「ガ、ガ、ガー・・・あのときの・・・神社まで来てもらえますか」
無線機を握って応答しようとしたが、思いとどまった。
携帯電話でオペレーターに電話を入れる。
「あの・・・今配車ありました?」
「え??なんの?」
「いや、あの、無線鳴ったんですけど、ちょっと聞き取りにくかったんで」
「はぁ・・・きっと近くの無線が混線してるんやろ」
アナログ無線では、「混信」というのがしばしば生じる。
周波数や物理的な距離が近かったりすると、他の交信が入り込んでくるのだ。
それに比べて、デジタル無線は基本的に電波変調が暗号化されるために混信は生じない。
※2016年5月までにすべてのタクシー無線のデジタル化が義務付けられている。
それからは瓦町周辺を通過する度に、女性の声が「混信」してきた。
「ガ・ガ・ガー・・・こんばんは・・・今日は来てもらえますよね」
俺は無視して走った。
というより、応答のしようがない。
無線を使って応答すれば、当然オペレーターに通じることになる。
それならそのエリアを避けて走れば良いのだが、
俺は敢えて松屋町筋を走った
仕事的になんとなくリズムが掴めたことと、
やはりどこかでその女性の声が気になっていた
あの女性かもしれない・・・
梅雨の始まったころだった。
乗ってきた女性は行く先も言わずに写真を差し出した。
「この神社へ行ってもらえますか」
新人だった俺は、どうして良いかも分からずに、とにかく車を走らせた。
「わたしの子どもがあの神社にいるんです」
少し話を聞くと、女性の子どもさんは病気で亡くなったらしい。
それなら神社でなく、寺院(墓地)なら分かるのだが・・・
女性の見た目は20代前半
とにかく話を聞いてほしい
という空気が背中に重くのしかかっていた。
「あの・・・若い頃にお子さん産んだんやね」
どこまでの会話が失礼になるのか不安もあったが、
何より行き先を言わずにタクシーに乗ってくること自体が「失礼」やないか。
という開き直りもあった。
「いえ、子どもは産んでません」
「え??どういうこと?」
「神社で子どもが待ってるんです」
俺はルームミラーを見た。
しっかりとした目で前を見据えている姿は妙に美しかった
しかし美しかろうと何だろうとこれ以上異常者の相手をしている暇はない。
一応俺は「仕事」をしているのだ。
俺は車を左に寄せて停めた。
「一応ここ有名な神社(生国魂神社)だから、ここでお子さん探してみたらどう?」
後部座席で女性は外を見つめていた。
こんな女性と、出来るならもう少し空間を共有したかった
もし女性が「正常」であれば・・・
仕事である限り、金をもらえなければ時間とか空間とかロマンチックな話をしている場合ではない。
「660円になります」
大きな500円玉の行灯を乗せたタクシーが隣を通過した。
大阪が「安売り戦争」に突入していく頃だった。
女性は財布から千円札を出した。
その瞬間(もう大丈夫と)俺はドアを開けた。
「これでコーヒーでも飲んでや」
釣りを要求せずに、女性は車を降りた。
その行動と、その口から発せられた言葉があまりにもイメージとかけ離れていたので、
俺はしばしその場所から動けなかった。
開いたドアから湿った風が入ってきた。
無線機を握って応答しようとしたが、思いとどまった。
携帯電話でオペレーターに電話を入れる。
「あの・・・今配車ありました?」
「え??なんの?」
「いや、あの、無線鳴ったんですけど、ちょっと聞き取りにくかったんで」
「はぁ・・・きっと近くの無線が混線してるんやろ」
アナログ無線では、「混信」というのがしばしば生じる。
周波数や物理的な距離が近かったりすると、他の交信が入り込んでくるのだ。
それに比べて、デジタル無線は基本的に電波変調が暗号化されるために混信は生じない。
※2016年5月までにすべてのタクシー無線のデジタル化が義務付けられている。
それからは瓦町周辺を通過する度に、女性の声が「混信」してきた。
「ガ・ガ・ガー・・・こんばんは・・・今日は来てもらえますよね」
俺は無視して走った。
というより、応答のしようがない。
無線を使って応答すれば、当然オペレーターに通じることになる。
それならそのエリアを避けて走れば良いのだが、
俺は敢えて松屋町筋を走った
仕事的になんとなくリズムが掴めたことと、
やはりどこかでその女性の声が気になっていた
あの女性かもしれない・・・
梅雨の始まったころだった。
乗ってきた女性は行く先も言わずに写真を差し出した。
「この神社へ行ってもらえますか」
新人だった俺は、どうして良いかも分からずに、とにかく車を走らせた。
「わたしの子どもがあの神社にいるんです」
少し話を聞くと、女性の子どもさんは病気で亡くなったらしい。
それなら神社でなく、寺院(墓地)なら分かるのだが・・・
女性の見た目は20代前半
とにかく話を聞いてほしい
という空気が背中に重くのしかかっていた。
「あの・・・若い頃にお子さん産んだんやね」
どこまでの会話が失礼になるのか不安もあったが、
何より行き先を言わずにタクシーに乗ってくること自体が「失礼」やないか。
という開き直りもあった。
「いえ、子どもは産んでません」
「え??どういうこと?」
「神社で子どもが待ってるんです」
俺はルームミラーを見た。
しっかりとした目で前を見据えている姿は妙に美しかった
しかし美しかろうと何だろうとこれ以上異常者の相手をしている暇はない。
一応俺は「仕事」をしているのだ。
俺は車を左に寄せて停めた。
「一応ここ有名な神社(生国魂神社)だから、ここでお子さん探してみたらどう?」
後部座席で女性は外を見つめていた。
こんな女性と、出来るならもう少し空間を共有したかった
もし女性が「正常」であれば・・・
仕事である限り、金をもらえなければ時間とか空間とかロマンチックな話をしている場合ではない。
「660円になります」
大きな500円玉の行灯を乗せたタクシーが隣を通過した。
大阪が「安売り戦争」に突入していく頃だった。
女性は財布から千円札を出した。
その瞬間(もう大丈夫と)俺はドアを開けた。
「これでコーヒーでも飲んでや」
釣りを要求せずに、女性は車を降りた。
その行動と、その口から発せられた言葉があまりにもイメージとかけ離れていたので、
俺はしばしその場所から動けなかった。
開いたドアから湿った風が入ってきた。
我が社のタクシーは、デジタル無線です。
返信削除その為に、混信は無いですが、到達距離が短い。
したがって、自分の携帯電話かたの通話が増えます。
電話代までの給料分を貰っていません!
ところで、その「女性」は「男性」ですか?
気持ち悪い!
Goma Chanさん
削除ありがとうございます!
>ところで、その「女性」は「男性」ですか?
こういう視点嫌いじゃないですが・・・(好きなんやんな)
違いますよ!(よく突っ込んだ)