「ちょっと写真だけでは分かりませんけど・・・」
「そうですか・・・とりあえず走ってもらえますか」
「とりあえず・・・まっすぐ南向きに走ったらよろしいですか?」
「はい」
少しの間会話もなく走った。
基本的に客から切り出さなければ、話はしない方が良いということも分かってきた頃だった。
「タクシーとか、長いんですか?」
女性の大きな瞳がバックミラーに映って、思わず目をそらした。
「いや、実はまだ乗り始めたばかりの新人なんやけど・・・」
「そうなんですか・・・」
「あの・・・結局どこへ行ったら良いんかな?」
年下に見える女性に自然と口調もタメ口になっていた。
「あの・・・わたし探してるんです」
「探してる?何を?」
女性が下を向いたので、自分もバックミラーに目を向けた。
「わたしの子ども・・・」
「子ども?」
背筋に冷たいものが走った。
「さっき見せたあの写真の神社にいる・・・はずなんです」
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