暗いロッカールームだった。
学科試験を終えた翌日に営業所へ行くと、2階のロッカーへ案内された。
汚いロッカーに手書きで書かれた自分の名前を見つめながら、
俺は本当にここでやって行けるんやろか・・・
という不安を感じた。
ロッカーを始め、営業所の簡単な案内をしてくれたのは、面接で同席していた小太りの男性で、主任の山岸さんという人だった。
山岸さんは見た目40歳くらいで、事務所のスタッフの中では若い方だったが、言葉は全て敬語でとっつきにくかった。
「何か質問はありますか?」
「特に(ありません)・・・。あぁ、あの山岸さんは運転手をされてたんですか?」
事務スタッフの中では、なんとなく「浮いた」感じがしていた。
「うん、ちょうど君くらいの年齢からかな。少しの間運転手をしていたけど・・・」
「何で運転手になったんですか?」
山岸さんは始めて少し笑顔を見せた。
「その質問はここではあまりしない方が良いよ。延々と前職の話をされるか睨まれるかのどちらかだから。私の場合はいろいろあってね。でも運転手になって良かったと思ってるし、今でもいつか運転手に戻りたいと思ってるよ」
それ以上の答えはいらなかった。
山岸さんは続けた。
「今日からここで地理研修や簡単な法令や無線の説明をして、その後タクセン(タクシーセンター)で適正検査と地理試験の流れになります。研修は合わせて約10日間、うまく行けば来週には運転手としてデビュー出来ると思うよ」
地理試験?まだ試験あんのか。
「地理試験て難しいんですか?」
「君大学出てるらしいね」
「はい・・・一応」
「大学でどんな勉強してきたか知らないけど、地理試験では何の役にも立たないと思った方が良いよ。御堂筋は知ってる?」
敬語から徐々に管理者的口調になっていったが、不思議と圧力は感じなかった。
「(御堂筋くらいは)はい、もちろん」
「それじゃ、御堂筋と(国道)2号線が交わる交差点は?」
「梅田新道ですか」
「ほぉ、さすがやね。それじゃ新御堂と2号線の交差点は?」
「え?あの・・・わかりません」
「ははは、ちょっと意地悪な問題やったね。まず新御堂と2号線は交わらない。梅田新道で2号線は終わって、新御堂と交わるのは(国道)1号線やからね。交差点の名前は『梅新東』」
「はぁ・・・」
「君も今までいろんな勉強をしてきたやろけど、ときどき『なんで、こんな勉強せなあかんのやろ?』って考えたことあるやろ。そんなことを全く感じないのが地理試験の勉強や。満点目指してがんばってみ」
「分かりました」
「さあ、ちょっと周辺ドライブしてみよか。明日から同じ新人さんが来るから、その人といっしょに研修することになるけど」
「新人さん」?俺は教習所でいっしょだった女性を思い浮かべた。
「あの・・・その方ってもしかしたら女性ですか?」
「いや、56歳の男性やけど・・・そう言えば、来週女性が入る言うてたね。君と同じときに学科通ったけど、今週用事で来れへんらしいわ。残念ながら」
俺は一人暗いロッカールームに戻った。
名古屋です!
返信削除ついに、仕事をやめて、タクシーに就職。本日、無事に二種を取得しました。
これから、名古屋の情報を発信できまらなっとおもいます\(^_^)/
コメントありがとうございます!
削除タクシー王国、名古屋の情報待ってます。