駅に入ると、カジュアルなジャンパーを来た年配の男性がタクシー乗り場で一人待っていた。
人身事故で電車が止まって、駅には行列が出来ていると思って入ったのに、待っていたのは一人だけ。
時間的にも電車のトラブルで取引先への訪問が遅れたスーツ族を想定していたのに、全てが想定外だった。
「XXまで」
乗車してきた男性の行く先は郊外の工場集積地の大企業工場で、それもまた想定外だった。
「分かりました」
「いやー、ひどい目にあった」
「電車ですか」
「あぁ、代替バスに乗って、(30分のところ)2時間もかかったわ」
「それは大変でしたね…」
男性はやっと駅からタクシーに乗れて安心したのか、饒舌に話し始めた。
「それにしてもこの辺は食うとこないな。どこ(の店)入ってもまずい!XXもあかんし、XXの中華丼は米がまずくて上の餡だけしか食べれんかった」
「(ちょうど通過していた)この店はおいしいですよ」
「(駅から)こんなとこまで歩けるか!」
「そうですね…」
それにしても、どう見ても休日に遊びに来た感じに見えるのだが、行き先が企業とは…しかも駅から6~7キロほどの距離である。
「(今日は)仕事ですか?」
「そうや。でも(今9時過ぎで)10時過ぎまでやから、行ってもほとんど終わりやけどな」
「あぁ…製造現場ですか?」
「いや、配送の管理やけど…まあ(今日は)どうでもええわ」
「…??」
「今日が最後やねん」
「えっ!」
タクシーに乗ると、こういう瞬間に出くわすことがあって、その会話や、話す表情なんかは日常では見られないものである。
「今日が最後やから、仕事より荷物まとめとかな。そういうのや」
「あぁ、長いこと勤められたんでしょうね」
「あぁ、でも、もうええわ。十分やわ」
この辺からはちょっとルームミラーが見られなくなった。
乗車してから怒涛のように話続けていた男性は少し沈黙していた。
「これからは家でゆっくりされるんですか?」
「まあ、そうやな。食うことくらいしか楽しみないから。昼間からうろうろ店屋探して歩くわ(笑)」
「おいしい店探してくださいね」
「うまい店なんかあるか!まずいとこばかりや(笑)」
会社のゲートに入ると、従業員の入り口につけた。
「2,XXX円です」
「はい、ありがとな」
「領収書は?」
「そんなもんいらんわ」
会社まで自腹でタクシーか…長いこと仕事してたら余裕出来るんかな。
3千円出されて、雰囲気的に釣りは要らん(チップ)と言われるかと思ったが、そんなこともなかった(下衆な期待すんな)。
男性の人生最後の出勤の後ろ姿を見送って、また駅に戻った。
人身事故で電車が止まって、駅には行列が出来ていると思って入ったのに、待っていたのは一人だけ。
時間的にも電車のトラブルで取引先への訪問が遅れたスーツ族を想定していたのに、全てが想定外だった。
「XXまで」
乗車してきた男性の行く先は郊外の工場集積地の大企業工場で、それもまた想定外だった。
「分かりました」
「いやー、ひどい目にあった」
「電車ですか」
「あぁ、代替バスに乗って、(30分のところ)2時間もかかったわ」
「それは大変でしたね…」
男性はやっと駅からタクシーに乗れて安心したのか、饒舌に話し始めた。
「それにしてもこの辺は食うとこないな。どこ(の店)入ってもまずい!XXもあかんし、XXの中華丼は米がまずくて上の餡だけしか食べれんかった」
「(ちょうど通過していた)この店はおいしいですよ」
「(駅から)こんなとこまで歩けるか!」
「そうですね…」
それにしても、どう見ても休日に遊びに来た感じに見えるのだが、行き先が企業とは…しかも駅から6~7キロほどの距離である。
「(今日は)仕事ですか?」
「そうや。でも(今9時過ぎで)10時過ぎまでやから、行ってもほとんど終わりやけどな」
「あぁ…製造現場ですか?」
「いや、配送の管理やけど…まあ(今日は)どうでもええわ」
「…??」
「今日が最後やねん」
「えっ!」
タクシーに乗ると、こういう瞬間に出くわすことがあって、その会話や、話す表情なんかは日常では見られないものである。
「今日が最後やから、仕事より荷物まとめとかな。そういうのや」
「あぁ、長いこと勤められたんでしょうね」
「あぁ、でも、もうええわ。十分やわ」
この辺からはちょっとルームミラーが見られなくなった。
乗車してから怒涛のように話続けていた男性は少し沈黙していた。
「これからは家でゆっくりされるんですか?」
「まあ、そうやな。食うことくらいしか楽しみないから。昼間からうろうろ店屋探して歩くわ(笑)」
「おいしい店探してくださいね」
「うまい店なんかあるか!まずいとこばかりや(笑)」
会社のゲートに入ると、従業員の入り口につけた。
「2,XXX円です」
「はい、ありがとな」
「領収書は?」
「そんなもんいらんわ」
会社まで自腹でタクシーか…長いこと仕事してたら余裕出来るんかな。
3千円出されて、雰囲気的に釣りは要らん(チップ)と言われるかと思ったが、そんなこともなかった(下衆な期待すんな)。
男性の人生最後の出勤の後ろ姿を見送って、また駅に戻った。
最後の出勤日ですか。
返信削除そう言えば、
「私のIT業界の最後の出勤日はどうだったかな?」
と、完璧に忘れております。
大変だった日々の事は鮮明に覚えておりますが。
実際は「最後の出勤」ではなく、この後もシルバーセンターの仕事とかいろいろあるのかもしれません。
削除どちらにしても過去は過去、今を楽しんで、前を向いていきましょう!
このような実話集がいいね。表現もうまい。幽霊の話はどうなったかな?
返信削除ありがとうございます!
削除実話集、なかなか難しいですが…たまには(笑)
しかし客との会話でも、昔話ばかりする人と、今の話、未来の話をする人と、聞く方はどちらも面白いのは面白いのですが、昔話ばかりしている人は未来はないかなと思ってしまいます。
人のふり見て、わが身を正せです。
幽霊か…